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医学界新聞


2024年

寄稿 矢﨑義雄,萱間真美,西田修,中込和幸,髙橋政代,自見はなこ,加藤聖子,土肥美智子,一二三亨,阿部幸恵,山本伸一,渡辺知保

2024.01.01 週刊医学界新聞(通常号):第3547号より

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東京医科大学 理事長

 新医師臨床研修制度が必修化されてからはや20年が経った。発足当初は,それまでの卒後の医師臨床研修が大学の医局を中心に行われていたことから,大学側の反発が強く困難もあった。しかし今は,大きな支障もなく制度が定着している。

 そもそも医師の卒後臨床研修は,インターン制度として1946年に始まったが,学園紛争により1968年に中止されて努力義務となり,その後もカリキュラムなどを制度化することもなく,大学がそれぞれ独自のプログラムにより卒後1年間の研修を行ってきた。しかし,1999年の患者取り違え事件をはじめとする重大な医療事故を契機として,医療に対する国民の安全意識が高まり,医師に対しても視線が厳しくなった。それに応えて,総合的な診療能力を習得するための医師の卒後臨床研修制度が必修化されることとなった。厚労省の下で制度設計を検討する委員会が設置され,私がその座長を務めるところとなった。そして2004年度に新たな医師臨床研修制度が発足した。くしくもこの年は,国立大学および国立病院が独立行政法人化されるなど,大きな改革が実施された年でもあった。

 新医師臨床研修制度では,それまでは医師が将来めざす専門領域に偏りがちであった研修カリキュラムを,医療安全確保の視点から総合診療能力の向上をめざしたカリキュラムに変更し,研修期間を2年間とした。研修内容も,内科6か月,外科と救急をそれぞれ3か月,産婦人科,精神科,および小児科をそれぞれ1か月の必修とし,残りの9か月を自由選択とした。また,研修の到達目標も設定した。特に,医師としての資質を涵養するとともに,研修に専念するために有給にしたこと,研修を卒業した大学にとどまらず,研修病院の提供する研修プログラムに自由に応募できるようにした制度設計が注目された。

 新しい研修制度の下,多くの研修医が研修先を大学から市中病院へと変更することとなった。その影響を大きく受けた大学からの要望もあって,診療科ごとの研修期間の変更が行われた。また,プライマリ・ケアを重視して,地域医療が新たに必修科目として追加されるところとなった。一方では,医師の診療科および地域における偏在が指摘され,特に地域偏在に対しての是正が社会的な課題となっていることも,臨床研修制度に大きな影響を与えている。

 さらに,2014年に日本専門医機構が設立され,新たな専門医制度が発足したことから,臨床研修制度も影響を受けるところとなった。本来の趣旨である「患者に寄り添う良き診療医を育成する」ことをめざし,今後も真摯に取り組んでいただければと念じている。

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厚生労働省医道審議会保健師助産師看護師分科会 会長
国立看護大学校 校長

 「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」が,30年を経て昨年初めて改定されました。生産年齢人口全体の縮小,地域や養成校における入学者の減少や需給バランスの変化,新興感染症等への対応,専門性の高い看護師の養成,訪問看護ステーションで働く看護職の養成とサポートにも触れています。また,魅力的な職業として生涯キャリアを発展させることのできる,学ぶ場と職場の環境を整備することについても詳細に記載されています。地域や職場の特徴によって,人材確保を巡る状況には大きな差が生じています。多様な立場から合意できる着地ポイントをともに探してくださった,関係の皆さまに心より感謝申し上げます。

 看護は他者に関心を寄せ,気持ちを想像して寄り添うことが求められる仕事です。もちろん科学的な思考や実践の根拠に自覚的な態度と技術も求められます。コロナ禍を経て,離職者の増加が現場を悩ませています。感情を動かされながらの仕事では,同僚との気持ちの共有を大切にしてきましたが,職場内のコミュニケーションには相変わらず自制が求められています。「エモい」「ヤバい」を職場の仲間と共有したいという願いに応えられる場は減少し,人間関係がつらいことも一因と思います。

 看護師といえば,心身の丈夫さを強調するイメージが通用した時代がありました。養成のプロセスや試験,そして職場でも,適応に時間がかかる人は門前払いするかのような試練を経験した人もいると思います。現在の人口縮小社会で価値を転換して人材を育てることができなければ,看護は間違いなく持続不能なサービスになることでしょう。企業の採用でも,動機づけの強い人だけを選び出そうとする活動は過去のものとなり,関心をもつ人材を採用過程でも育む視点でかかわることが求められています。

 看護師は小学生女子のなりたい職業ランキングでは,今日まで変わらず上位にあります。昨年の指針改定部会では,多様な立場を代表する委員の皆さまから,看護という仕事の尊重に基づいたご意見を頂戴しました。人にやさしくしたいと憧れる小学生時代の夢を損なわず,社会で育むことができたらと願います。学校も,職場も変わらなければなりません。本年が,人と人とのかかわりにやさしい,明るい年となりますように。

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一般社団法人日本集中治療医学会 理事長
藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 主任教授

 集中治療医学は,全身管理を臓器横断的なアプローチで行う専門性の高い学問です。日本集中治療医学会は,1999年に日本医学会93番目の分科会として認定された,まだまだ歴史の浅い学会ですが,本年2月9日に創立50周年の節目を迎えます。発足時は301人であった会員は,現在1万1000人を超えています。私はCOVID-19パンデミック襲来により社会が混乱の渦に巻き込まれる中,2020年3月5日に第5代理事長に着任し,社会的使命の重要性と危機感を持って活動してまいりました。

 集中治療は,1950年代にポリオの大流行があったヨーロッパで麻酔科医Ibsenが人工呼吸管理の必要な患者を一か所に集め,専属のスタッフにより陽圧式人工呼吸管理を試み好成績を収めたことが,そのルーツの一つとされています。折しも,COVID-19パンデミックにより,わが国でも集中治療の重要性が認識されることとなり,ECMOなどの最先端の管理を多くの国民が耳にすることとなりました。また,わが国の集中治療のレベルの高さとともに,医療提供体制の面からはその脆弱性も明らかになりました。

 日本集中治療医学会では,学会を挙げて,「レジリエンスの高い集中治療医療提供体制の充実」の実現に向けたさまざまな活動を精力的に行ってまいりました。おかげさまで,集中治療の重要性の認識は加速度的に向上し,医師届出票における「集中治療科」の追加,専門医機構における「集中治療科(領域)」のサブスぺシャルティ認定,診療報酬改定における集中治療関連の大幅な算定拡大などにつながったと理解しています。

 集中治療は,多職種連携のチーム医療が重要であることから,関連各方面のご協力を得て,各職種における日本集中治療医学会の認定制度を制定しました。昨年度は集中治療認証看護師,集中治療専門臨床工学技士が誕生しました。今春には,集中治療理学療法士が新たに誕生する予定です。これらの資格は,日本集中治療医学会の会員であることをあえて要件とせず,広く人材を育成することで,わが国の集中治療医療提供体制の充実と強靭化をめざしています。また,タスクシェア・タスクシフトを安全に推進するためにも非常に重要であると考えています。

 理事長就任後,学会本体の改革も進め,成熟した組織とするためのさまざまな取り組みを行ってきました。遅ればせながら,ダイバーシティ委員会やU35プロジェクト運営委員会を設立し,活発な活動が始まっています。研究支援制度の充実,各種ガイドラインの制作と普及活動,国際交流の活性化,他学会との協働,学術集会運営の大幅な改革,サマーキャンプの開始など,学会自体が大きなエネルギーをもって躍動している鼓動を感じます。創立50周年の節目に当たり,これからの50年を見据え,今後ともアカデミック活動の充実はもとより,社会における学会の「存在意義と果たす役割」を肝に銘じ活動してまいりますので,ご指導・ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いします。

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国立精神・神経医療研究センター 理事長・総長

 わが国の自殺者数は,失業率がはじめて4.0%に達した1998年に急増して3万人を超えました。その後,国を挙げてさまざまな自殺対策が実施されたおかげもあり,2009年より下降の途をたどってきましたが,新型コロナパンデミックが発生した2020年に,11年ぶりに上昇に転じました。それに呼応して,各種インターネット調査等によると,不安,抑うつといった心理的苦痛を抱える人々が増えて,その数はコロナパンデミック以前の2倍にも上ると言われています。この間,自殺に追い込まれた方や心理的苦痛を感じている人の多くが女性であり,また若年者であることが大きな特徴とされています。一方,新型コロナパンデミック以前に関しても,2020年9月に公表されたユニセフによる子どもの幸福度調査の結果によると,精神的幸福度について,日本は先進国38か国中37位だったと報告されています。

 新型コロナパンデミックに伴い,接触が制限される中,AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)から研究費の助成を受けて,私たちはオンラインでセルフメンタルチェック調査を行いました。その調査結果より,メンタル不調の度合いによって要支援者をトリアージし,AIチャットボットやオンライン相談を利用できるシステム(KOKOROBO)を立ち上げ,約20万人からアクセスしていただきました。しかし,メンタル不調が中等度と判定された方が69%に上ったのに対して,オンライン相談に訪れた方はその4%に過ぎないことがわかりました。メンタル不調を抱える方にとって,「いかにアクセスしやすいプラットフォームを作るか」は大きな課題と言えそうです。

 話は変わりますが,ニュージーランドのダニーデンという町で行われたバースコホート研究の結果,86%の住民が45歳までのいずれかの時点で,精神疾患の診断がつくことが明らかにされました(PMID:32315069)。これは,新型コロナパンデミック以前のデータであり,平常時においても誰もが精神疾患にかかる可能性があることを意味しています。ただし,大部分の方は医療サービスを受けることなく,日常生活の中で対処していることが想像されます。医療モデルから離れた,地域を支える家庭,学校,職場,自治体等の組織が連携して,子どもから大人までがアクセスしやすいプラットフォームを構築し,国民のメンタルヘルスの増進に寄与していきたいと考えています。

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株式会社ビジョンケア 代表取締役社長
神戸アイセンター 研究センター顧問

 網膜再生医療は安全性が確認され,今年は治療効果を判定するステージへと進みます。再生医療は薬と異なり,手術を伴い,細胞は体の中で微小環境にあわせて変化します。薬=治療ですが,細胞=治療ではなく,患者選択や手術法など医療側のノウハウが効果を決めます。

 筆者が研究センター顧問を務める神戸アイセンターの理念は「(医療だけでなく)あらゆる手段で視覚障害の課題解決を」です。同様に網膜再生医療の開発も,治験という既存のコースだけでは時間やコストが跳ね上がり,必ずしも良い治療とはならないことが見えていますので,あらゆる手段を駆使して治療にしようと進めています。既存の規制では治療の高額化と開発にかかる時間,企業の視点からはビジネスとしてなりたたないという問題点は希少疾患における遺伝子治療分野では既に明らかとなり,米国では規制改革の動きが始まっています。われわれが取り組んでいる網膜再生医療も1例目を行った際に,「これだけ新しい治療は開発方法も医療の仕組みも新しくしないと成り立たない。特に眼科医や学会が最初から入って開発しないと無駄が多く,あらゆる方法を駆使することが必要だ」と感じました。

 どのようにしたら早くうまく一般的治療法となるのだろう,と考える中で,日本には治験以外に病院が主導して行う先進医療や自由診療という枠組みがあることに気づきました。そのために神戸アイセンターという眼科だけの病院を2017年に立ち上げ,再生医療を熟知する臨床チームを作り,利益相反を管理しながら病院と企業が協力しつつ,さらに患者を交えて治療を作る体制を構築しました。網膜再生医療の臨床試験は順調に推移していますが,将来的に再生医療を広げていく段階では,現行の保険診療の中に高額な再生医療を大きく組み込むことは不可能です。イノベーティブな高度医療には別の財源を充てるなど日本の医療の良さを残して大きな改革が必要と考えています。

 研究を経て産業界に身を置くことにより,さらに医療を見る視座が上がり,これまで見えていなかった薬価の問題,ドラッグロス,逃散型医療崩壊,大学病院の研究力低下等が見えてきました。そして,診療報酬制度による統制価格なのに資本主義経営という根本的なねじれ構造の下ではどんな小手先の変革も問題解決にはなりません。これらの問題解決に再生医療が突破口になれる可能性があることから,頭を柔らかくして医療システム自体を考える必要があります。産業まで含めて大きな視点から医療を語り,現場を熟知している医師側から方向性を提案することが重要だと思います。2024年を新しい医療元年にしたいものです。

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参議院議員
小児科専門医

 1990年の当時過去最低の合計特殊出生率となった「1.57ショック」を機に,政府は仕事と子育ての両立支援などこどもを生み育てやすい環境づくりに向けて取り組みを始め,94年には...

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