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『筋疾患の骨格筋画像アトラス』より

濱野忠則

2023.05.19

 神経筋疾患の診療においては,病歴聴取や神経診察と併せてCTやMRIなどの画像検査を行うことで,体内の神経や筋肉の状態を非侵襲的に観察し,診断や治療方針を確定させます.的確な診断のためには画像所見を正確に読む力が求められますが,脳神経内科領域では筋画像を多数掲載した成書はありませんでした.

 新刊『筋疾患の骨格筋画像アトラス』には,国立精神・神経医療研究センターのIBIC-NMDという筋画像データベースに登録されたものを中心に筋疾患症例のCT・MRI画像が多数掲載されています.また,筋画像の撮像法やCTとMRIの使い分けといった総論的な内容をはじめ,コモンな筋炎から稀少疾患まで診断や画像の見方,骨格筋量定量法に関する最新情報も解説しており,日本語で書かれた骨格筋画像のアトラスとしては唯一の書となっています.

 医学界新聞プラスでは本書の中から,診療に役立つ筋画像検査,皮膚筋炎,ジストロフィノパチー,肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の項目をピックアップし,その一部を4回に分けてご紹介します.

疾患の特徴

 特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathy:IIM)は,自己免疫病態を背景として主として筋肉に炎症を生じ,筋力低下をきたす疾患である.皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)はIIMの代表的疾患であり,特定の生活習慣や環境因子など誘因なく,小児から高齢者まですべての年齢層の男女に発症しうる.全身症状としては,発熱,全身倦怠感,易疲労感,体重減少がみられるが特異性は低い.筋症状としては,体幹,四肢近位筋群,頸筋,咽頭筋の筋力低下が対称性,かつ緩徐に進行する.日常生活では階段昇降,しゃがみ立ち,重量物の持ち上げ,仰臥位での頸部挙上,嚥下が困難となる.時に筋痛を伴い,進行例では筋萎縮を伴う1)

 通常,亜急性の経過を示し皮膚症状としてのGottron徴候やヘリオトロープ疹は疾患特性が高く,定型疹と呼ばれる.Vネック徴候やショール徴候もしばしば認めるが,前2者と比較すると特異性は低い.SAE(small ubiquitin-like modifier activating enzyme)抗体陽性例では通常,広範な皮疹が先行したあと筋力低下,嚥下障害が出現する.天使の羽徴候(angel wing sign)と呼ばれる肩甲帯を除いた背部全体の紅斑が特徴的である.症例によっては近位筋優位の筋力低下をきたす.これまでに5つのDM特異的自己抗体(dermatomyositis specific autoantibodies:DMSA)としてMi-2,MDA5(melanoma differentiation associated gene 5),NXP-2(nuclear matrix protein 2),TIF1-γ(transcriptional intermediary factor 1-γ),SAEが同定されてきた[column 2 表1☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』50頁].今日DMの約80%は特異的自己抗体が陽性になるといわれているほどである.

 マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により,DM患者では,Ⅰ型インターフェロン(Ⅰ型IFN)の下流遺伝子発現の著しい増加が判明した.免疫染色では筋線維でⅠ型IFNで誘導されるミクソウイルス抵抗性蛋白質A(myxovirus resistance protein A:MxA)の発現が認められる.これは線維束周囲性萎縮(perifascicular atrophy:PFA)や毛細血管への膜侵襲複合体(membrane attack complex:MAC)沈着よりも感度,特異度ともに高い2, 3).実際MxAの発現は後述の抗合成酵素症候群(anti-synthetase syndrome:ASS)では認めない4).Ⅰ型IFNは筋線維内で活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の産生を誘導し,ミトコンドリア障害をきたす.またDM筋の電顕像でみられる小管状封入体(tubuloreticular inclusions:TRIs)は,同じくⅠ型IFN関連疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)でも出現する.さらに培養細胞にⅠ型IFNを作用させるとTRIs形成が確認されるため,TRIs形成自体がⅠ型IFNの下流現象である.以上の理由からDMは筋病理学的に「Ⅰ型インターフェロノパチー」と考えられるようになってきた2-4)

診断・検査

 ①対称性の近位筋優位の筋力低下,②筋原性酵素〔クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK),アルドラーゼ〕の上昇,③Gottron徴候などの定型・非定型疹,④抗核抗体または抗細胞質抗体,⑤針筋電図での安静時自発電位,随意収縮での低振幅・低電位が重要である.

 近年のDMSAの相次ぐ発見に伴い,この検出が診断上極めて有用であることが明らかとなった.TIF1-γ抗体は筋症状を呈する成人例で最も頻度が高く,高頻度に悪性腫瘍を合併する.また小児例は若年性DM(juvenile DM:JDM)と呼ばれ,半数以上にNXP-2抗体を認める.悪性腫瘍を合併しない,微小梗塞例の頻度が高い,皮下や筋膜の石灰化を伴うことがあるなど成人例と臨床症状が一部異なるが,これら特徴のほとんどはNXP-2抗体陽性例の特徴でもある.臨床的無筋症性DM(clinically amyopathic DM:CADM)と呼ばれる筋症状が乏しい例は,MDA5抗体がその大半で陽性でありCK値は正常から軽度上昇にとどまるが,間質性肺炎が重篤になる.Mi-2抗体陽性例では大半が1,000IU/L以上である.その他の例では,正常〜高値までCK値はさまざまである.骨格筋MRI(MRIにおける筋の一般的な配置を模式図にして図4-1に示した5-7))では,しばしば筋膜にアクセントを伴う浮腫性変化を認める(図4-2).皮下浮腫を伴う症例もある.また,皮膚症状のないDM(DM sine dermatitis)の多くはNXP-2抗体陽性である[column 2☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』49頁]. 

図4-1 上下肢筋肉模式図5-7)


 

図4-2 皮膚筋炎(Mi-2抗体陽性)の骨格筋MRI

67歳,男性.糖尿病,高血圧にて加療中であった.CKが約2,000IU/Lであることを指摘された.握力低下(17kg),僧帽筋4+/4+,三角筋3/3,背側骨間筋2/2および左下肢全体での軽度の脱力を認める.顔面に光線過敏症を認めた.血液検査にて抗核抗体×2560,Mi-2抗体陽性であった.
左:T1強調画像,右:STIR画像.STIR画像にて,棘下筋(INF),三角筋(DEL),上腕二頭筋(BB),上腕三頭筋(TB),回外筋(Su),総指伸筋(EDC),深指屈筋(FDP)に高信号域を認める.下肢では,大殿筋(GLM),大腿直筋(RF),短内転筋(AB),中間広筋(VI),長趾伸筋(EDL)の高信号域を認める.なお,外側広筋(VL),RF,前脛骨筋(TA),腓腹筋内側頭(GM),ヒラメ筋(S)筋膜に高信号域を認める.


 

 筋病理所見:筋束辺縁部の筋線維萎縮(PFA)が最もよく知られている.PFA周辺部の筋線維はミトコンドリアやライソゾームが増加しており,細胞質が好塩基性に染色され,時に打ち抜き空胞(punched-out vacuole)と呼ばれる空胞を有し,大型の内在核を伴う.これは特にTIF1-γ抗体陽性例で高頻度に認められる.COX活性の低下が認められる.ただし先述のMDA5抗体陽性例では,PFAを認めないことが多い.筋周膜の血管周囲の単核細胞浸潤を認める場合もあるが,疾患特異性は低い.NXP-2抗体陽性例では微小梗塞を伴う例がある.Mi-2抗体陽性例では,独特な筋束辺縁部の壊死,再生線維が豊富に認められ,線維束周囲性壊死(perifascicular necrosis:PFN)と呼ばれる.また,筋周膜に結合組織の断片化を認めるとともに,しばしばアルカリホスファターゼ(ALP)発現がみられる2)

 免疫染色では,MHCクラスⅠ(HLA-ABC)が発現するとともに筋内鞘毛細血管へのMACが沈着する.電子顕微鏡では血管内皮細胞にTRIsの集塊を認めることが特徴である2)

臨床的マネジメント

 筋組織にリンパ球やマクロファージ浸潤を伴う自己免疫性組織障害が病態の基本であり,ステロイド投与が第一選択となる.高用量(1mg/kg)のプレドニゾロン(PSL),あるいは中等量(0.5mg/kg)のPSLと免疫抑制薬の併用を行う.治療が奏効すればPSLを減量し,奏効しなければ免疫抑制薬の変更,追加を考慮する.併用する免疫抑制薬としてはアザチオプリン(AZT),メトトレキサート(MTX),タクロリムス(TAC),シクロスポリン(CsA)やミコフェノール酸モフェチル(MMF)が推奨される.特にMDA5抗体陽性のCADM例では,急速進行性間質性肺炎(rapidly progressive interstitial lung disease:RP-ILD)を合併しやすく,当初から高用量ステロイドと免疫抑制薬を併用する.このような例では,一般の血液検査・呼吸機能検査に加えて,胸部の高分解CT(HRCT)撮像,KL-6およびフェリチンの測定が必須である.嚥下障害を伴う症例に対しても同様に迅速な対応が必要である.

 DMで重要な役割を果たすⅠ型IFNは標的臓器の細胞表面のIFN-α受容体により認識され,JAK(Janus kinase)-STAT(signal transducer and activator of transcription)シグナル伝達経路を介して下流遺伝子群の発現を制御するため,従来の治療で頻回に再発する例,または難治例では,JAK阻害薬ルキソリチニブやトファシチニブが有効であるという報告が相次いでいる3)

 皮膚炎主体の症例では遮光の推奨と局所ステロイド治療が優先される.ステロイドがなんらかの理由で使用できない,あるいは減量で再燃するなどの例では免疫抑制薬を併用する.即効性のある治療法として,免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)があるが持続性に乏しく,寛解導入には他剤で免疫抑制を行う必要がある.

 消化管潰瘍を伴う例もある.症例によっては,爪囲紅斑や爪上皮の出血点のみを認めることもあるので,皮膚科専門医にダーモスコピーによる詳細な観察を依頼することが望ましい.また,悪性腫瘍検索を十分に行い,治療することが大切である.

診断

1.臨床診断
 封入体筋炎(sIBM)以外の自己免疫性筋炎を包括的に「多発筋炎(polymyositis:PM)/DM」とひとくくりに分類し,臨床的に皮膚症状があればDM,なければPMとされることが多く,実際難病指定も同様の概念から,PM/DMとIBMの2つのカテゴリーに分類されてきたが,自己抗体や臨床所見,病理所見,遺伝子解析の結果をもとに新たな分類方法についての試みがなされている.IIMの分類方法については2017年に欧州・米国リウマチ学会のIIMの分類基準が提案された8)

 わが国では厚生労働省研究班が作成した診断基準9)が使用され,炎症性筋症,特徴的皮膚症状の組み合わせで古典的DM(classic DM:cDM),CADM,PMに分類するが,今日PMの存在自体が不明瞭となっている10)

2.臨床症状
 全身症状として,発熱,全身倦怠感,易疲労感,体重減少がみられる.筋症状としては,体幹,四肢近位筋群,頸筋,咽頭筋の筋力低下が対称性,かつ緩徐に進行する.日常生活では階段昇降,しゃがみ立ち,重量物の持ち上げ,仰臥位での頸部挙上,そして嚥下が困難となる.時に筋痛を伴い,進行例では筋萎縮を伴う1)

 亜急性の経過で皮膚症状としてのGottron徴候やヘリオトロープ疹は,定型疹と呼ばれる.Vネック徴候やショール徴候もしばしば認めるが,前2者と比較して特異性は低い.SAE抗体陽性例は広範な皮疹が先行し,その後筋力低下,嚥下障害が出現することが多い.天使の羽徴候(angel wing sign)と呼ばれる肩甲帯を除いた背部全体の紅斑が特徴的皮疹である.症例によっては近位筋優位の筋力低下をきたす.5種類のDMSAが診断に有用である.間質性肺炎は多くの場合,MDA5抗体陽性例で重篤となる.

 予後に関しては,PM,DMを対象とした報告は,8.7年の観察期間で死亡率24%(22/91)であり,悪性腫瘍,間質性肺炎,心合併症が死亡原因の上位であった.若年性DM(juvenile DM:JDM)の予後は比較的良好で,死亡率は0.8%(5/662)であった3)

3.確定診断
 皮膚症状があり,DMSAのいずれかが陽性となる場合,あるいは筋病理所見でPFAが陽性になる場合,診断確定となる.

4.鑑別診断
 炎症性筋疾患としての後述のASSや免疫介在性壊死性ミオパチー(immune-mediated necrotizing myopathy:IMNM),sIBM,感染による筋炎,好酸球性筋炎などの非感染性筋炎,薬剤性ミオパチー,内分泌異常・先天代謝異常に伴うミオパチー,電解質異常に伴う筋症状,中枢性ないし末梢神経障害に伴う筋力低下,筋ジストロフィーその他の遺伝性筋疾患,湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患が鑑別の対象となる.


 

 

どう撮る、どう読む、どう生かす? 筋疾患のCT・MRI

<内容紹介>筋疾患を診ることに苦手意識をもつ医師は多い。そんな筋疾患診療の頼もしい味方となるのが骨格筋CT・MRI検査である。本書はその骨格筋CT・MRI画像を豊富に収載した、日常診療に役立つ待望の1冊。難病からコモンまで、主要な筋疾患の特徴的なCT、MRI画像を、各疾患の最新情報とともに解説する。どの筋肉がどこにあり、どのように画像に映るかを、健常像とイラストを用いてわかりやすく紹介し、初学者にもオススメ。

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