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『筋疾患の骨格筋画像アトラス』より

久留聡

2023.05.12

 神経筋疾患の診療においては,病歴聴取や神経診察と併せてCTやMRIなどの画像検査を行うことで,体内の神経や筋肉の状態を非侵襲的に観察し,診断や治療方針を確定させます.的確な診断のためには画像所見を正確に読む力が求められますが,脳神経内科領域では筋画像を多数掲載した成書はありませんでした.

 新刊『筋疾患の骨格筋画像アトラス』には,国立精神・神経医療研究センターのIBIC-NMDという筋画像データベースに登録されたものを中心に筋疾患症例のCT・MRI画像が多数掲載されています.また,筋画像の撮像法やCTとMRIの使い分けといった総論的な内容をはじめ,コモンな筋炎から稀少疾患まで診断や画像の見方,骨格筋量定量法に関する最新情報も解説しており,日本語で書かれた骨格筋画像のアトラスとしては唯一の書となっています.

 医学界新聞プラスでは本書の中から,診療に役立つ筋画像検査,皮膚筋炎,ジストロフィノパチー,肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の項目をピックアップし,その一部を4回に分けてご紹介します.

 

 神経筋疾患の診断を難しいと感じておられる臨床医の先生方は少なくないかもしれない.実は脳神経内科や小児神経の専門医でさえも診断に難渋する症例も多い.診断のプロセスとしては,ほかの神経疾患と同様にまず主訴を把握し,病歴の聴取から始まって,一般内科的な診察,詳細な神経学的診察を行ったうえで,鑑別すべき疾患を考え検査の計画を立てる.そのうえで,血液検査や画像検査でスクリーニングを実施し,必要に応じて電気生理学的検査,さらには筋生検や神経生検,遺伝子検査へと進む.このように系統立った手順をふまないとなかなか正しい診断にはたどり着けない.最初に進む方向を間違えたり見落としがあると,誤診につながったり,診断までに時間がかかったり,余計な検査で患者に負担を強いることになる.

 CTやMRI,エコーなどの筋画像検査は,筋病理診断や電気生理学的検査に比べてその歴史は浅いが,近年技術的にさまざまな進歩があり,知見も積み重なっているため,日常診療や研究において徐々に威力を発揮しつつある.しかし,筋画像検査を使いこなすためにはその意義や役割を十分に理解しておくことが重要である.神経筋疾患の診療において,筋画像検査はあくまで補助的な役割ではあるが,検査方針の立案,補強あるいは修正,特殊な検査や侵襲的な検査への橋渡し,診断後の経過観察,治療後の効果判定など重要な位置を占めている.以下に詳しく述べてみたい.

診断

 神経筋疾患を的確に診断するためには,筋障害の程度や分布を把握することが不可欠である.近位/遠位,上肢/下肢,屈側/伸側のどちらが優位に障害されているのか,左右差はあるのか,顔面筋罹患,心筋・呼吸筋障害,筋肥大などは診断のうえで非常に大きな手掛かりとなる.これらを確認するために筋CT/MRIは極めて有用である.実際の臨床では,最初に視診で萎縮の部位や程度をしっかりと評価し,徒手筋力検査(manual muscle test:MMT)で筋力評価を行ったうえで,筋画像検査ではその所見を確認するとともに,ベッドサイド診察で十分に評価できない深部の筋群や頸部・体幹筋の評価を行うことが可能である.

 筋ジストロフィーの診断においては,発症年齢,遺伝形式,罹患筋の分布が診断のための大きな要素となる.特に肢帯型筋ジストロフィー(limb-girdle muscular dystrophy:LGMD)のように診断が難しい場合には,筋画像検査を用いて罹患筋のパターンを把握して鑑別すべき疾患や病型を絞り込むことが重要になる.筋ジストロフィーをはじめとする遺伝性筋疾患では最終的に遺伝子検査による確定診断が必要である.近年,遺伝子解析技術が目覚ましい発展を遂げているが,臨床診断(どのような疾患をターゲットにするのか)によって解析方法が異なる.また,検査結果の解釈に迷う場合もあり,臨床像と照らし合わせた総合的な判断が求められる.

 筋強直性ジストロフィーでは特徴的な斧様顔貌(hatchet face)[☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』64頁]を呈するため,いわゆる“一瞥診断”が可能とされている.筋画像所見においても同様に,縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)や顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのように極めて診断的価値の高い特異的な障害パターンを呈する疾患がある[☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』第Ⅱ編 疾患各論参照].これを知っておくと診療に有用であることはいうまでもない.ただし,なぜこのような選択的な障害パターンを取るのかについては残念ながら不明であり今後解明すべき大きな課題であるといえよう.また,画像上の特異的な障害パターンの感度や特異度を十分に理解していないと誤った解釈につながるおそれがあり注意すべきである.疾患によっては特徴的な所見を呈する時期やステージが限定され,逆に画像のみで診断確定はできず,必ず筋病理診断や遺伝子検査が必要となる.

 筋ジストロフィーと自己免疫性炎症性筋疾患の鑑別は時に難しい場合がある.多発筋炎や壊死性ミオパチーの中に筋ジストロフィーと非常によく似た臨床像をとる場合があるからである.両者は治療法がまったく異なるため,迅速かつ正確な診断が求められる.自己免疫性炎症性筋疾患では,筋MRIのSTIR(short tau inversion recovery)画像で特徴的な所見を呈することがあり,両者の鑑別に役立つ.この場合に,CTやMRIのT1強調画像など主に形態変化をみる画像のみでは病像を捉えきれないため,炎症や浮腫など変化をみることのできるシークエンスでの所見に注目し読影しなければならない.

筋生検部位の決定

 筋生検は,筋疾患の診断において極めて重要で必要不可欠な検査である.うまくすれば非常に多くの情報が得られ診断に直結する.問題となるのはサンプリングエラーである.今の病状を適切に反映し,かつ手技的にもアクセス可能な部位を選択することが大切である.病変の及んでいない部位や,逆に障害が強すぎてburn outしてしまった部位を採取しては意味がない.侵襲的な検査であり何度も施行できないため慎重に生検部位を決定することが求められる.
筋画像検査は筋生検部位の決定に有用である.なるべく軽度〜中等度の病的変化があると推定される部位を狙うことが原則である.適切な部位を採取できれば筋生検の成功率は高くなる.特に炎症性筋疾患の場合にはpatchyな障害分布をとることが多く注意を要する(図1-1).

図1-1 壊死性ミオパチーの骨格筋MRI

T1強調画像(A)では明らかな異常は認めない.STIR画像(B)では右外側広筋,両大腿直筋,右内側広筋,左大内転筋,左半膜様筋を中心に高信号領域を認める.

経過観察

 筋画像検査は筋疾患の経過観察にも有用である.緩徐進行性の経過を示す筋疾患では,主病変である骨格筋病変がどのように変化していくか定期的に注意深く観察することが必要だが,筋画像検査は経時的変化をモニタリングする有力な方法の1つである.

 初期のさまざまな検査で確定診断に至らなかった症例でも,進行の速さの違いや,初期には捉えられなかった筋障害の選択性の顕在化によって診断につながることもありうる.また,筋画像は筋生検や遺伝子検査に比べて患者から同意が得られやすいというメリットがある.これを活かして,定期的な診察と画像検査を繰り返しながら患者や家族と疾患の経過を共有し信頼関係を築くことにより,当初拒否していた筋生検や遺伝子検査の同意につながることも稀ではない.

 現時点であまり有効な治療がないとされている筋ジストロフィーのような疾患においても,丹念に経過をみていくことが非常に大切であると考えられる.機能的予後の予測や,予後に影響する要因を同定することは大変意味のあることである.例えば,Becker型筋ジストロフィー(Becker muscular dystrophy:BMD)[第5章☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』53頁]では,臨床的なスペクトラムが幅広く,Duchenne型(Duchenne muscular dystrophy:DMD)に近い重症型から,高齢でも歩行可能な軽症型までさまざまな臨床像を取ることが知られている.BMDの重症度を規定するものが,ジストロフィン遺伝子の病的バリアントの部位なのか,別の修飾遺伝子(SPP1,LTBP4,CD40,ACTN3など)多型によるのか,あるいは生活習慣や体重,リハビリテーションの方法などが関係するのかについてはいまだ不明な点が多いのが実状である.経過が長い疾患であり装具や車椅子の導入時期の検討や転倒予防などの生活指導において,その時点の病状とともに進行速度を把握しておくことは大変重要であり,筋画像検査はその一助となりうると考えられる.

 最近は,さまざまな疾患での自然歴研究が行われるようになっている.筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)では,初期の進行の速さが全経過の予後に関係することがわかっている1).また近年,リハビリテーションの分野ではロボットスーツが導入され実用化されており,その効果判定に筋画像検査が役立つ可能性がある.

CTとMRIの使い分け

 筋画像検査のうち代表的なものはCTとMRIである.ここでは,CTとMRIのそれぞれの特徴をあらためて整理し両者をどのように使い分ければよいかを考察してみたい.

 日本におけるCTスキャナーの普及率は諸外国に比して高く,また近年の技術革新により大変スピーディーに撮影できるようになっている.本書は,IBIC-NMDという画像データベース[第3章☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』17頁]に集められた筋画像を中心に解説しているが,IBIC-NMDに登録された画像においてもCTの比率が高くなっている.おそらくこれは,普及率や簡便性のために日本の日常診療ではCTが優位であることを反映していると考えられる.ただ放射線被曝があることが最大のデメリットである.一方,MRIは解像度も高く,撮影方向も選択ができ,さまざまなシークエンスを駆使することが可能であり,形態変化(萎縮の有無)のみならずある程度の質的変化(炎症,浮腫)まで推定することができる.しかしながら,撮影に長い時間がかかるため,それに耐えうる患者が対象となる.迅速性・簡便性の面ではCTが優れているが,より詳細に調べたい場合にはMRIのほうがよいといえよう.ちなみに研究面では欧米からの筋画像研究はMRIが主流となっている.

 撮影の目的を考えると,萎縮や脂肪置換の有無,障害パターンや選択性をみたい場合には,CTとMRI T1強調画像はほぼ同等とみなされるが,実際の日常診療においては全身MRI撮影が難しい場合が多いためCTが優先される.逆に筋ジストロフィーと炎症性筋疾患との鑑別や,生検部位の決定にはMRIのほうが望ましいと考えられる.両検査の特性を十分に理解し,撮影の目的に応じて使い分けることが肝要であることを強調したい.

その他の画像検査

 近年,筋超音波検査が広く実施されるようになっている.簡便で非侵襲的な検査であり,エコー輝度により筋障害の性状・程度をみることができるのみならず,サルコイド結節の描出や線維束性収縮も観察可能であると報告されており,今後ますます発展することが期待されている.
FDG-PET/CTもサルコイドーシス[第4章☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』45頁]の診断や,筋生検部位の決定,筋炎の分布や活動性の評価に有用であるとされている2).[11C]PIB-PETを用いて封入体筋炎(sporadic inclusion body myositis:sIBM)の筋におけるアミロイド蛋白質の蓄積を示した報告もなされている3).ただし実施できる施設が限られており,保険適用の問題もあり広く応用されるまでには至っていない.

中枢神経画像

 筋疾患の中には中枢神経症状を呈するものがある.筋ジストロフィーでは,DMD/BMD,筋強直性ジストロフィー,福山型先天性筋ジストロフィー(Fukuyama-type congenital muscular dystrophy:FCMD)[第5章☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』107頁]などがよく知られている.FCMDのallelic diseaseであるLGMD2Mでは小脳低形成を呈した例の報告があり4),中枢神経画像がLGMDの病型診断の手がかりとなりうる.MELAS(mitochondrial encephalomyopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes),MERRF(myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers)などのミトコンドリア病[第5章☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』149頁]においては,脳卒中様発作やてんかんなど中枢神経症状のほうが前景に出る場合がある.また,第5章「特殊なミオパチー」の項[☞『筋疾患の骨格筋画像アトラス』161頁]で解説する多系統蛋白質症(multisystem proteinopathy:MSP)のように前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD),骨Paget病(Paget disease of bone:PDB),封入体筋症をさまざまな程度で合併しうる新しい疾患概念も出てきている.このように,筋疾患の診断や臨床的マネジメントにおいて,中枢神経症状の有無は非常に大きな要素となるので中枢神経画像の重要性は高いと考えられる.研究面においても,例えばジストロフィノパチーにおけるジストロフィン蛋白質欠損が中枢神経症状をきたす機序についてはいまだほとんど解明されておらず大きな課題となっている.そのため,本書は筋画像の解説書だが,必要に応じて中枢神経画像を掲載しているので是非参考にしていただきたい.

 上述のように骨格筋画像検査は,鑑別診断や,治療の効果判定,経過観察に有用であるが,まだまだ発展途上であり診療,研究の両面において知見を積み重ねさらなる技術革新をしていく必要があると考える.

  • 文献
  • 1)Watanabe H, Atsuta N, Nakamura R, et al:Factors affecting longitudinal functional decline and survival in amyotrophic lateral sclerosis patients. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener 16:230-236, 2015
  • 2)Pipitone N, Versari A, Zuccoli G, et al:18F-Fluorodeoxyglucose positron emission tomography for the assessment of myositis:a case series. Clin Exp Rheumatol 30:570-573, 2012
  • 3)Tanaka S, Ikeda K, Uchiyama K, et al:[18F]FDG uptake in proximal muscles assessed by PET/CT reflects both global and local muscular inflammation and provides useful information in the management of patients with polymyositis/dermatomyositis. Rheumatology 52:1271-1278, 2013
  • 4)近土善行,森 まどか,林 由起子,他:20歳代で歩行不能となった肢帯型筋ジストロフィー 2M 型の1症例.臨床神経50:661-665, 2010


 

 

どう撮る、どう読む、どう生かす? 筋疾患のCT・MRI

<内容紹介>筋疾患を診ることに苦手意識をもつ医師は多い。そんな筋疾患診療の頼もしい味方となるのが骨格筋CT・MRI検査である。本書はその骨格筋CT・MRI画像を豊富に収載した、日常診療に役立つ待望の1冊。難病からコモンまで、主要な筋疾患の特徴的なCT、MRI画像を、各疾患の最新情報とともに解説する。どの筋肉がどこにあり、どのように画像に映るかを、健常像とイラストを用いてわかりやすく紹介し、初学者にもオススメ。

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