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『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』より

連載 能登真一

2023.10.27

 QOLを医療・福祉分野のアウトカムとして活用するという機運が高まる現代において,QOL尺度の基礎知識と実際の使い方を押さえておくことは必須となりつつあります。

 『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』は,押さえるべき46の尺度を取り上げ,それぞれの特徴から質問票やスコアの算出方法,エビデンスベースドの活用法まで分かりやすくまとめた,まさにQOL評価のバイブルとなる一冊と言えます。

 医学界新聞プラスでは本書のうち,「評価尺度の測定特性 1.信頼性」「HUI(Health Utilities Index)」「CarerQol」をピックアップし,3回に分けて紹介します。

 健康関連QOL(HRQOL)は個人の内面を主観的に測定するものであり,血液データや筋力などのようにその状態が数値として目に見えるものではない.そのため,HRQOLを評価する尺度には計量心理学に基づいた一定の信頼性や妥当性が求められる.これらは評価尺度を新たに開発したり,既存の尺度の質を評価したりするために重要な指標となる.本章ではそれら評価尺度の測定特性について,専門家集団の合意によって,尺度の特性に関する用語と定義および標準的な基準を定めた「健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針(COnsensus—based Standards for the selection of health Measurement INstruments;COSMIN)」1)をもとに説明してみたい.
 COSMINが示した尺度の測定特性は図1に示すように,大きく信頼性妥当性反応性の3つの領域に分けられている.信頼性と妥当性はさらに下位分類があるが,反応性にはない.またCOSMINでは解釈可能性という領域を3つの測定特性に加えて別途示している.

図1 測定特性に関するCOSMIN の分類.png

1 信頼性

 信頼性とは,その評価尺度によって,目標とする内容をどれくらい正確に,安定して測れているかどうかを示す指標である.COSMIN2)では測定に誤差がない程度と定義され,変化していない対象者のスコアはいくつかの条件下で繰り返し測定しても同じであるという前提に立っている.この信頼性は評価項目が同じ概念を測定する内容で構成されているかという項目間の一貫性や,何度測定しても同じ値となるかという継時的な安定性などを調べることで判断できる.
 図23)に示すように,信頼性は測定したい概念の中心にどれだけ近いかということよりも,複数回の結果がどれだけ誤差なく測定できているかどうかを調べる指標となる.一方,後述する妥当性は,測定したい概念の中心にどれだけ近いかということを調べる指標である.
 COSMINで示された信頼性は,内的一貫性信頼性測定誤差の3つに分類されている.それらの定義は表1に示すとおり,内的一貫性が項目間の相互関係の程度を,下位項目としての信頼性は測定されたスコアの対象者間の「真」の差に起因する総分散の割合を,そして測定誤差は「真」の変化に起因しないスコアの誤差のことを指す.

図2.png
表1.png

内的一貫性
 内的一貫性は,評価尺度を2つの尺度に分けて,それらの相関係数を求める方法で確認する.一般的に用いられているのはCronbach’s α係数で,0.7以上あれば内的一貫性は高いとされているが4),高ければ高いほどよいというわけではない.内的一貫性が高すぎるということは,同じ内容の項目ばかりが含まれていることの裏返しでもあり,そのことによって妥当性が低くなることや,項目数が多くなればなるほど値が高くなりやすくなることに留意しておく必要がある.

信頼性
 下位項目としての信頼性は,安定性あるいは再現性を示す指標であり,いつでも誰でも同じ値が測定できるかどうかを確認できる.HRQOLは対象者本人が回答することを原則としているため,その尺度の信頼性に関しては1~2週間程度の間隔を空けて同じ項目を測定する再テスト信頼性 が重視される.評価項目が連続変数の場合は,級内相関係数(intraclass correlation coefficient;ICC) が,二値変数や順序変数の場合にはκ(カッパ)係数 が用いられる.いずれも0.7以上であれば,信頼性が高いと判断される.

測定誤差
 測定誤差は偶然誤差(random error)系統誤差(systematic error)に分けられる.偶然誤差は平均値からの正負双方向へほぼ対称的に生じるばらつきのことで,系統誤差は真の値からの特定の方向へのばらつきのことである.
 偶然誤差は,評価項目が連続変数の場合,再テスト法における標準誤差(standard error of measurement;SEM)もしくは最小可検変化量(smallest detectable change;SDC)で確認できる.二値変数や順序変数の場合には,正負の一致率で確認できる.系統誤差は,計算ミスや記録ミスなど原因が明らかな場合に生じる規則的な誤差のことであり,対象者内の分散で確認する.

おさえておきたい!
  • 信頼性とは目標とする内容をどれくらい正確に,安定して測れているかどうかを示す指標である.
  • 内的一貫性は項目間の相関を表し,Cronbach’s α係数が用いられる.
    再テスト信頼性ではICCやκ係数が用いられる.

 

▶文献レビュー
  •  サルコペニアのHRQOLを評価するSarQoLの測定特性を検討した論文5)では,再テスト法によってICCおよびSEM,SDCを検討している.それによると,全体としての信頼性はICC=0.918(95%CI=0.834—0.961)と高いものの,余暇活動(leisure activities)と心配事(fears)に関する領域ではICCが低く,信頼性が低いという結果となった.SEMやSDCについても,当該領域で誤差が大きくなっていた.

    Geerinck A, et al:Evaluating quality of life in frailty:applicability and clinimetric properties of the SarQoL® questionnaire. J Cachexia Sarcopenia Muscle 12:319—330, 2021
  •  
  • 表 SarQoLの再テスト信頼性
  • 文献
  • 1)Mokkink LB, et al:The COSMIN checklist for assessing the methodological quality of studies on measurement properties of health status measurement instruments:an international Delphi study. Qual Life Res 19:539—549, 2010
  • 2)Mokkink LB, et al:The COSMIN study reached international consensus on taxonomy, terminology, and definitions of measurement properties for health—related patient—reported outcomes. J Clin Epidemiol 63:737—745, 2010
  • 3)鈴鴨よしみ:QOL評価と心理尺度構成.心理学ワールド65:16—19,2014
  • 4)Prinsen CAC, et al:COSMIN guideline for systematic reviews of patient—reported outcome measures. Qual Life Res 27:1147—1157, 2018
  • 5)Geerinck A, et al:Evaluating quality of life in frailty:applicability and clinimetric properties of the SarQoL® questionnaire. J Cachexia Sarcopenia Muscle 12:319—330, 2021
 

現代の医療・福祉分野のニーズに応えられる46のQOL尺度を徹底紹介

<内容紹介>QOLを医療や福祉分野のアウトカムとして活用しようとする流れが加速している昨今、医療者はQOL尺度の基礎知識と実際の使い方を把握しておく必要があるといえる。本書は、現代の医療・福祉分野でおさえるべき46の尺度をピックアップ。各々の特徴を述べるとともに、尺度を使用する際に必要となる開発者、質問票、版権や採点方法、さらにはエビデンスベースの活用方法をまとめている。QOL評価の新たなバイブルとなる1冊。

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