医学界新聞

医学界新聞プラス

『PT・OT・STポケットマニュアル』より

連載 伊藤将円,角田亘

2023.05.19

「この方法で大丈夫だろうか?」「患者さんにどう説明すればいいのかな?」と不安を抱きやすいキャリアの浅い理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の方々にとって,羅針盤となるような書籍『PT・OT・STポケットマニュアル』が刊行されました。この1冊をポケットに忍ばせておけば,自信を持って対応できること間違いなしです!

今回,医学界新聞プラスでは本書の内容から4項目を抜粋し,紹介をしていきます。

▼Focus Point

  •  ●腰部脊柱管狭窄症は,病変のある部位によって呈する症状が異なるので事前に確認しよう
  •  ●保存療法は,症状の増悪期と緩解期などの状況に合わせた運動療法を行おう
  •  ●手術療法では術式によって生活制限が出ることがあるので,生活指導や運動療法に注意しよう

1 腰部脊柱管狭窄症・腰痛症・脊椎症のキホン

1.病態

  • a 腰部脊柱管狭窄症
  •  ・腰部脊柱管狭窄症は椎体や椎間板,靭帯などの変性によって腰部の脊柱管や椎間孔が狭くなり,馬尾・神経根の絞扼障害を引き起こす.
  •  ・診断は,MRIによる画像検査と臨床所見(下肢痛やしびれ,間欠性跛行)で行われる.
  •  ・膀胱直腸障害や会陰部の麻痺,進行する筋力低下を認める場合,早期の手術療法が適応となる.
     
  • b 腰痛症(非特異的)
  •  ・非特異的腰痛は,MRIなどの画像検査では原因が特定できない腰痛の総称である.
  •  ・2016年にわが国の腰痛の原因を調査した報告では,非特異的腰痛は調査対象者全体の22%であった.
  •  ・非特異的腰痛は筋筋膜性,心因性など様々な要因がからみ合い,症状を呈している可能性がある.そのため,関節可動域(ROM)や筋力などの機能的評価のみならず,精神,心理的な側面の評価も必要である.
  •  ・見逃してはいけない疾患(腫瘍,感染,骨折など)を示唆する徴候や症状(red flags)との鑑別が重要であり,疑わしい場合は必ず医師に相談する.
  •  ・上記の具体的な徴候と症状は,①発症年齢が20歳未満,または50歳以上の腰痛,②時間や活動に関係のない腰痛,③胸部痛,がん,ステロイド治療,HIV感染の既往,④栄養不良,⑤体重減少,⑥広範囲に及ぶ神経症状,⑦構築性脊柱変形,⑧発熱である.
     
  • c 脊椎症
  •  ・脊椎症は加齢によって椎体や椎間板の変性が起きている状態である.
  •  ・症状が進行すると神経根症を起こし,さらに進行すると脊柱管狭窄症となる.


2.治療

  • a 薬物療法
  •  ・腰痛診療ガイドラインより,急性腰痛と慢性腰痛の薬物療法のエビデンスが報告されている.
     
  • b インターベンション治療
  •  ・神経ブロックや注射療法などが含まれる.
  •  ・神経ブロックは,硬膜外などに局所麻酔を注入することで症状の改善を図るものである.
     
  • c 運動療法
  •  ・主たる介入は,腰部の安定性向上のための筋力トレーニングや体幹・下肢のストレッチ,腰部負担を軽減するための動作指導が行われる.
  •  ・エビデンスとしては,慢性疼痛で質の高い結果が報告されている.介入内容の詳細は後述する.
  •  
  • d 手術療法(腰部脊柱管狭窄症)
  •  ・除圧術が主に選択され,腰椎すべり症など腰椎の不安定性がある場合は固定術が施行される.
  •  ・固定術の場合,椎体がスクリューとロッドによって固定されるため,体幹や骨盤の運動が制限される.

2 実際にはこうする

1.保存療法におけるリハビリテーション

  • a リハビリテーションの目的,評価方法
  •  ・主たる目的は,運動によって体幹と下肢の柔軟性,安定性を向上させ,アライメントの改善と腰部負担の軽減を図ることである.
  •  ・問診にて疼痛やしびれを確認する.疼痛検査はNumerical Rating Scale(NRS)や,痛みの性状,出現動作,回避動作などを確認し,詳細に実施する.
  •  ・ミオトーム,デルマトームに沿った徒手筋力検査(MMT),感覚検査,深部腱反射(膝蓋腱反射,アキレス腱反射)で高位を確認する.
  •  ・非特異的腰痛の場合,明らかな神経障害を認めないときは,関節や筋を含む軟部組織由来の疼痛の可能性がある.そのため,身体機能検査で原因を特定できる可能性がある.
  •  ・体幹や下肢のROM,筋緊張を確認する.柔軟性の低下や異常な筋緊張は,姿勢の多様性を妨げ,腰部負担を増加させる可能性がある.
  •  ・疼痛が増悪する動作や歩行の観察を行い,力学的ストレスがどこに,どのようにかかっているかを確認する.
  •  ・治療効果の判定には,NRSやRoland Morris Disability Questionnaire(RDQ),日本整形外科学会腰痛疾患問診票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire;JOABPEQ)など,患者立脚型アウトカムを用いるとよい.腰部脊柱管狭窄症に特化した評価として,日本語版Zurich Claudication Questionnaire(ZCQ)がある.
     
  • b リハビリテーションの進めかたと訓練内容
  •  ・症状の増悪期と緩解期で,運動の内容や負荷量を調整すべきである.
  •  ・症状増悪期は,ストレッチなどの身体のケアや,動作指導(物の持ち上げ動作など生活上で負担になる動作)を行い,症状が増悪しない範囲での運動を実施する(図1,Level.1).
  •  ・症状(疼痛や体幹,下肢のROM,異常筋緊張など)が改善し始めたら,臥位や座位での軽負荷の運動から開始する(図1,Level.2).
  •  ・腰椎すべり症で腰椎の不安定性を認めるものは,腰椎を大きく可動するような動きを避けるべきである.
  •  ・運動によって疼痛やしびれが増悪した場合は,当該運動の中止,もしくは負荷量や頻度を下げて行うようにする.
     
4-図1.png
図1 腰部疾患に対する運動療法の例
本項では症状に合わせて運動を2つのLevelに分けて記載する.

2.手術療法後のリハビリテーション(腰部脊柱管狭窄症)

  • a リハビリテーションの目的,評価方法
  •  ・主たる目的は,手術部周囲(脊椎などの骨組織や脊柱起立筋などの軟部組織)に加わる負担の軽減を図りつつ,日常生活の再獲得や,手術前から存在する不良姿勢を改善させるために,下肢の柔軟性や腰部の安定性の向上を主眼とした運動を行うことである.
  •  ・手術前後で保存療法の項で推奨した評価を行う.
  •  ・手術後は痛みやしびれなどの問診を毎回行い,症状の経過を記録する.
  •  ・身体機能検査は入院中1週間ごとに行い,症状の変化を確認するとよい.
  •  ・評価結果は手術前の結果と比較し,具体的な数値を用いて説明する.
     
  • b リハビリテーションの進めかたと訓練内容
  • (1)手術前のリハビリテーション
  •  ・手術後のリハビリテーション計画(離床スケジュールやゴール設定など)を説明する.
  •  ・寝返りや起き上がりの動作指導と,術後に使用する予定の歩行補助具や車椅子の操作方法を説明し,術後早期のADL回復を目指す(図2).
     
  • (2)手術後のリハビリテーション
  •  ・基本的なリハビリテーションの方針は,脊柱安定化運動,下肢の柔軟性向上,腰部負担軽減のための生活指導が中心となる(図1,2).
  •  ・初回の離床は,点滴やドレーンが挿入されているため,ルート管理に留意する.起立性低血圧にも注意する.
  •  ・術後1〜2週間は疼痛が強い症例が多く,移動は歩行器を使用し,術部にかかる負担を減らすとよい.運動も疼痛が増悪しない範囲にとどめる(図1,Level.1).
  •  ・負荷量を増やすタイミングは,炎症所見(痛みなどの症状,炎症関連の血液データなど)が改善し,術後3〜4週間経過してから徐々に筋力トレーニングを取り入れていく(図1,Level.2の⑥,⑦).
  •  ・図1の⑧,⑨は腰部負担の大きいトレーニングであり,術後3か月以上経過してから行うことを勧める.それまでは,ベッド上での運動(図1の①〜⑦)や,立位での下肢筋力トレーニング(カーフレイズやスクワット)を行うとよい.
  •  ・退院後は,外来診療で定期的に評価し,状態に合わせて運動療法や動作方法を指導する.
  •  ・退院後の生活指導では,過度な前屈(過剰な腰椎後弯)や回旋,重量物の持ち上げなど術部に過剰な負荷がかかる動作は避けるように指導する.
  •  ・固定術後の患者では,脊柱を大きく前後弯させる運動(図1,⑥のような運動)は,スクリューとロッドへの過剰な負荷になる可能性があるため,避けるべきである.
  •  ・運動によって症状が増悪した場合,上述のように運動の中止や負荷量の変更を検討する.
     
4-図2.png
図2 腰部負担を考慮した生活方法

Column 腰部疾患の運動療法

腰部疾患の運動療法には,WilliamsやMcKenzie,McGillらが考案したプログラムを用いることが多い.臨床現場では,これらの運動を,対象者の状態に応じて組み合わせ,必要に応じて運動方法を一部改変して行っていることが多い.

\これだけは患者さんに伝えよう/

  •  ・物を持ち上げるときは腰を曲げず,膝を曲げて行いましょう.
  •  ・物を持つときは,体の近くで持ちましょう.
  •  ・体重が増えたり,筋力が弱くなると腰への負担が増加します.食事に気をつけ,筋力トレーニングは週3日以上行いましょう.

参考文献

1)Suzuki H, et al:Diagnosis and characters of non-specific low back pain in Japan:the Yamaguchi low back pain study. PLoS One 11:e0160454, 2016
2)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛診療ガイドライン策定委員会(編):腰痛診療ガイドライン2019.第2版,南江堂,2019
3)成田崇矢(編):脊柱理学療法マネジメント―病態に基づき機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く.メジカルビュー社,2019

 

リハ現場での「これは困った!」に応える、先輩療法士からのベストアドバイス

<内容紹介>入職したて~数年の若手の理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)にとって、毎日の臨床は不安と戸惑いの連続といえる。本書は、PT・OT・STの3職種が共通して使える内容を基本とし、この1冊を持っていれば、リハビリテーション医療の常識はもとより、患者さん対応や疾患ごとの評価、治療のコツについて、困った時に手軽なサイズで容易に調べることができる。評価に必要な重要スケールも豊富に収載。

目次はこちらから

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook