第18回医療の質・安全学会学術集会開催
取材記事
2023.12.18 週刊医学界新聞(通常号):第3546号より
第18回医療の質・安全学会学術集会(大会長=近畿大・辰巳陽一氏)が11月25~26日,「世界はチームでできている――多様性の森へようこそ」をテーマに神戸国際展示場(神戸市),他にて開催された。本紙では,パネルディスカッション「多職種で診断の質を改善する――診断エクセレンスの現場での実装の具体例」(企画提案=多摩総合医療センター・綿貫聡氏,座長=七条診療所・小泉俊三氏,名大・栗原健氏)の模様を報告する。
◆今や診断は,医師個人で行うものではなく,医療職がチームとして向き合うものに
セッションの開始に先立ち,国内外の診断エラー,診断エクセレンスの潮流について発表した栗原氏は,これまで医師個人に注目されがちであった診断エラー対策が,患者・家族や多職種による組織的な対策へと変化してきていることを年表(表)を示しながら解説し,診断の安全性の管理において医療安全管理者のさらなる関与が求められるとした。
「正確な診断は患者の治療や治療方針を決定する上で非常に重要であり,誤った診断は患者に深刻な影響を与える可能性がある」。診断の質を高める意義をこう述べた綿貫氏は診断エラー,診断エクセレンスの定義を次のように紹介した。
こうした定義を踏まえた上で診断エラーが起こる理由として,①診断プロセスの複雑性,②認知バイアスの影響,③システム(環境)の影響を挙げ,特に②に起因するエラーについては多職種で情報統合をしていく過程で発生していることを共有し,参加者に注意を促した4)。
続いて登壇した木村泰氏(練馬光が丘病院)は,理学療法士の立場から診断の質を向上させるための方策を提案した。氏はまず,国際的な理学療法士の組織である世界理学療法連盟(World Physiotherapy)が公開する理学療法士のコンピテンシー5)の中で,医療の質の改善活動が求められていることを紹介。理学療法士が診断の質に貢献できる一例として,患者がどのような生活動作場面で症状を訴えるかを評価し医師へフィードバックすること,患者をエンパワメントし診療へのエンゲージメントを高めることなどを列挙した。他方,理学療法士が診断エラー対策にかかわれることを自覚してもらうための教育や,理学療法士が関与したことで診断エラーの予防につながった事例の把握も同時に進めていくことの重要性にも言及した。
診断について協議する場への薬剤師の積極的な参加を促したのは,練馬光が丘病院薬剤室の榎本貴一氏である。「薬剤師の臨床業務は国内で標準化されているとは言えない」と評した同氏は,高齢化に伴い,多疾患を併存したポリファーマシー患者の増加による薬剤有害事象の見逃しや同定の遅れを懸念する。薬剤性と薬剤性以外の症状の鑑別について多職種と議論するために臨床推論の力を涵養していく必要性を訴えるなど,診断の質への薬剤師のさらなる貢献を求めた。
「業務時間の多くを患者の直接的なケアに費やす看護師の診断プロセスへの貢献度は高い」と分析する看護師の谷口かおり氏(島根大)は,診断の質向上の実現に際して求められる看護師の役割として,①患者のモニタリング,②診断にかかわる情報の報告・共有,③患者・家族の代弁者,④多職種と患者間のコミュニケーションの最適化を挙げる。その一方で,「自身の判断が間違っていたら」「夜遅い時間に報告して怒られないだろうか」など,医師―看護師間のコンフリクトが診断の質に影響することを指摘。「診断エラーの最後の砦」として看護師が自律性を発揮していくべきとの考えを示し,発表をまとめた。
参考文献・URL
1)National Academies of Sciences, et al. Improving Diagnosis in Health Care. 2015
2)綿貫聡.診断エラーとは何か?.医療の質・安全会誌.2018;13(1):38-41.
3)JAMA. 2021[PMID:34709367]
4)Arch Intern Med. 2005[PMID:16009864]
5)World Physiotherapy. Physiotherapist education framework. 2021.
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