医学界新聞

取材記事

2023.12.11 週刊医学界新聞(看護号):第3545号より

 第23回日本クリニカルパス学会学術集会(会長=獨協医大埼玉医療センター・齋藤登氏)が,「パスは続くよどこまでも――多職種がともに学びあう未来へ向けて」をテーマにTHE MARK GRAND HOTEL(さいたま市)にて開催された。本紙では,パネルディスカッション「うちでは,これもパスです!」(座長=高崎総合医療センター・坂元一郎氏,せきもとクリニック・関本員裕氏)の模様を報告する。

◆創意工夫を凝らしてパスを作成・運用する

 心不全急性期治療のクリニカルパスについて発表した高橋伸弥氏(高崎総合医療センター)は,心不全の患者背景や原因は多岐にわたるため急性期パスの運用報告が少ない中,軽症心不全に対する内服パスと,中等症に対する点滴パスを作成・運用していることを会場に共有した。また,検査・治療のみならず,心不全指導に関する項目もパスに加え,多職種で患者情報を共有していることも報告。パス導入により,中等症以下の初発心不全再入院率低下,さらに在院日数減少や検査の標準化により1日当たりの入院単価増加など,医療の質および経営の両面で好影響があったと結んだ。

 尼崎総合医療センターの中橋達氏は,全国的に運用が進んでいない小児科パスを紹介した。年齢・体重で治療内容が大きく変わり,入院時点で診断がつかない疾患も多い小児科でのパス作成と運用の課題に対し,同センターは「腹痛・嘔吐症パス」といった症候別パスで対応。各症候で共通する指示・観察項目を中心に,アウトカムは「嘔吐症状なし」など抽象的な内容に限定し,治療は個別対応としていることを紹介した。プロトコルとの差別化に課題があるものの,アウトカム設定が困難な小児科においてこのパスは有効な妥協案であると述べた。

 続いて四国がんセンター看護部の池辺琴映氏は,抗がん薬投与患者に対する頭皮冷却法(保険外診療)の運用に関するパスについて発表した。患者用パスでは頭皮冷却の目的・効果,治療スケジュール,中止・中断希望時の対応,日常生活やウィッグ購入に関するアドバイスなどを日めくり形式で具体的に記載したことで,外来―病棟間で共通して使用できる患者説明ツールにもなったと述べた。また医療者用パスは新たな治療に取り組む看護師への教育ツールになったことや,治療にかかわる費用の確実な算定にもつながったとその効果を報告した。

 地域包括ケア病棟におけるレスパイト入院患者の嚥下機能評価パスについて発表したのは村瀬美有紀氏(三重北医療センター菰野厚生病院)だ。同パスでは入院中の検査,機能評価,多職種連携による支援の標準化だけでなく,入院前から「むせる」を心配する患者・家族への医療ソーシャルワーカーによる相談対応や,リハビリテーション医師による診察等を明確にしている。氏は,入院前から介入することで,患者・家族,医療者間で支援が具体的にイメージできタイムリーな介入になったと振り返り,地域の方が住み慣れた場所で生活できるよう支援し続けたいと抱負を語った。

 看護オーダーにて必要な看護ケアなどを設定した看護パスについて発表した満汐裕子氏(熊本機能病院)は,検査や手術日程が未定で既存のパスが適用できない場合や,パスのない疾患・パス適応外の患者において看護パスを運用していると紹介した。看護パスの運用で,看護ケアの標準化,業務の効率化,患者との時間の確保が可能になったとその効果について言及。看護パスの作成・改訂は医師も含めた多職種協働で取り組み,より良い看護ケアについて考えるチーム医療にもつながっていると振り返った。

 最後に登壇した三原美雪氏(三原皮膚科)は,山形県鶴岡地区の地域共通電子カルテシステム(Net4U)を活用した地域一体型NST「たべるを支援し隊」の活動を紹介。「たべるを支援し隊」は医療系専門職のほか,保健所職員から構成されており,電子カルテを地域で共有して最終アウトカムをめざし活動している。氏は,「パス表という形式をとっていないが,まさしくパスの概念に則った活動であり,これもパスの一つのかたちである」と述べ講演を締めた。


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