MKSAPおよびGM-ITE®を活用した研修医の基本的臨床能力国際比較
寄稿 西﨑祐史
2023.12.04 週刊医学界新聞(レジデント号):第3544号より
臨床研修の標準化および質向上を実現するには,研修医の客観的評価指標が必要であるが,確立された客観的指標はこれまで本邦に存在しなかった。そこで特定非営利活動法人日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)は,基本的臨床能力の客観的な評価指標として「基本的臨床能力評価試験(General Medicine In-Training Examination:GM-ITE®)」を開発。問題はCBT(Computer Based Testing)形式で,「医療面接・プロフェッショナリズム」「症候学・臨床推論」「身体診察法・臨床手技」「疾病各論」の4分野から構成され,幅広い疾患領域(内科・外科・小児科・産婦人科・精神科等)を網羅した80問である。本試験は2011年度より導入され,22年度の試験では全国662医療機関から全体の約半数に当たる9011人の研修医が受験した。
GM-ITE®の開発により,本邦の研修医は全国順位,分野および診療科別の偏差値やスコアを通じて,臨床研修により身に付いた自身の基本的臨床能力を客観的に把握できるようになった。しかし,それはあくまでも国内での比較にとどまった話である。海外との比較という点では,研修医の能力の客観的評価は実現できていなかった。そこで私たち研究グループは,日本の研修医の臨床能力を詳らかにするために,米国内科学会が発行する内科学全般のテキストおよび問題集であり,米国で幅広く活用されるMKSAP(Medical Knowledge Self-Assessment Program)の正答率を日米で比較する研究を計画した。
解析対象は,2022年度のGM-ITE®(2023年1月17~30日に実施)を受験した研修医(1年次,2年次)の中で,研究参加の同意を得られた者とした(N=6063)。MKSAP問題の出題方法については,MKSAP version19の全問題の中から6問を選定し,GM-ITE®の英語問題の一部として取り入れた。なお,MKASP問題の使用は,事前に米国内科学会から許可を得た。
結果を見ると,6問全てで米国医師の正答率が日本の研修医の正答率を上回った(表)。その中でも,特に日本の研修医の正答率が低く,日米間で正答率の差が大きかった内容は,①血行動態が不安定な右室梗塞患者の管理(19CVBars13),および②外来セッティングにおける慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する吸入薬の選択(19PMWint10)に関する問題であった。①の結果から,日本の研修医は右室梗塞の病態生理を読み解く力が不足していることがわかった。また,救急科ローテーションの際にCOPD急性増悪の初療を経験する日本の研修医は比較的多いものの,外来セッティングにおけるCOPD患者に対する吸入薬選択の経験が不足している可能性が,②の結果から推測された。
本邦の研修医を対象とした,全国規模のデータに基づく日米比較研究の結果は,これまでになく貴重な報告である。これからも,基本的臨床能力の国際比較を通じ,世界標準の研修医教育システムの確立をめざしていきたい。
謝辞:本研究の遂行および成果の達成に当たり,徳田安春先生(群星沖縄臨床研修センター),志水太郎先生(獨協医科大学),山本祐先生(自治医科大学),鋪野紀好先生(千葉大学),和足孝之先生(島根大学),片岡恒史様(順天堂大学),黒川清先生(政策研究大学院大学)から助言および支援をいただいた。心から感謝したい。
JAMEPの詳細については,https://jamep.or.jp/gm-ite/を参照してください。
西﨑 祐史(にしざき・ゆうじ)氏 順天堂大学医学部医学教育研究室 先任准教授
2004年日医大卒。聖路加国際病院にて臨床研修に励む。10年東大大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。公衆衛生学修士(MPH)。その後,順大大学院医学系研究科循環器内科学講座に入局し,15年厚労省,日本医療研究開発機構に出向する。現在は,同大医学部医学教育研究室に所属し,研修医教育,研究を中心に活動。JAMEPにて基本的臨床能力評価試験(GM-ITE®)プロジェクトマネージャーを務める。
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