医学界新聞

寄稿 近藤敬太

2023.10.30 週刊医学界新聞(通常号):第3539号より

 2023年の通常国会で成立した「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」では,かかりつけ医機能を強化するための制度整備が盛り込まれた。かかりつけ医機能を担う医療機関としては,診療所のみならず,中小病院も想定されている。では,中小病院にはどのようなかかりつけ医機能が求められているのか。当院のこれまでの取り組みと,全国の中小病院でかかりつけ医機能を実装するための課題や展望について述べる。

◆病棟・外来・在宅・地域をシームレスにつなぐコミュニティ・ホスピタル

 豊田地域医療センターは,新たな病院像である「コミュニティ・ホスピタル」という概念を提唱してきた。コミュニティ・ホスピタルとは,病棟・外来・在宅をシームレスにつなぎ,地域とのかかわりを大切にした病院のことであり,具体的には下記の3項目で定義されている。

1)総合診療を中心とし,地域住民の健康管理や救急医療をはじめとする必要な医療を提供できる病院
2)充実した在宅医療体制を有し,地域の医療・介護・福祉機関と協力して地域包括ケアシステムの構築に貢献する病院
3)地域医療にかかわる人材が体系的に学び成長できる環境を整え,人々が集い交流する地域に開かれた病院

 つまり,プライマリ・ケアを担う総合診療を中心に,今までの病院に求められたケアミックスの外来や病棟機能だけでなく,在宅医療や住民と協働した地域活動まで取り組む病院像を示している。また,地域医療にかかわる人材の教育にも力を入れていく必要があり,当院では藤田医科大学と連携し総合診療医を育成するプログラムのほか,訪問看護師や療法士を育成するプログラムを豊田市からの委託を受け運営している。

◆中小病院ならではの特性を生かしたかかりつけ医機能

 かかりつけ医機能を持つ中小病院の診療所との最大の違いは,病床機能を持ち,夜間も含めて複数の医師体制を作りやすい点である。そのため診療所と比べてより重症な患者の外来や在宅でのフォローが可能となるほか,急性期~慢性期まで地域の医療ニーズに合わせた病床機能を持つことができる。外来や在宅医療におけるかかりつけ医機能を強化することも可能だ。また,一人の患者に対して在宅~外来~病棟とどの診療の場でも同じ医療者や関係職種がかかわるため,患者としては安心感につながり,医療者としては診療に対するモチベーションの向上や地域包括ケアシステムの全体像をとらえられ,プライマリ・ケアの機能である継続性や包括性,協調性を学ぶことができる。

 かかりつけ医機能を持つ診療所との連携も重要である。当院では,地域の診療所と当院のCTやMRIを共同利用する取り決めを行い必要な患者へ検査機会の提供を行っているほか,地域の医師会が中心となり機能強化型(連携型)在宅療養支援病院・診療所となることで在宅医療を担う診療所の負担を軽減する連携支援体制を構築している。

◆全国の中小病院に実装する上での課題と展望

 現状,最も課題として感じているのは総合診療医の不足である。コミュニティ・ホスピタルも含めたプライマリ・ケアを専門で行う総合診療医は,2023年度の専攻医採用の3.1%(9325人中285人)となっており,OECD加盟国平均の約30%という数字を大きく下回っている。前述のように,今後は中小病院がかかりつけ医機能に教育機能をプラスし,総合診療医を育成するプログラムの運営を通じて総合診療医を増やしていく必要がある。また,中小病院の3~4割は赤字と考えられ,その多くが人材不足に悩んでいる。中小病院のコミュニティ・ホスピタル化が収益改善や,医師を含めた多職種の人材確保につながる可能性がある。

 最近では,コミュニティ・ホスピタルにかかわる学術団体であるCommunity Hospital Japanや,コミュニティ・ホスピタルの経営支援や人材育成を行う一般社団法人であるコミュニティ&コミュニティホスピタル協会が立ち上がるなど,全国でもさまざまな取り組みが始まりつつある。今後,かかりつけ医機能やより質の高いプライマリ・ケアの提供のために中小病院が果たすべき役割は大きい。中小病院がより多くの総合診療医育成の場となり,そこで働くことが総合診療医にとって輝かしいキャリアのひとつとなることを期待している。


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豊田地域医療センター総合診療科在宅医療支援センター長/藤田医科大学連携地域医療学 助教

2014年愛知医大卒。トヨタ記念病院にて初期研修,藤田医大総合診療プログラムにて後期研修を修了。現在は豊田市を中心に約600人に在宅医療を提供している。夢は愛知県豊田市を「世界一健康で幸せなまち」にすること。まちに出る“コミュニティドクター”としても活動している。

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