医学界新聞

取材記事

2023.10.16 週刊医学界新聞(通常号):第3537号より

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写真 間野博行氏

 第82回日本癌学会学術総会(学術会長=国立がん研究センター研究所・間野博行氏)が9月21~23日,「ようこそ新しい時代へ――Welcome to the New Era」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。本大会からバイオインフォマティクスの学習の場を提供するシンポジウムが開催されるなど,日本癌学会のミッション「がん研究を通してがんを征圧する」を果たすための新たな取り組みが行われた。本紙では,一般口演「AIのがん診断への応用」(座長=国立がん研究センター研究所・金子修三氏)の模様を報告する。

 

 最初に登壇した山田真善氏(国立がん研究センター中央病院)は,深層学習を活用した大腸内視鏡検査リアルタイムAI診断支援システムWISE VISION®の概要と,その性能を紹介した。同システムが,約1万病変,25万もの内視鏡画像の深層学習により開発され,大腸内視鏡検査における大腸癌病変の検出率を向上させたという研究成果を報告した。同システムの立ち位置として氏は,大腸内視鏡検査を行う医師に替わるものでなく,サポートするものと語った。

 続いて椎野翔氏(国立がん研究センター中央病院)は,自院のデータをもとに機械学習によって構築した日本人乳癌患者の予後予測モデル開発について報告した。同モデルは乳癌初手術患者約3000例の術後10年間の生存期間に関する解析結果から構築したと述べ,日本国内の他施設における乳癌患者症例データを用いて,本モデルの精度を検証したいと,今後の展開を示した。

 一般社団法人医療AIキュレーション協会の長坂暢氏は,デジタル画像上で組織構造を保存しながら細胞分画を評価するAIベースのイメージサイトメトリーの可能性を示した。大腸の癌腫瘍周囲の免疫微小環境における細胞間の共局在と空間相互作用をAIから導くことにより,浸潤先進部,腫瘍内部,三次リンパ系における腫瘍免疫応答の理解につながると説明し,臨床での活用への期待を述べた。

 代謝経路間のフィードバック機構に基づき,尿中代謝物変化量の逆相関から早期癌を診断する新規メタボローム解析法(Inverse Pairs Boosting法)について報告したのは馬場泰輔氏(名大)である。これまでに胆管癌と尿腺癌で,癌によって逆相関する尿中代謝物のペアを同定。早期癌の診断に効果が出ていることを報告し,臨床応用に向けてさらに研究を進めたいと今後の意欲を語った。

 中尾康彦氏(長崎大)は自らが開発中の,肝細胞癌造影CT像に対する免疫チェックポイント阻害薬の症状改善効果の予測モデルの有効性について報告した。同モデルは,免疫チェック阻害薬のアテゾリズマブおよび分子標的薬ベバシズマブ投与前の自院患者43人の肝細胞癌造影CT像に基づいた深層学習により構築されていると解説。その一方で,深層学習に必要な学習データを準備する点での難しさを共有し,今後さらに大規模で効果的な解析を行いたいとの展望を述べた。

 「教師あり学習による深層学習はデータセットで事前に定義された疾患のみを特定するようになっており,定義外の異常に対応できない」。AIモデル開発における課題をこう指摘したのは国立がん研究センター研究所の小林和馬氏だ。この課題の解決に向け氏は,正常な脳の解剖学的特徴を忠実に学習させることで,脳磁気共鳴画像法における目に見えない画像内の「異常な」病変を検出する教師なし学習フレームワークを実証したことを報告。さらなる精度向上と,臨床応用への抱負を述べ発表を終えた。


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