医学界新聞

寄稿 西澤俊紀,畑拓磨,小杉俊介,徳増一樹,堀田亘馬,長崎一哉

2023.08.21 週刊医学界新聞(レジデント号):第3529号より

 私たち日本チーフレジデント協会(Japanese Chief Resident Association:JACRA)は,全国の研修指定病院のチーフレジデントをサポートする日本初の団体として2018年に設立されました。JACRAでは,若手医師のリーダー的存在であるチーフレジデントを対象に,教育,マネジメント,リーダーシップ,メンターにまつわるスキルの底上げをめざした勉強会を年間通して行っています。

 このたび,日本プライマリ・ケア連合学会学術大会2023(愛知)で「良いフィードバックの受け取り方と与え方」をテーマに,インタラクティブセッションを開催しました。その内容を基に,本稿では効果的なフィードバックについて紹介します。

 フィードバックは,医師の臨床パフォーマンスにプラスの影響を与え,自己評価を行いながら医師として成長するために不可欠です。もしもフィードバックがなければミスが修正されず,臨床能力も十分に伸びません1)

 また,フィードバックにも良いものと悪いものがあります。良いフィードバックとは指導医が直接観察した結果に基づいて研修医自身の行動や成果について具体的な情報を提供するものです。これにより,研修医は自身の改善点や問題点を把握し,次の成長に向けて役立てることができます。換言すれば,良いフィードバックとは,カーナビのような存在です。たとえ道を間違えてもカーナビは何度でも正しい目的地への道順を教えてくれますよね。同じように,指導医は研修医の目標に向かって根気よくフィードバックを続けることが大切です。

 ただし,臨床現場でのフィードバックにはいくつかの障壁が存在します。自分の観察に自信がない,観察結果に対して曖昧なフィードバックしかできない,具体的な行動改善のアドバイスができない,フィードバックの時間や場所が制約される,ネガティブなフィードバックを伝える際に相手が怒る可能性がある,などがその例です2)

 こうした障壁を克服するため,効果的なフィードバックを提供するポイントと,フィードバックを受ける際のポイントについて詳しく説明していきます。

 フィードバックの初学者でもわかりやすいように,9つの原則を紹介します(3)

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 フィードバックにおける9つの原則(文献3をもとに筆者ら作成)

フィードバックの前

信頼関係を築く:フィードバックは,指導医と研修医の信頼関係が基本です。研修医がフィードバックを受け入れやすくするために,指導医は日頃から研修医からの信頼と尊敬を築きましょう。また研修医のプライバシーに配慮された個室や場所などを事前に用意し,指導医は研修医の考えや思いに最大限配慮してください。

直接観察に基づく:フィードバックは第三者からの伝聞や判断に基づいた情報ではなく,指導医自身の直接観察に基づいて行われるべきです。

タイムリーに行う:フィードバックはできるだけ早い段階で行うことが望ましいです。指導医も研修医も内容を覚えているうちに行いましょう。

 研修医と年次が離れすぎている指導医は,研修医へのフィードバックにおいて信頼関係の構築や直接観察が難しい場合があります。そのような場合,年次の近い医師(例:チーフレジデント)に研修医へのフィードバックを依頼することも選択肢となります。特にチーフレジデントは研修医と指導医の間に位置し,研修医の近くにいるため,研修医へのフィードバックを適切に行う役割を果たすことができます。

フィードバックの最中

自己評価から聞く:フィードバックの開始に当たっては,指導医は自由形式の質問を使って研修医の自己評価を聞くことから始めます。これは,自己評価から聞くことで研修医がどこまで理解できているのか指導医が確認することができるためです。また研修医の自己評価に対しポジティブな承認を通じて,フィードバックの学習環境をより向上させることができるかもしれません。

目標や目的を提示する:フィードバックの最初に,フィードバックの目標や目的を研修医に説明し,ここまでは達成してほしいという指導医の期待を明確に伝えることが重要です。

具体的かつ客観的に行う:抽象的な言葉ではなく,具体的な言葉を使ってフィードバックを行います。ネガティブなフィードバックを伝える場合でも,主観的な言葉(例:だめだよ,やばいよ)は使わず,客観的な事実に基づいた言葉を使いましょう。

フィードバックの最後

学習者の理解を確認する:フィードバックの後半で,指導医は研修医の理解を確認します。また,研修医自身がフィードバックをまとめることで,記憶の定着に役立ちます。

相手に改善点を決めさせる:フィードバックの後半では,研修医自身に改善点を考えさせ,内省力を高めることが重要です。これによって,研修医にとって現実的に改善できそうなことなのか,どのような障壁があるのかを,指導医はより理解できます。また研修医がどの点を改善したいと選択したのかを指導医は知ることができます。

フィードバックを振り返る:フィードバックが終わった後,指導医は自身のフィードバックを振り返り,研修医が理解したかどうかや,次回の改善点を考えましょう。また,研修医から指導医へフィードバックがあるような,相互のフィードバックを促す文化は組織としての成長につながります。

 ここからは,フィードバックを受け取る際の3つの心構えを解説していきます。

フィードバックは贈り物:フィードバックは贈り物としてとらえましょう。その贈り物は,「すぐに生かすこと」も「後で活用すること」も「全く使わないこと」もできます。もしもネガティブな内容の指導を受けた場合でも,それがフィードバックであると認識することが大切です。指導医は研修医にプラスの影響を与えたいと考えている可能性があるからです。その認識が芽生えれば,前向きにフィードバックを受け入れられるでしょう。フィードバックの受け取り方に迷った場合は,信頼できるメンターに相談することも選択肢の1つです。

失敗は成長の機会:自分の失敗を成長の機会ととらえ,受け入れる思考を持ちましょう。初めての段階では誰もが完璧ではありませんし,助けやフィードバックを必要としています。みんながフィードバックを受けながら成長してきたのであり,学びと成長の機会であると認識することが大切です。

自分自身を知るチャンス:フィードバックを受けることは,新たな自己を発見するチャンスです。指導医からのフィードバックがなければ,自分自身を深く理解する機会は滅多に訪れません。フィードバックを通じて自己の側面を学ぶことは貴重な経験です。

 医療現場での効果的なフィードバックは,指導医が直接観察に基づいた具体的な情報を提供し,研修医の成長に役立てることを目的とします。フィードバックの際には,ぜひ9つの原則を思い出してください。


1)Arch Pathol Lab Med. 2019[PMID:30102068]
2)J Grad Med Educ. 2015[PMID:26221437]
3)Med Teach. 2012[PMID:22730899]

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聖路加国際病院一般内科/日本チーフレジデント協会

2017年東京医歯大卒。聖路加国際病院にて内科初期研修を修了。研修医業績優秀賞を受賞する。聖路加国際病院内科・救急部,豊田地域医療センター総合診療科,国立国際医療研究センター小児科での研修を経て,聖路加国際病院総合診療プログラムを21年に修了。 聖路加国際病院2021年度内科チーフレジデント。総合診療専門医。23年度より日本チーフレジデント協会(JACRA)代表。

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水戸協同病院総合診療科/日本チーフレジデント協会

2017年筑波大卒。同大病院にて初期研修修了。19年より水戸協同病院総合診療科。21年下半期には同院のチーフレジデントを務める。22年からは同院総合診療科アテンディングスタッフ。診療に携わる傍ら,日本チーフレジデント協会(JACRA)代表として医学教育を,総合診療医学会・良質な診断ワーキンググループメンバーとして診断エラーを防ぐための学術活動・啓蒙活動も行う。一般社団法人病院マーケティングサミットJAPAN チーフエヴァンジェリストとして医療の枠を超えた新産業を産み出している他,歌手としても活動する。

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飯塚病院総合診療科 医長/日本チーフレジデント協会

2012年熊本大卒。北九州総合病院にて初期研修を修了後,飯塚病院総合診療科に入職し,現在は同科の医長を務める。23年度に九大大学院医学研究院医学教育学講座博士課程へ入学。18年には有志らと卒後研修の質向上を若手医師自らで行うことを目的として日本チーフレジデント協会(JACRA)を設立した。日本医学教育学会若手による医学教育とそのキャリア支援部会部会員,日本緩和医療学会専門医認定・育成委員会研修指導者講習会ワーキングプラクティショナーグループの委員などを務めている。

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岡山大学病院総合内科・総合診療科 助教/日本チーフレジデント協会

2013年岡山大卒。沖縄県立中部病院での初期臨床研修・内科後期研修を修了。卒後4年次にはチーフレジデントとして研修医のトラブルシューティング・マネジメント・メンタリングも行う。沖縄県立北部病院総合内科スタッフを経て,18年岡山大病院総合内科・総合診療科助教として着任。一般外来の他に,不明熱外来やコロナ・アフターケア外来を担当し,総合内科・総合診療科としての強みを生かした診療と,医学生・研修医・専攻医の臨床教育に当たる。

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洛和会音羽病院感染症科/日本チーフレジデント協会

2016年京府医大卒。飯塚病院で初期研修,総合診療科で専攻医を修了。20年度同科チーフレジデント。21年高槻病院総合内科, 同年内科専門医取得。22年4月洛和会音羽病院総合内科,同年10月より同院感染症科。20年より米国内科学会日本支部Resident-Fellow Committee委員長。

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筑波大学水戸地域医療教育センター 講師/日本チーフレジデント協会

2013年名市大卒。15年より水戸協同病院総合診療科。専門は病院総合診療。18年Harvard Introduction to Clinical Research Training(ICRT)―JAPAN programを修了。20年度から筑波大大学院医学学位プログラムに在籍し,22年度に早期修了。23年5月より同大水戸地域医療教育センター講師。主な研究テーマは研修医の働き方改革や医師の健康。

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