医学界新聞

取材記事

2023.07.24 週刊医学界新聞(通常号):第3526号より

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写真 山本登氏

 第25回日本医療マネジメント学会学術総会(会長=横浜メディカルグループ菊名記念病院・山本登氏:右写真)が,「病院医療の展望――『パンデミック・災害とBCP』から『求められる医療』へ」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。本紙では,大会のテーマを冠したメインシンポジウム「『パンデミック・災害とBCP』から『求められる医療』へ」(座長=労働者健康安全機構・有賀徹氏)の模様を報告する。

◆災害対策のために平時からの地域連携を

 初めに登壇したのは,東北医薬大の伊藤弘人氏。氏は関東大震災,阪神・淡路大震災,東日本大震災において,災害関連死の80%以上は病院搬送前に起こっているとのデータを示し,地域の災害対策に病院が積極的にかかわり,医療組織と防災組織が平時から連携して災害への備えに当たる必要性を主張した。また,災害に強い地域を作ることは災害時の医療需要を抑制できる可能性にもつながるとし,既存の病院BCP(Business Continuity Plan)の在り方に「医療・介護連携」「インフラ保全・地域マネジメント」の2つの視点を追加した,災害に強い地域づくりに寄与する病院のフレームワークを示した。医療組織と防災組織の現実的な連携方法として,災害拠点病院→地域密着型病院→介護保険施設→地域防災組織という階層的な構造を挙げ,今後この連携構造の実効性を高めることの重要性を述べ,発表を終えた。

 日赤災害医療統括監を務める丸山嘉一氏は,日赤での災害救護活動は発災時の応急救護のみならず,医療・保健・福祉・生活の領域を発災から復興・復旧まで支える,災害マネジメントサイクルの全般にわたる活動であり,支援のためにはボランティアをはじめとする地域内の他組織・団体との協力が不可欠であると述べた。日赤では47都道府県それぞれの支部が主体となって災害対応を行っており,これらの支部は日ごろからボランティア活動や講習会などを通じて地域のコミュニティづくりに貢献している。こうして構築した各地域独自の連携体制を,災害時の連携・協働にも生かしていると言う。また氏は復興・復旧時に必要となる健康と生活の支援活動には,日ごろから地域の各施設と連携を図る看護職・医療ソーシャルワーカー・ボランティアや,災害医療コーディネーターの活用が有効だとの考えを示し,これらの職種を生かした地域連携の方策をさらに検討していきたいと語った。

 日本病院会救急・災害医療対策委員会の委員として,同団体が作成した「病院等における実践的防災訓練ガイドライン――補遺・改訂版」(2019年)と「病院等における風水害BCPガイドライン」(2022年)の内容を解説したのは,戸田中央メディカルケアグループの野口英一氏。これらのガイドラインは日本病院会会員病院の火災,浸水などの水害の被災経験に基づいて作成されており,実践的な対応をまとめたものである。「患者と職員の安全を一番にする」という行動目標を病院管理者が周知徹底し,職員は防災のプロではないことを前提にした対応策の立案が求められると述べ,病院の防火区画等の建物避難施設,自動火災報知設備やスプリンクラーなどの消火設備を生かしながら,早期通報によりプロである消防隊と連携することが実践的な火災対応であるとした。特に人員の少ない休日・夜間体制では,火災時に患者を介助しながら避難階段で下の階に降りる「垂直避難」は困難であり,同じフロアの隣接する防火区画に避難する「水平避難」や消防隊の到着まで防火区画内に籠城する「籠城避難」を検討するべきと解説。また,浸水危険などの水害については,気象予報を通じて事前に予測可能であることから,発災までのタイムラグを活用して危険回避対策をすることができる。状況に合わせた対応を講じるべく,組織的に水害対応の情報収集・伝達,対応判断を行う災害情報連絡室の設置を推奨した。

 病院建築の専門家である小林健一氏(国立保健医療科学院)は,阪神・淡路大震災,東日本大震災,熊本地震について建築設備の視点から振り返った。氏は,それぞれの地震により病院の耐震化,敷地選定,地域連携の重要性が教訓として得られたと説明。熊本地震は,被害の大きな病院から小さな病院への患者搬送や病院間の物資の融通などが迅速に進んだことが特徴であり,平時からの地域医療連携の有効性が示された事例であると述べた。続けて,平成30年7月豪雨の際に愛媛県大洲市のとあるコミュニティホスピタルの被災から病院機能回復までの流れと,同施設が行った事前の対策を紹介した。この病院は床上浸水し,エレベーターやエスカレーター等の諸設備の基盤やMRIが水没したにもかかわらず,発災から3日後には病院機能を回復させ,外来診療を開始,翌日には予約手術も開始したという。過去の水害体験より,病院機能を2階以上に設置するなどの設備面での浸水対策を十分に行っていた上,職員の意識向上のために年1回防水訓練を実施していたことが,早期の復旧につながったとの見解を氏は示した。発表の最後に氏は,ハード面(病院設備)とソフト面(訓練による意識の徹底)の双方から対策することの大切さを強調し,過去の災害から学び,知識が蓄積されてきた今こそ,災害対策を実践に移すときだと参加者たちに呼びかけた。


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