医学界新聞

寄稿 前田幹広

2023.06.05 週刊医学界新聞(通常号):第3520号より

 医療安全において,薬剤は重要な位置を占める。特に集中治療室(ICU)では,多くの薬剤を投与開始し,その上患者の病態が常に変動するリスクがあるため,薬剤の有害事象は起きやすい。

 ICUにおいては,限られたルートの中で多数の静注薬を同時に投与せざるを得ない状況があり,「配合変化の有無」はルート選択する上で大きな要因のひとつである。そのため,ルート管理を行う上で配合変化情報は必須であり,その情報提供に薬剤師が貢献することができる。2020年に日本集中治療医学会「集中治療における薬剤師のあり方検討委員会」(現在の「薬剤委員会」)が策定した「集中治療室における薬剤師の活動指針」では,「注射薬を投与する場合は,薬効や配合変化,投与速度を考慮して投与ルートの選択を提案する」と記載がある1)

 配合変化は薬剤による有害事象のひとつであり,薬剤師のかかわりが重要であることは言うまでもないが,医師・看護師などと配合変化の考え方を共有することで,共通言語を用いたチームでのルート管理を行うことが可能となる。本稿では,配合変化の基本的知識を概説した後,多職種で検討可能な対策を紹介する。

 配合変化とは,2種類以上の注射剤を混合した際に,その主薬や添加物によって生じる変化である。1対1で混ぜた際に起こり目に見える変化である「物理的配合変化」と,同じバッグやシリンジに混注した際に起こる力価の低下である「化学的配合変化」に分けられる。配合変化による影響としては,①混濁・沈殿によりルートのつまりや力価の低下を起こすもの,②着色かつ成分分解により効果減弱するもの,③見た目には変化がないが成分分解による効果が減弱するもの,の大きく3つに分類される。

 側管投与の場合には,少なくとも物理的配合変化がないことの確認が必要だが,バッグやシリンジに一緒に混注する場合には,物理的配合変化だけではなく,化学的配合変化がないことの確認も必要となる。物理的配合変化の要因は,溶解性,吸着,収着などであり,化学的配合変化の要因は,pH,光分解,凝析,塩析,酸化-還元反応,加水分解などである。

 ICUでは多剤,特に静注薬を同時に使用することが多く,限られたルートの中で配合変化を確認しながらルートの選択をする必要がある。さらに,ICUで使用する静注薬の多くが配合変化を起こしやすい薬剤(表1)であることも,ルート選択を複雑化させている要因である。ICUにおける配合変化の頻度は2~8.5%で起きているとされている2)。配合変化の弊害は,力価の低下やルートの閉塞だけではなく,まれではあるものの過去には肺塞栓の報告もある。

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表1 配合変化を起こしやすい薬剤の例

 一方で,配合変化は奥が深い。病院薬剤師ならば(新人であっても)誰しもが病棟スタッフから受ける代表的な質問であるが,実は確認する資料によって,あるいはひとつの資料でも見方によって回答が異なる可能性がある。その理由としては,配合変化は,薬剤濃度,希釈液,製薬会社,混注時間など複数の要因によってデータが異なる場合があるのだ。

 薬剤濃度を例に挙げると,異なるアミオダロンの濃度(1.8 mg/mLと3 mg/mL)を同じ希釈液に溶解し,同じ濃度のアルガトロバン(同じ希釈液)と側管で投与したところ,1.8 mg/mLでは配合変化が見られ,3 mg/mLでは目に見える配合変化はなかったという報告がある(表23, 4)。アミオダロンを3 mg/mLで投与することはあまりないと一般的に考えられるが,実際投与している濃度と異なる配合変化データの場合は注意が必要である。また,このデータはあくまで物理的配合変化のみであり,化学的配合変化のデータは示されていないため,アミオダロンの力価の変化の有無は不明である。

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表2 異なる薬剤濃度の配合変化データ(文献3,4より)

 こうした事情から,回答する薬剤師によって対応が異なってしまう可能性がある。また,ICUのように即座に薬剤を投与する必要がある場面が多いと,薬剤部へ毎回問い合わせるのは臨床的にも効率が悪い。そのため,施設によっては配合変化表を作成しICUに配置している。

 配合変化表がICUにあることで,看護師と薬剤師どちらの職種も業務の効率化につながる。配合変化表の遵守率は97%という報告もあり,配合変化の頻度を下げる可能性も示唆される5)。一方で限界もある。3種類以上の薬剤が混ざった時のデータはほとんどなく,3剤の場合には2剤ずつの組み合わせですべて問題ないことで確認しているのが現状である。また,データの矛盾についてすべてを配合変化表に反映することが困難であるという問題点も解決されない。

 しかし,配合変化のみにとらわれる必要はない。

 例えば,内服投与への変更が考慮されるべきだ。挿管患者に対してストレス性潰瘍予防の目的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与することがあるが,オメプラゾール注射液は,表1で挙げた通り配合変化を起こしやすい薬剤のひとつである。そのためルート管理の観点から,オメプラゾール注射液を経鼻胃管(NG tube)への投与へと変更することで,ルート管理をしやすくすることが可能となる。ただし,NG投与への切り替えは,消化管吸収に問題ないことが条件のため,①消化管に器質的な問題がないこと,②重度のショックではないこと,③下痢がないことなどを確認後に変更する。オメプラゾールの内服薬は腸溶錠のため,NG投与が可能なランソプラゾールの口腔内崩壊錠に変更することも留意する。

 そのほかルート管理では,インスリンやヒドロコルチゾンなど持続投与している薬剤を間欠投与へ変更できないかを検討したり,そもそも投与している薬剤を見直して,不必要な薬剤を中止することを検討したりと,投与するルートが少ない場合は医師・看護師・薬剤師などのチームでルート管理を総合的に考えることが重要である。

 配合変化はさまざまな原理で起きるため,そのデータも複雑である。臨床で起きる配合変化が,既存のデータと同様であるとは限らず,問題は単純ではない。それでも,緊急性を要することが多いICUにおいて,一つひとつの配合変化を毎回調べることは非効率的なため,配合変化表は有用なツールである。配合変化表の作成や,薬剤投与方法の変更,薬剤の中止など配合変化を考慮したルート管理をICUの多職種チームで対応していく必要がある。


1)日本集中治療医学会集中治療における薬剤師のあり方検討委員会.集中治療室における薬剤師の活動指針.日集中医誌.2020;27:244-7.
2)Ann Pharmacother. 2013[PMID:23606550]
3)Am J Health Syst Pharm. 2004[PMID:15581266]
4)Trissel LA. Compatibility of selected parenteral drugs with amiodarone hydrochloride. Compatibility data. 11. 2014. TriPharma.
5)J Nippon Med Sch. 2022[PMID:35545550]

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聖マリアンナ医科大学病院薬剤部 課長補佐

2002年東京理科大薬学部薬学科卒。08年に米Nova Southeastern University Pharm.D.課程を修了。米国で薬剤師免許取得後にTemple University Hospitalにて臨床薬学一般レジデント,University of Maryland Medical Centerにて集中治療専門薬剤師レジデント。10年より聖マリアンナ大病院薬剤部に入職し,救命救急センターICU/HCUの病棟担当薬剤師として従事。23年度より日本集中治療医学会薬剤委員会委員長を務める。

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