医学界新聞

寄稿 向山綾子

2023.05.29 週刊医学界新聞(看護号):第3519号より

 訪問看護ステーション トータルケア(株式会社Le-caldo/代表取締役:若松冬美)は,埼玉県所沢市と入間市に拠点を構え,所沢市,入間市,狭山市を中心に埼玉県西部で訪問看護を展開しています。「三つの看護のチカラ」(詳細は後述)を企業理念とし,24時間365日営業の,全ての年齢,どのような健康状態の方も受け入れる,看護師のみのステーション運営を行っています。

 2022年12月1日現在の社員数88人のうち看護師は55人です。各ステーションの在籍看護師数は,所沢の小手指ステーションで50人(常勤換算32.0),入間ジョンソンタウンステーションで5人(常勤換算5.0)。全職員のうち8割以上が子育て世代であることを受け,2022年春に保育,病児保育,学童の一体型施設「リカルドキッズガーデン」を開業しました。子どもたちの第二の居場所として,職員だけでなく地域の子育て家庭にも門戸を開いており,在宅医療と子育て支援の両面から,地域の暮らしを支えることをめざしています。

 ステーションの大規模化後も,開設当初の体制の名残で,看護師でなくても対応できる内容の電話を看護師が受け続けている状況がありました。そのため,看護師と患者・家族双方の視点での課題が生じていました。看護師は電話対応のためにケアを中断しなければならず,看護師本来の業務に集中できない,患者はケア中断の不利益を被る,電話をかけてもなかなか電話につながらないことに不安を覚えるといった課題です。そこで,当ステーションでは看護師ではない職員による電話対応専属部署(コールセンター)を立ち上げ一次応対を行うことで,看護師が看護に専念できる環境を整備しました()。

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 24時間稼働の電話対応専属部署(コールセンター)の体制(株式会社Le-caldo Webサイトより転載)
コールセンターでは利用者やケアマネージャー,連携医療機関等からの問い合わせに一次応対し,内容に応じて最適部署へ業務を引き継ぐ。

 コールセンターでは電話対応の質向上に取り組んでいます。具体的には,マニュアルの作成や効率的なオペレーションの構築,体調に関する問い合わせに緊急訪問で対応する仕組みの導入,看護師の位置情報を把握して患者宅への所要時間を伝えるといった取り組みを行っています。さらに,情報共有システムに対するフィードバック体制を構築し,システムの改善点を常に把握して順次改善しています。電話対応から看護師への連絡,患者対応までをスムースに行うことで,患者と家族への安心感の提供に努めている次第です。マニュアルには,業務遵守事項,注意点,具体的な対応例,アクシデント対応,業務引き継ぎなどの項目が含まれています。特に,看護師に引き継ぐべき体調に関する問い合わせについては明確な指示を記載しています。マニュアルは随時更新され,コールセンター職員間で情報共有されます。マニュアルの遵守により,部署内で均一な応対が行われ,電話対応の質を担保できるようにしています。

 コールセンター設立による看護業務効率化の成果として,看護師1人当たりの時間外業務の月平均が22時間から8.5時間へと13.5時間削減されました。また,患者とその家族からは,電話対応によるケア中断がなくなったことへの肯定的な反応,いつ電話をかけても迅速に対応してもらえる状況への安心感などが聞かれています。また,そうした成果に対して,日本看護協会「看護業務の効率化先進事例アワード2022」で最優秀賞を受賞しました。

 コールセンター設立に代表されるように,当ステーションは看護師が看護に集中できる環境整備に全力で取り組んでいます。背景には,近年の急速な高齢化に伴う医療政策上の在宅へのシフトを受け,質の高い在宅医療・看護の提供が急務となっていることがあります。当ステーションでは,「地域のための看護のチカラ」「看護師のための看護のチカラ」「未来の日本のための看護のチカラ」の3つを看護師が発揮することによる社会貢献をめざしています。そのために,看護師の働きやすさにフォーカスして,柔軟な勤務体系,報酬体系,保育学童一体型施設の開設,大学院進学支援制度等,さまざまな仕組みを構築しています。その中から柔軟な勤務体系,大学院進学支援制度について以下に紹介します。

◆柔軟な勤務体系「働き方,自由自在」

 当ステーションは,看護師が希望する働き方に合わせて3パターンの勤務形態(パートタイム型,時短型,フルタイム型)を用意しています。各勤務形態の条件の中で,自由にシフトを組むことができます。勤務希望を提出する時は,休みの希望を出すのが一般的かと思いますが,当ステーションでは働きたい時間を入力します。働く時間以外は,自動的に休みになります。

 自由な働き方ができる理由は,独自のシステムと保育園の完備にあります。当ステーションでは,出勤時間に応じた給与と訪問時間に応じた訪問手当の2段階の報酬制度を取り入れています。これにより,報酬がたくさんほしい人は多く働く,プライベートを重視する人はバランスを取りながら働く,という選択が可能になります。また,勤務時間帯に関してはフルフレックス制度を導入し,希望する時間帯に働けるようにしています。さらに,勤務者が不足する日や時間帯の就業に対してインセンティブを付与しており,フェアな報酬を受けられます。加えて,先に述べた保育学童一体型施設「リカルドキッズガーデン」は365日開園しており,ライフステージにより必要となるサポートを会社が行うことで,看護師の働きたいニーズに応えています。看護師の働き方を「職場に合わせてライフスタイルを調整する」から,「ライフステージに合わせて働き方を選ぶ」へ移行させることで,一人ひとりの生き方を尊重したいというのが当ステーションの考えです。

◆大学院進学支援制度

 当ステーションでは,定期的に看護師と面談を行い,本人の希望と特性に沿ったキャリアパスを一人ひとりに提示しますが,キャリアパスの通過点として大学院進学を推奨しています。看護実践の場を離れずに働きながら,有給で大学院に通うことができる「リカルド大学院奨学金制度」を設立しています。入学金・授業料の全てを当社が負担し,卒後勤続年数に応じて返済免除となる,給付型奨学金制度です。また,在学中は本人の希望により,課題達成支援や研究サポートも行います。

 本奨学金制度を利用して,当ステーションから初めてがん看護専門看護師(CNS)が2020年に誕生しました。埼玉県内の訪問看護ステーションに所属するがん看護CNSとしても,初めの一人です。地域の在宅医療水準向上のために,今後も各分野のCNSの育成を目標としています。2023年4月現在,この制度を利用し大学院へ進学している看護師が1人,CNS獲得に向けて実習準備をしている看護師が1人います。

 患者に質の高い看護を提供するためには,看護師が看護に集中できる環境整備を進めることが重要です。それは当ステーションに限らず,看護師が働く全ての医療機関や事業所に当てはまるでしょう。看護業務の効率化を進める上では,患者・利用者に提供できる利益は何なのかという視点が重要になると考えます。訪問看護ステーションにおけるコールセンターの設置では,看護師の電話対応時間を削減できました。削減できた時間の分,看護師は多くの利用者のもとに訪問できるようになり,在宅医療の受け皿を広げることができました。在宅医療の需要が高まる中,地域の受け皿を広げていけるよう,当ステーションは引き続き邁進まいしんしてまいります。


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訪問看護ステーション トータルケア

日大医学部附属看護専門学校卒。母子保健研修センター助産師学校卒。2009年日大板橋病院などを経て,20年より現職。助産師。

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