市民データに基づいたコロナの情報発信
寄稿 岸田 直樹
2023.05.08 週刊医学界新聞(通常号):第3516号より
厚生労働省主催の「上手な医療のかかり方アワード」は,「いのちをまもり,医療をまもる」国民プロジェクトです。医療のかかり方の改善に資する優れた取り組みの奨励・普及を図ることを目的とした表彰制度で,5つの方策が提示されています(https://kakarikata.mhlw.go.jp/)。
今回,当法人が札幌市とコロナ対策でかかわらせていただいたプロジェクトのひとつである「札幌市民データに基づいたコロナの情報発信――ワクチン効果,症状発現率とセルフケア」が第4回「上手な医療のかかり方アワード」最優秀賞(厚生労働大臣賞)を受賞しました。
◆なぜ「市民データに基づいた」情報発信が重要なのか
私たちはこれまで,札幌市のコロナの流行状況およびその特徴を,ウイルスの変化に合わせて市民メガデータをもとに提供してきました。そのデータのひとつが感染者の年代別症状頻度(註1)です。10万人近い市民メガデータから算出し,各人に合った,より具体的な症状への対応方法・準備策を提示しました(図,註2)。また,新しい技術であるmRNAワクチンの効果を,市民データからリアルタイムに算出。これらの情報を市および札幌市医師会のウェブサイトから毎週発信しました。
コロナに関連した情報に対して,市民は不安でいっぱいです。「海外の情報が本当に自分たちに当てはまるのか?」という思考は,特に日本においては起こりやすい現象です。そのような中,実際に札幌市民10万人前後のメガデータからワクチン効果や年代別症状発現率データなどを迅速に提供することは,患者・家族の不安を解消するために重要です。さらには,各地域がコロナと上手に付き合っていくためにも,「市民のデータに基づいた情報発信」が信頼の醸成や協力体制の構築につながると考えたのです。
◆「上手な医療のかかり方」を地域住民自らが考え,つくっていくために
市民データに基づいたワクチンの効果を提示した結果,ワクチン接種を円滑に推奨することができました。また,年代別症状発現率からセルフケアの準備と対応法,そして受診のタイミングの情報をわかりやすくシンプルに提示したことによって,風邪やインフルエンザに罹患した場合のセルフケアの知識の底上げにもつながったと考えています。
少子高齢化が進む今後の日本社会では,地域ごとの上手な医療のかかり方を,地域住民自らが考え,つくっていくことがますます求められます。それは,感染症の流行で危機的な状況となった医療現場の改善にもつながるでしょう。
「市民データに基づいた情報発信」が,行政と市民,医療現場の協力体制の構築につながると確信しています。
註1:本研究は北大呼吸器内科と札幌市,当法人の共同研究として,近日大手の査読付き雑誌に掲載予定。
註2:新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの札幌市における現状の備えの詳細については,当法人のウェブサイトからダウンロードできる。
岸田 直樹(きしだ・なおき)氏 総合診療医・感染症医/感染症コンサルタント/一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事
東工大中退,旭川医大卒。静岡がんセンター感染症科フェローを修了し,手稲渓仁会病院総合内科・感染症科を経て2014年Sapporo Medical Academyを設立。その後,北大MPH,PhDコースで感染症疫学を学び(西浦研),20年から札幌市危機管理局参与としてコロナ対策に従事。北海道科学大・東京薬科大客員教授も務め,新時代で活躍する薬剤師の育成にかかわる。
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