医学界新聞

寄稿 秋山和宏

2023.04.24 週刊医学界新聞(看護号):第3515号より

 当院の排便サポートチームは褥瘡対策チームから派生した。2019年より始まり,今年で4年目に突入したことになる。難治性下痢に起因する失禁関連皮膚炎は,褥瘡回診時に遭遇することが多く,創の悪化原因となることが知られている。院内の褥瘡保有患者が減少するなかで,下痢をはじめとする排便管理は臨床上とても重要で,古くて新しい問題であると気づいた。実際,現場で排便管理の問題を取り上げると,さまざまな課題が浮き彫りとなる。これは昔からある課題に時代的な恩恵を駆使することで新たな展開が生まれることを指す。

 慢性便秘症患者は健常人と比較してQOLが低下し,死亡率が高まることもわかってきた1)。長期使用により習慣性や効力低下がみられる刺激性下剤が長年使われてきたが,昨今の各種下剤の新規保険収載や「慢性便秘症診療ガイドライン」の登場は,排便ケアに再考を促す格好の機会となった。また,超音波診断装置の進歩が便の観察を可能にしつつある。

 臨床の現場で課題が見つかった場合,チーム医療で対応するのが得策である。単独の職種や部署でアプローチするのは時間と労力の無駄になることが多いからだ。また,当院で発足した排便サポートチームのように前例の無いチームを新たに編成する場合,メンバーの選抜には自発性を優先すべきである。上長からの任命制でやってくるメンバーの士気は標準以下のことが多く,初動時の難局を乗り切るには心もとない。皆で楽しみながら諸課題を乗り越えていかなければならないため,当院では放課後の部活動の感覚で参画してもらうようにしている。

 チーム医療にはすり合わせ型と組み合わせ型の2つの型がある。チーム医療といえば多職種による回診シーンを思い浮かべる方が多いと思うが,回診はすり合わせ型のチーム医療に過ぎず,回診前の各職種による情報収集など,組み合わせ型のチーム医療を疎かにしてはならない。各職種が専門的視点で集めた情報を電子カルテ上に記載し,回診前に情報共有を行う(組み合わせ型)。その上で,回診しながら多職種でディスカッションをして治療方針を決めていくのである(すり合わせ型)。両輪となる2つの型を連動させてこそ,チーム医療の本来の力が発揮されるのだ。この場合のシナジー効果は医療の質向上,効率化にとどまらない。紙面の関係で今回は触れないが,特にメンバーの士気向上の効果を見逃してはならない。

 排便サポートチームのメンバーは,医師,看護師,薬剤師,管理栄養士,作業療法士,臨床検査技師とした。特に看護師の役割は極めて重要だ。日々,排便管理の課題と向き合ってきた当事者だからである。専門家としての皮膚・排泄ケア認定看護師(以下,WOCナース)はもちろんであるが,きめ細かい情報収集と日々のケアを実践する病棟看護師の存在が成功を左右すると考えている。

 薬剤師は下剤選択における情報提供者であり,主たる処方箋決定者でもある。以前は刺激性下剤中心の処方であったが,新規薬剤の保険収載によって排便サポートにおける手練手管が豊富となった。薬剤の効用は一律ではなく,年齢,性別のみならず,日々刻々と変化する患者状態に左右される。病棟薬剤師の参画により,きめ細かい適時の対応が可能になっている。われわれはチームの薬剤師を“下剤ソムリエ”と呼称し,質の高いテーラーメードの下剤処方を提案してもらっている。

 管理栄養士については,既に栄養サポートチームの普及によって適正なエネルギー,蛋白摂取に貢献してもらっているが,排便サポートチームにおいては新たにシンバイオティクスの提案という役割が加わった。これも最先端の医学的知見の恩恵であろう。作業療法士にはADL評価と見通しを意見してもらっている。エコー担当者としての臨床検査技師の存在は,当チームのイノベーションの主役である。

 回診の流れを説明する。まず病棟看護師が該当患者を抽出し,排便サポートチームに介入依頼を行う。WOCナース,医師が受諾の判断をし,介入リストに挙げ,回診を行っていく。回診はベッドサイドでのチームカンファレンスの場となる(写真)。

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写真 ベッドサイドにおける排便サポート回診の様子

 先述したように各職種による事前の情報収集が肝心である(組み合わせ型)。具体的には,病棟看護師による排便記録,薬剤師による下剤使用歴の確認および排便に影響し得る点滴,注射薬を含む薬剤全般のチェック,管理栄養士による食事摂取量や経腸栄養を含む食形態情報の共有などが挙げられる。理学療法士,作業療法士によるADL評価も重要だ。回診時には,臨床検査技師による経腹部アプローチ,経臀裂アプローチのエコー検査2, 3)で大腸における部位別の便の有無,性状を観察する。ちなみに,延べ500例以上のエコー画像と実際の便の性状との突合経験により,エコーによる便性状の診断は可能であると確信している。各職種から提示された情報,そしてエコー検査の結果をもとに,チーム間で忌憚のないディスカッションを行い,最後に医師が総合的判断をまとめ,主治医に提案する。こうした一連の排便サポート回診により,排便管理の質向上を図っている。

 排便サポートチームによる回診を行うと,全患者がブリストールスケール4のバナナ状の有形便になると勘違いされるかもしれない。そうなるに越したことはないが,実際は半数以下である。そう簡単にはいかないのだ。仮にブリストールスケール4の普通便が直腸内に移行できていたとしても,高齢の入院患者の場合,骨盤底筋その他の筋力低下によって排出できないことも少なくない。われわれは排便サポートにおけるさまざまな手練手管を用意している。一の矢が駄目であれば,二の矢,三の矢で対応している。

 しかし,それでも納得できるゴールに至らないことも多々ある。そうした場合にはどうしたら良いか? 的を代えるのである。ブリストールスケール4の自力排便は理想中の理想と思っていたほうが良い。自力排便が無理であれば,われわれは浣腸や摘便も厭わない。ただし,それらは計画的に行われなければならない。連日の排便にこだわる必要もないだろう。長期入院の高齢患者には意思疎通もままならない方も多い。そうした方には週2,3回の日中の計画排便をゴールとすることで,ご本人も病院・施設スタッフもある程度の満足が得られるのである。

 という訳で当院の排便サポートチームは,「自分らしいと思える排便を支える」ことをミッションに据えている。そこで見いだされる知見はさまざまな臨床現場で生かされ,多くの患者の苦痛軽減に役立つのだと信じている。それは必ずしもチームで行われる必要はなく,例えば在宅医療の訪問看護師であったり,介護施設でのスタッフによっても生かされたりするはずである。

 臨床における1つの課題にチームで取り組む時,各職種の可能性が広がるのは間違いない。職域の拡大につながるのである。排便サポートチームの実践によって何が変わったのか? 開始当初は予想していなかった点ではあるが,患者参加型の医療に近づけている気がする。なぜなら排便の満足度は本人の主観に負うところも多く,きめ細かい対話が必要になるからだ。意思疎通のできない患者の場合でも,われわれはエコー画像所見を含む便と常に対話をしている。数字によるアウトカムは参考文献4を参照していただきたいが,3年間の活動を通して感じることは,排便サポートにおける病棟看護師の重要性である。近年は,この分野における主役としての自覚も生まれてきており,便エコーの技術習得に積極的な方も多く見かける。看護師にとって聴診器が日常臨床の友であるように,エコーがそれに加わる日も近い気がする。「空気に爪を立てる」感覚で課題を見いだし,これからも医療界の発展に寄与したいと考えている。


1)Atherosclerosis. 2019[PMID:30658186]
2)Geriatr Gerontol Int. 2020[PMID:31910312]
3)佐野由美,他.超音波検査による便性状評価の検討――経臀裂アプローチ走査法における下部直腸評価の有用性.超音波検技.2020;45(2):168-74.
4)秋山和宏,他.多職種協働による排便サポート回診の実践.日創傷オストミー失禁管理会誌.2022;26(3):298-302.

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東葛クリニック病院 副院長/東葛クリニックみらい 院長

1990年防衛医大卒。東京女子医大消化器病センター外科,至誠会第二病院外科,東葛クリニック病院外科勤務を経て現職。2007年多摩大大学院経営情報学研究科修了。MBA。一般社団法人みんながみんなで健康になる(旧 チーム医療フォーラム)代表理事,シンクタンク・ソフィアバンク イノベーター。著書に『人生100年時代の養生訓』(亜紀書房),『医療システムのモジュール化』(白桃書房)など。

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