2022年度保助看国家試験合格発表
新出題基準が適用。看護師・助産師は合格率低下,保健師は上昇
取材記事
2023.04.24 週刊医学界新聞(看護号):第3515号より
厚労省は3月24日,2022年度の第109回保健師国家試験,第106回助産師国家試験および第112回看護師国家試験の合格者を発表した。合格率は,保健師93.7%,助産師95.6%,看護師90.8%(表)。保健師は昨年度から4.4ポイント上昇したものの,助産師は3.8ポイント,看護師は0.5ポイント低下した。助産師では,直近5回のうち合格者数が初めて2000人を下回った。学校区分による合格状況は下記に示す。
採点除外等となる問題は保健師国家試験で1問,助産師国家試験で1問,看護師国家試験で2問だった。採点除外の理由は,「選択肢に正解がない」「設問が不十分で正解が得られない」「設問が不明確で複数の選択肢が正解と考えられる」など。複数の正解があるものは,いずれも正解として採点された。
2022年3月に発表された「保健師助産師看護師国家試験出題基準 令和5年版」(以下,新出題基準)が今回の国家試験より適用された。取材に応じた看護系大学の教員は試験を振り返って,「新出題基準となってから初めての試験であったものの,看護師国家試験の難易度は例年通りであったと感じた。勉強量が足りていれば問題なく合格できたのではないか」とコメント。助産師教育課程に所属する別の教員は,「助産師国家試験は例年より学内の平均点が低く,従来とは出題傾向が異なった。正答率の低かった問題への対策を十分に行う必要がある」と来年に向けた課題を挙げた。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から,かつては合格発表会場の一つであった厚労省(東京都千代田区)では,今年も報道関係資料の配布のみに留められた。厚労省を訪れた看護学生は,「過去問演習を十分に行ったので,類似の問題に対応できた。過去3年分はさかのぼって勉強したほうがよい」と過去問対策の重要性を強調した。別の看護学生は,「患者さんにとって身近な存在となれる看護師になりたい」と笑顔で将来への抱負を語った。
2022年度保助看国試の合格基準
【第109回保健師国家試験】
一般問題を1問1点(74点満点),状況設定問題を1問2点(70点満点)とし,次の合格基準を満たす者を合格とする。
▶総得点 87点以上/144点
【第106回助産師国家試験】
一般問題を1問1点(75点満点),状況設定問題を1問2点(68点満点)とし,次の合格基準を満たす者を合格とする。
▶総得点 86点以上/143点
【第112回看護師国家試験】
必修問題および一般問題を1問1点,状況設定問題を1問2点とし,次の①~②の全てを満たす者を合格とする。
▶①必修問題 40点以上/50点
②一般問題,状況設定問題
152点以上/249点
註:一部の問題において採点対象から除外された受験者は基準が異なる場合がある。
第112回看護師国家試験の出題傾向分析
斉藤 由美 (東京アカデミー東京校 講師)
◆必修問題:やや難化
過去問を踏襲した出題が中心であった第111回と比較すると,やや難化した。「AM9 看護師の就業場所」「PM1 0歳男児平均余命」「PM9 家族成員」は,例年とは問われ方が異なるため迷いやすかった。「AM10体性感覚」は正答率が低く,多くの受験生にとって苦手分野であることがうかがえた。「AM14 糖尿病急性合併症」は選択肢における急性合併症と慢性合併症の区別が難しく,正答率が低かった。2022年度から適用された新出題基準で増加した感染症分野は必修で4問(AM20,21,PM15,22)あり,特に「AM20 脱衣手順」は実習で簡単に習得できる知識であるにもかかわらず,正答率の低さが目立った。その他の問題は過去問の類似問題が多く,正答率も高かった。
◆一般問題:コロナ禍以前の傾向を引き継ぐ。難化
新出題基準からは,「AM62 不妊症」「PM49 パッチテスト」「AM85,PM51 HPV」等が出題された。また,初出題の疾患「AM51 ばね指」「AM65 トゥレット障害」は正答率も低かったため,難化したと言える。年々問題数が増加および難化している薬剤関連では,「PM50 シクロホスファミド」の正答率が低かった。薬剤の勉強も引き続き必要である。関係法規では例年よりも高齢者の健康状態や生活環境などの詳細が問われ,「PM52 国民生活基礎調査」「PM53 賃貸住宅」等,正答率が低い問題が多かった。その他,特に正答率が低かった問題として「AM42 真空採血管」「PM35 聴診器」「PM39 足底と杖をつく位置」等は,実習時間が少なかった学生には難しかったかもしれない。
第111回に比べ,疾患に対する症状・検査・内科的治療・外科的治療,その後の看護ケアの一連の流れを理解できないと解きづらい問題が多かった。単なる知識の確認でなく,覚えた知識を応用して対応策(解答)を導き出す,現場に即した問題が増加している。この傾向はコロナ禍以前の国家試験を踏襲しており,今後も続くと考えられる。
◆状況設定問題:やや難化
AM10症例,PM10症例の計20症例だった。単問,2連問はなく,全て例年通りの3連問であった。「AM91~93 腎移植後」「PM100~102 造血幹細胞移植後」等,新出題基準に合わせた問題が多々出題されていた。特に移植後ケアについては正答率が低かった。「PM94~96急性硬膜外血腫」では,一般的にJCSだけを暗記する受験生が多いため,GCSによる評価の正答率が低かった。今後はGCSも十分に勉強する必要がある。
第110回および第111回は例外的に過去問を多用した試験であったことから,過去問の丸暗記でも合格できたかもしれないが,第112回はそれだけでは合格点に達しなかった可能性がある。合格するには知識や思考力・判断力が必要であり,一般問題と同様に第110回以前の出題傾向に軌道修正されたと考えられる。今後は基礎学力および思考力・判断力を養う学習が必要である。
※正答率は東京アカデミー独自調査による分析です。
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