教育の効果・効率・魅力を高めるために
第15回日本医療教授システム学会総会学術集会の話題より
取材記事
2023.04.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3513号より
第15回日本医療教授システム学会総会学術集会(3月16~17日,東京都品川区)が淺香えみ子会長(東京医歯大病院:右写真)のもと,「15年目の節目として,医療教授システム学」をテーマに開催された。本紙では,教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法・プロセスであるインストラクショナル・デザイン(ID)について取り扱ったシンポジウム「インストラクショナル・デザインの普及と効果」(座長=熊本大・鈴木克明氏,慈恵医大病院・万代康弘氏)の模様を報告する。
◆インストラクショナル・デザインを活用し,継続的な授業改善を
はじめに登壇した杉木大輔氏(獨協医大埼玉医療センター)は,教育効果・効率の向上と指導医の負担軽減のためには診療の標準化と可視化が必要であると分析し,所属する救命救急センターで行った研修医教育の取り組みを紹介した。同センターでは,作成した診療プロトコルを学習管理システム(LMS)とグループウェア上で共有,プロトコルを随時アップデートすることで診療を標準化。全ての指導医が診療プロトコルを参照しながら指導を行うことで,指導内容の抜け漏れが減少し,研修の均てん化が促進されたと話す。また診療プロトコル以外にも,課題や業務マニュアルなどの資料をLMS上で研修前に共有しておくことで,研修医に自主学習を促し,OJTの時間を確保しているとの工夫を挙げた。今後に向けて氏は,「知識だけでなく,救急基本手技の習得にもLMSを活用していきたい」と目標を語った。
愛知県立大の河邉紅美氏は,看護管理者の立場から医療者教育に携っており,ID活用事例として①組織へのID普及事例,②他職種へのIDを取り入れた研修の設計事例,③新人看護師のOJT教育への応用の3例を挙げた。とりわけOffーJTでの学びをOJTで生かすためには日々の業務の振り返りが大切であると話す氏は,③新人看護師のOJT教育への応用において,日常的に行いやすい短時間の振り返りを,デブリーフィングとしてGAS法(情報収集,分析,まとめ)を用いて行ったと説明。デブリーフィングによって相手を褒め,認めることは自己効力感やモチベーションを高める効果があるため,指導者は学習者の日々の看護実践を把握し,良い取り組みはすぐに褒めること。そして,その積み重ねによって互いに承認し合う良い職場風土を醸成することが大切であると強調した。
次に北海道科学大薬学部の藤本哲也氏は,薬剤師教育課程におけるIDの取り組みとして,同大独自の科目であり1年次前期に開講する「薬学生入門」を取り上げた。学生が大学での学習やコミュニティへ円滑に参加できること,グループワークでの役割や責任を認識すること,を目標に設計されていると氏は述べ,役割分担して調べた知識をグループ内で交換し,知識を統合して理解度を高める学習方法であるジグソー法と問題解決型学習を取り入れたグループワークの実践を紹介した。その一方で今後の課題に,同学部におけるID活用が道半ばであることを挙げ,IDに基づく継続的な授業改善をするために他の教員と協働していきたいと意欲を示した。
続いて登壇したのは救急救命士教育を行う三上剛人氏(吉田学園医療歯科専門学校)。同施設で行ったモデリング型演習の失敗事例を会場に共有しながら,失敗の原因を検証した。モデリングは他者の行動の観察と模倣によって行われ,①注意(対象に注意を向け観察),②保持(観察した内容を記憶),③運動再生(記憶した動きを模倣),④動機付け(行動に対する肯定的な結果による動機付け)の4つの過程より成る。失敗事例の演習は見本動画を提示し手技を模倣させるという③のみに着目して設計されており,①②④が不十分だったため,学生が見本動画の動きを十分に再現できずにいたと氏は分析した。「完璧な授業設計を最初から求めるのではなく,実践と分析の繰り返しによって良い授業を作り上げていく過程が必要だ」と述べ,今回の失敗を踏まえた授業のアップデートへの意気込みを語った。
その後行われた総合討論で座長の鈴木氏は,海外と比較すると日本人はPDCAサイクルを回すのが苦手であり,設計段階で完璧を追求しないことが求められると述べ,「とにかく実践してみること。それから分析し,改善することを意識してほしい」と,シンポジウムを締めくくった。
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