医学界新聞

取材記事

2023.04.03 週刊医学界新聞(通常号):第3512号より

3512_0501.JPG 第50回日本集中治療医学会学術集会(2023年3月2~4日,京都市)が志馬伸朗会長(広島大大学院:右写真)のもと,「風光る」をテーマに開催された。

 1974年2月9日にICU研究会が発足したことに端を発する集中治療医学会は,2024年に創立50周年を迎える。50回の記念大会となる本学術集会では,集中治療の歴史を振り返り,社会における集中治療の存在意義と果たす役割を考察するプログラムが数多く企画された。本紙では,西田修氏(藤田医大病院)による理事長講演「集中治療と日本集中治療医学会:これまでのこと,これからのこと」の模様を報告する。

 「COVID-19パンデミックによってわが国の集中治療のレベルの高さが示される一方,その医療提供体制の脆弱性も露見することとなった」。コロナ禍の20年3月に理事長に就任した西田氏はこう振り返るとともに,集中治療に対する認知度の低さを痛感したという。例えば,一般市民・マスコミのみならず行政においても,「集中治療」と「救急医療」の区別がついていない状況があった。また,医師届出票や医療施設調査には「集中治療科」が含まれておらず,集中治療医療提供体制の実態を把握することも困難であった。

 そこで氏は,2020年4月の理事長声明を皮切りにCOVID-19集中治療体制の構築に向けた各種の提言を行い,国や行政への働きかけを強化。さらに学会として超短期更新型のガイドラン「COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations」の無料公開,関連学会との共同でCRISIS(横断的ICU情報探索システム)の運用開始など,“COVID-19対策の最後のとりで”を守ることに注力した1)

 国・行政も学会の取り組みに応える形で,診療報酬(救命救急入院料・特定集中治療室管理料)の特例措置の実施,学会指針や重症患者レジストリに紐づける形での施設要件の設定などを実施した。

 さらには,これまでの学会の歩みにおいて歴史的な出来事が,近年相次いで起こった。2022年4月には,日本専門医機構が集中治療科をサブスペシャルティ領域として認定。また同年10月には医師届出票に「集中治療科」が追加されたのだ。氏はこれを「理事長に就任して以降の大きな目標であり,集中治療医の“悲願中の悲願”であった」と評価した。さらに23年度医療施設調査においては,「ICUに専任する医師数」が追加される見込みであるという(総務省第189回統計委員会議事)。

 24年度から始まる第8次医療計画では,新興感染症が新たな事業として加わる。新たなパンデミックに備えるための人材育成が課題となるなか,「集中治療の地位・認知度向上が弾みになると確信している」と期待を表明。欧米に比して圧倒的に少ない集中治療専門医の育成はもちろんのこと,看護師や臨床工学技士,理学療法士の学会認定資格制度などを通して多職種の育成にも意欲を示した。

 これまでの集中治療はICUという「ハコ」ばかり着目されがちであったが,今後は「ヒト」の育成に向けた取り組みが本格化していきそうだ。

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写真 理事長講演を行った西田修氏

1)西田修氏.集中治療体制をいかにして再構築するか.週刊医学界新聞第3380号.2020.

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