へき地診療所におけるプライマリ・ケア医との協働実践
寄稿 中山法子,中嶋裕
2023.03.27 週刊医学界新聞(看護号):第3511号より
筆者は診療看護師(NP)として,2つの医療機関でNP業務や行政の糖尿病重症化予防事業,地域でのフットケア活動を行なっている。本稿では,週1日勤務するへき地診療所におけるプライマリ・ケア医との協働について紹介する。
NP外来運用の実際
山口県の中山間部へき地の山口市徳地地区では,地域の医療を担ってきた高齢医師による個人院が閉院するタイミングで,2021年5月に日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医資格を持つ中嶋裕医師が管理者となる診療所が開設された。筆者は開院当初から週1日のNP外来を担当している。
筆者の勤務日は2診体制で,第二診察室をNP外来として運用している。筆者は問診・身体診察・アセスメントの後に第一診察室の中嶋医師に連絡,中嶋医師が第二診察室に移動し,患者さんに体調等について直接話を聞き,筆者に診察内容を確認する。必要に応じて検査や治療に関して筆者に指示を出した後に,中嶋医師は退室する。指示内容を踏まえて筆者が検査計画や処方の代行入力,患者教育,次回診察の予約をして診察は終了し,その後中嶋医師がカルテ内容を承認・確定して会計となる。
NP外来受診者の平均年齢は76.1(±14.6)歳で男性43%,女性57%。ほとんどの方が多疾患併存状態で,1時間当たり3~4人の患者を担当している。疾病管理だけでなく,基本的な生活が維持できているかを確認したり,人生の終末期に関する思いを共有したりするなど,診察のたびに対話を重ねながら対象理解に注力している。また,1日の終わりには,NP外来全患者の振り返りを中嶋医師と共に行い,筆者への医学的な指導だけでなく,診察時には十分伝えられなかった情報の共有や,治療やケア方針に関してディスカッションを行う時間を設けている(図)。
心を開いてくれるのを待ちながらかかわり続ける
NP外来受診者の実例を紹介する。Aさん:60歳代女性,両側股関節痛,高血圧症。
◆既往:ロキソニン®錠の長期服用
40歳頃に両側股関節痛で整形外科を受診した際,「そのうち歩けなくなる」と医師から説明あり(注:Aさん側の理解)。その後怖くなって整形外科の受診ができなくなり,前医で定期的にロキソニン®錠(60 mg,1回1錠,1日3回)が長年処方されていたが,閉院に伴い処方の継続を希望して当院を受診。
◆NP外来初回:患者さんの気持ちを尊重
長期服用のリスクについて筆者から確認したところ,複数の医療機関で何度も同じ説明を受けており,悪影響の可能性があると理解していること,定期的に服用しても仕事中に痛みを感じることについて,Aさんが強い口調でこちらをにらむように回答したことをよく覚えている。他の鎮痛薬への変更について打診したが,ロキソニン®しか効かないと継続処方を強く希望された。「この薬がAさんの生活の支えなんですね。わかりました。同じ薬にしておきますね」と返答し,カルテに入力した途端にAさんの表情が和らいだ。
その後,消化器症状の有無や食事の摂取状況,定期の血液検査などの問診を進めると,朝食は摂る習慣がないこと,仕事の前後と痛む時に鎮痛薬を服用していること,職場では健診がなく定期採血していないことを回答してくれた。筆者からは採血の必要性と朝食について生活指導を行ったところ,笑顔はなかったが「次回もあなたの外来に来ていいですか?」とその後は毎月NP外来を受診した。まずはAさんとの信頼関係の構築を目標に設定した。
◆経過:痛みの原因解明に向けて
診療を繰り返す中で,Aさんは整形外科を受診する気持ちはないこと,鎮痛薬で長く生活を維持したいと思っていることを筆者は把握した。中嶋医師に相談し,鎮痛薬の種類の変更を目標にした。Aさんは,希望すればロキソニン®が処方してもらえるという安心感を得たようで,仕事の大変さや朝食を少しでも摂り始めたことなど,痛み以外のご自身のことを話すようになる。半年が経過した頃に「薬を変えたら,ロキソニン®はもう出してくれないの?」と自ら他剤について質問してきた。この頃には筆者の前では笑い声も聞けたが,中嶋医師が入室した途端に表情は固くなるのであった。それからまた数か月が経過し,仕事がない日はロキソニン®は飲まなくて済むし,受診日は徒歩通院のため仕事以上に歩くのに痛まないのを不思議に思うこと,仕事のストレスが痛みに関与している可能性について話してくれるようになった。
ある日,筆者は偶然Aさんの職場を目にした。屋外での作業で階段昇降が何度もあり,水を使うと聞いていたが,足元はコンクリートで冷たそうである。跛行で診察室に入ってくるAさんの姿を思い浮かべ,どんなに大変だろうと想像するとともに,その仕事のおかげで地域住民は気持ちよく過ごせているのだと実感した。そのことを,次のNP外来でAさんに伝えたところ,嬉しそうに顔を真っ赤にして両手で覆った。最近の診察では「ほとんどロキソニン®は飲まなくなり,余っているからいらない(変更後の鎮痛薬は1回1錠,1日1回で希望したが)」という状態である。中嶋医師が入室してくるといまだにAさんの笑顔は消えるが,表情の硬さの程度が緩んできているように見える。そこで,Aさんが望む生活維持のために整形外科で股関節痛の評価をするという目標の再設定をした。
◆患者さんの健康・生活維持のために
過去の医師による診察で,NSAIDs長期服用のリスクについては繰り返し説明されていた。しかし,Aさんの生活実態にまで思いをはせ,配慮できていなかったのではないかと考える。Aさんは「いずれ歩けなくなる」という説明に20年以上も怯えながら,仕事や子育て,家事,介護をこなしていた。いくつかの心理的な要因も痛みの誘因となっているのではないかと推察する。NP外来で鎮痛薬の課題にあえて目を向けず,生活の大変さを傾聴しながら,どうやったら健康や生活が維持できるかについて看護の視点で助言を行い,心を開いてくれることを待ち続けた。その結果,Aさんは生活の改善や主体的な治療への参加を行うようになったと考える。中嶋医師には鎮痛薬の選択や整形外科受診に関する相談などの治療的側面での指導・助言,およびAさんの健康と生活が維持できるような筆者のかかわりを監督・支援していただいている。
*
へき地診療所での実践を通して,限られた医療・介護資源の中では拾えなかったニーズや,そもそも諦められているニーズの存在を感じている。治療と看護を組み合わせたNPの実践により,地域住民の健康や生活の回復・維持に少しでも貢献できるようこれからもチャレンジしていきたいと思う。
中山 法子(なかやま・のりこ)氏 山口市徳地診療所/糖尿病ケアサポートオフィス 代表
1988年山口県立衛生看護学院卒,2011年国際医療福祉大大学院修士課程修了。21年より現職。診療看護師(NP,プライマリ・ケア領域)を11年に取得。糖尿病看護認定看護師。
患者さんが頼れる人と場所が大切――協働する医師の立場から
NPと協働するプライマリ・ケア医として,中山さんが挙げてくれた事例はとても印象的でした。医師が入室すると顔色が変わることを医師も理解していながら,あえてそこにフォーカスはしません。ご本人が頼れる場所と人が大事だとの共通認識があります。今回の事例は一例ですが,多くの人がNP外来に継続的に通いながら,元気になっていく姿を目の当たりにしています。NPとの協働により,今までにないような形で患者さんに良い変化が起きることを,中山さんとの間では「看護の力により生活が整う」という言葉で表現しています。診療所の提供できる医療・看護の質において相乗効果を実感する日々です。
またNPによる診療への信頼はもちろん置いていますが,任せっ放しにしないよう気をつけています。特に診察は,NP外来の後にもう一度し直します。処方もNPからの提案を尊重しますが,一任はしません。医療的な判断で異なる選択肢をとる場合は否定せず,「こちらでいきましょう」のように,医師として指示を出します。後ほど治療の理由や思考過程などを伝え,お互いの理解とかかわり方を擦り合わせます。医師―NP間でお互いの敬意と役割分担を確認し合うことが大事だと思っています。
中嶋 裕(なかしま・ゆたか)氏
山口市徳地診療所
山口県立総合医療センターへき地医療支援部
2002年自治医大卒業後,山口県内のへき地医療機関に勤務する。12年より山口県立総合医療センターへき地医療支援部勤務し,21年より徳地診療所管理者を兼務。日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医。
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