医学界新聞

取材記事

2023.03.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3509号より

 医師の働き方改革として,2024年度から時間外労働時間の上限規制が適用される。制度の開始を間近に控える中,医師の働き方改革を進めるには医学生や若手医師に働き方改革の趣旨や関連する法令の知識などを周知することが重要であるという考えの下,厚労省では医学生に労働法教育を行う大学医学部に向けて「労働法教育に関する支援対策事業」(以下,本事業)を2020年度より実施してきた。本事業では講義の実施方法・内容の参考になる指導者用教材の作成・配布や,ニーズに応じた講師派遣・講義企画・資料提供等の支援に取り組む。本紙では,本事業の一環として2023年2月22日にオンラインにて開催された「医学部等における労働法教育を考えるシンポジウム」の模様を報告する。

 主催者あいさつに立った厚労省の坪井宏徳氏は冒頭,「長時間労働を前提とする現状を変え,育児や介護を行っている医師でも能力を最大限発揮できる社会にすることがより良い医療提供につながる」と働き方改革の重要性を強調。医学生のうちから働き方改革の趣旨と目的,労働法を学ぶことは学生のその後のキャリア選択にも役立つと言及し,本シンポジウムを参考に講義がさらに広く実施される事への期待を述べた。

 では,実際に医学部ではどのような講義が行われているのか。医学生が卒業時までに身につけておくべき必須の実践的能力に関する学修目標等を示した「医学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版」の中から,働き方改革に関連する学修目標を堀岡伸彦氏(文科省)が抜粋して解説。その後,講義事例の紹介が行われた。各大学で行われた講義は医師が実際に働いてきた経験を踏まえて講演を行う第一部と,弁護士が労働基準法などの知っておくべき法令に関する講義を行う第二部の二部構成になっている。まず第一部の講義事例を関西医大,徳島大,宮崎大での講義を担当した河野恵美子氏(大阪医薬大)と大分大,岐阜大での講義を担当した神村裕子氏(日本医師会)が紹介した。

 河野氏は,具体的な講義の流れを示した上で,学生に興味を持たせるために自身が実践した工夫として,女性外科医である自身の具体的な働き方とキャリアを等身大で紹介することと,過労死事例を本人・家族の思いに重きを置いて紹介していることを挙げた。講義実施後に行われるアンケート調査では,学生の約9割が「有意義だった」と回答しており,確かな手応えを得たと話した。

 一方の神村氏は,過重労働が心身に与える影響への理解を深めさせるため,過去の過労死事例の振り返りを講義の導入として行うと話す。これは働き方改革に至るまでの道のりを知り,研修医・医師も労働者として労働法に守られ,また労働法を遵守すべき立場であるとの認識を深めさせるためである。加えて,ワークライフバランスとうつ病スコアの関係性を示したデータを提示することで,働き方改革が労働時間の短縮のみならず,精神的負担を改善する手段でもあることを意識してほしいと言う。氏は「自分の働き方を考えるだけでなく,共に働く多職種の働き方の配慮へもつなげてほしい」と講義に込めた学生への期待を語った。

 第二部の事例紹介を行ったのは,関西医大,徳島大,三重大,宮崎大で講義を担当した弁護士の前川宙貴氏(天満法律事務所)。法令になじみのない学生に対する労働法の説明に当たっては,「基礎や重要事項のみに講義内容を厳選すると良い」と言う。堅苦しい法令の講義ではなく,働くに当たって必要なルールを説明する講義として学生がとらえられるよう,働き方と医療安全の関係を示すデータを入れ,自分事として興味をひく仕掛けづくりを心掛けたと解説。また,より詳しく学びたい学生に向けて詳細な説明を記した参考資料をつける,自身の工夫を述べた。

 続いて,前川氏を司会に,河野氏,神村氏,木戸道子氏(日本赤十字社医療センター)によるパネルディスカッションが行われた。若手医師に対する制度の周知が不十分であるという課題に対し,医師の立場から岐阜大,山形大で第一部の講義を担当してきた木戸氏は,「若手医師には日常的に顔が見える関係性からの発信がより効果的である」と述べ,若手と身近な医療者からの口頭説明で情報を提供し,興味を持った若手にはWeb上でさらに詳しい説明を用意する,という2段階での情報提供を提案した。同課題に対し河野氏は,若手医師への情報発信をより強化するため,今後は事業の対象を研修医まで広げていきたいと意欲を語った。

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