医学界新聞

寄稿 葛谷雅文

2023.03.06 週刊医学界新聞(通常号):第3508号より

 現在わが国はどの国も経験したことがない超高齢社会に突入している。今後はさらなる高齢者,特に後期高齢者の増加が見込まれており,高齢期においてできる限り心身の自立の維持をめざすこと,言い換えるといかに健康寿命を延伸するかが極めて重要である。

 フレイルの対策は,今まで介護予防という観点でハイリスクな対象者をターゲットとしてきたものの,今後膨大な数の後期高齢者が増加する中でハイリスクアプローチだけでは十分でなく,広い裾野を考慮したポピュレーションアプローチが重要である。近年,専門職にはよく知られるようになったこの「フレイル」だが,国民に必ずしも広く周知されているわけではない。したがって,専門職だけでなく国民にこの概念を十分に理解してもらう。さらには,産官学民連携のまちづくりにおけるフレイル予防・対策の具体的な実践が,健康寿命延伸の鍵となる。

◆フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する声明と提言の発表

 上記の考えのもとに,一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会を事務局としてさまざまな分野の専門家からなる「フレイル予防啓発に関する有識者委員会」が構築された。そして,同委員会で議論を重ねた結果,2022年12月に「フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する声明と提言」の報告に至った1)。ターゲットは,行政や産業界をはじめ,フレイル予防のポピュレーションアプローチに幅広く取り組む担当者である。国民に向けた「自助・互助」の生み出す力を重視した健康長寿のまちづくりの実現をめざすべく,「フレイル予防推進会議(仮称)」の設置が計画されている。

 本声明と提言ではフレイル予防のポピュレーションアプローチにおける行動指針として,「栄養(食事・口腔機能)」「身体活動(運動を含む)」「社会参加(社会活動)」の3本の柱を掲げ(1),フレイル予防を「自分事化」するための手法を示している。他にも,ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチを連携して行う自治体の試みも紹介している。今後はフレイルの一次予防だけでなく,自然に予防効果が生じる環境を整備するゼロ次予防の意識・啓発も重要だろう。

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 フレイル予防につながる三本柱(文献1をもとに作成)

1)医療経済研究機構.フレイル予防のポピュレーションアプローチに関する声明と提言.2022.

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名鉄病院 院長/フレイル予防啓発に関する有識者委員会 委員長

1983年大阪医大(当時)卒。89年名大大学院(老年医学)修了。91年米国立老化研究所に留学。名大医学部(老年科)助手,講師,助教授を経て,2011年名大大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学分野教授。14年より名大未来社会創造機構教授を兼任する。22年4月より現職。フレイル予防啓発に関する有識者委員会で委員長を務める。

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