医学界新聞

寄稿 光山 瑞穂

2023.02.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3505号より

◆院内での教育の現状について

 現在,入院中の子どもたちの学習には院内学級が大きな役割を果たしています。一方で院内学級の設置率の低さや学籍を移さなくては通えない等の制度上の壁もあり,入院中思うような学習支援を受けられない子どもたちも存在します。また,入院中の子どもたちは病気への不安,家族や友達と離れて暮らすさみしさを常に感じています。加えて学習の遅れに焦りを感じる子もおり,院内の教育ではそういった子どもたちの気持ちに寄り添いながら学習支援を行う難しさがあります。さらに,同年代の子どもたちと同様の経験が得にくいという面もあります。これらを踏まえると,院内での教育をより充実させるためには多方向からの支援が必要だと考えられます。

 学生ボランティア団体one by ONEは,院内学級の対象とはなりづらい高校生や,学籍を移していない短期入院患者など,現在の院内学級制度では支援が届きにくい子どもたちに学習の機会を届けたいとの思いから2018年12月に発足しました。現在は神奈川県,愛知県内の5病院で活動しており,対象病床数は約1500床に上ります。本稿では私たちの活動内容を紹介します。

◆Zoomを通じた個別授業で学びの場と楽しい時間を届ける

 one by ONEは,入院中の小学生から高校生を対象に,週1回1時間を原則としてZoomを用いた個別授業を行っています。学校から出された課題から英検の対策まで希望に沿った科目・内容を扱っており,「学校の勉強についていけなくなるのではないか」のような学習面の不安に寄り添うことをめざしています。団体発足以来の授業回数は延べ170回に及びます。

 また勉強だけでなく,学生たちと話すことを楽しみに参加する子もいます。時にはお薦めの本や学校の友達の話などのおしゃべりに花を咲かせるなど,一人ひとりの希望に合わせた授業になるよう心がけています。

 活動のコンセプトは「『気にかけてくれている人がいる』と子どもに感じてほしい」です。普段の生活の場から離れ,寂しさや不安を抱える子どもに,学習というコミュニケーションの場を通じて向き合うことで,少しでも孤独感や不安感を和らげ,楽しい時間を届けられればと思っています。

 利用者からは「入院している病院には高校生の院内学級がなく,授業を受けられていませんでした。一人で病室に残され,毎日不安を抱えていました。先生は,体調のことも気に掛けながら,わかりやすく勉強を教えてくれます。学習環境から離れていた私にとっては,とても大切な時間です」「毎週,授業を楽しみにしています」などのうれしい声をいただきました。また,保護者からも「長期入院になったため,学習面で不安を感じていましたが,one by ONEのおかげで心配なく過ごせました」との声が寄せられています。

◆一人でも多くの小児入院患者が安心して学校に戻れるための支援を

 現在one by ONEは一人でも多くの子どもに支援を届けるため,新たな病院への参入を進めています。しかし,オンライン環境が整っている病院は少なく,環境整備のための資金調達など,課題も多くあります。これらの課題を一つひとつ解決し,支援の輪を広げていきたいと考えています。

 子どもの入院患者を支えていくためには,多方面からの継続的な支援が必要となります。one by ONEも学習支援を通して入院中のサポート,また復学への一助になるよう活動を続けていきたいと思います。

3505_0301.jpg
写真 活動の様子
週1回1時間zoomを用いた個別授業を行う。学校から出された課題から英検の対策まで希 望に沿った科目・内容を扱う。

◆one by ONEの活動はこちらからご覧になれます。


3505_0303.jpg

横浜市立大学医学部医学科6年/one by ONE共同代表

横市大医学部医学科在籍中。学生ボランティア団体one by ONE 共同代表を務める。学習支援や家族支援の観点から,オンライン家庭教師事業や家族とともに参加できる思い出作りのイベントを企画し,子どもたちの入院に伴う学習の遅れや心理的な不安の改善に取り組んでいる。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook