リードレスペースメーカーにドキッ!
寄稿 末光浩太郎
2023.02.06 週刊医学界新聞(通常号):第3504号より
いろいろなものが小さく軽くなり便利なものが増えましたが,そのせいでドキッとさせられた症例を読者の皆さんと共有したいと思います。
本症例はシャント作製術を受ける患者さんでした。当院では,ペースメーカーが植え込まれた患者さんに電気メス(モノポーラ)を使用するとき,術前に臨床工学技士か業者がペースメーカー設定の調整を行っています。そのため,手術予定のある患者さんにはペースメーカー植え込み歴の有無を確認しています。
さらにペースメーカーのリードにより鎖骨下静脈などの中心静脈が狭窄や閉塞を来しシャント作製後に静脈高血圧というトラブルを引き起こすことがあるため,シャントは基本的にペースメーカーが入っていない側の上肢に作製します。そのため当院でも,シャント作製前の血管評価をする際に「ペースメーカーは入っていますか?」と最初に確認しています。この問いに対して「いいえ」と答えた本症例の手術が始まりました。電気メスを使うと心電図モニターからアラームが鳴り,「おかしいな」と思って改めて調べると,リードレスペースメーカーが入っていることが発覚したのです。
◆なぜこのようなことになったのか? 2つのミス「リード」
①問診によるミスリード
リードレスペースメーカーのように体表からはわからないデバイスの場合には,患者さんはペースメーカーが入っているという自覚を持ちにくい可能性があります。
②入院時検査でのミスリード
当院では入院時に心電図検査や胸部X線写真(正面)撮影を行っています。しかし本症例はVVI50というバックアップ設定であり,自己脈が50 bpm以上あればペースメーカー波形とはならず,心電図からはリードレスペースメーカーが入っていることは全くわかりませんでした。また,胸部X線写真(正面)ではリードレスペースメーカーは心陰影や背骨,横隔膜などに重なり,肺野を中心に観察するだけでは気付かないこともあると思われます(図)。また,仮にこの陰影に気が付いたとしても,それがリードレスペースメーカーを見たことがない医療従事者であった場合,ペースメーカーであると気付けるでしょうか。
われわれ腎臓内科はこの陰影には気が付いたものの,リードレスペースメーカーとは結び付けることができず,このインシデントが生じてしまいました。知り合いの不整脈専門医に確認したところ,患者の申告がなく,基本調律が自己心拍の場合にはX線写真以外では見つけることは難しいとの意見でした。
*
今回は術前という状況で起きたインシデントでしたが,救急外来にて意識レベルが低下した患者さんのMRI撮影などでも同じようなインシデントが起きる可能性があると思います。また,植え込み型心電計という皮下に植え込むデバイス(失神の原因精査などに用いる)も胸部X線写真では同じような場所に写るものがあります。これは手術時やMRI時に設定変更は不要なデバイスであるにもかかわらず,非常によく似た陰影のためにリードレスペースメーカーと勘違いする恐れがあります。MRIを早期に撮影することが患者予後改善につながる疾患で無駄な時間を費やしてしまう可能性があると考えられます。
リードレスペースメーカーを植え込み可能な施設は限られていますが(国内500施設ほど),植え込み数は年々増えており(年間6千例程度),このようなケースは皆さんの施設でも今後確実に生じ得るものと考えられます。さまざまな分野で想像を超えるスピードでデバイスが進化しているため,新たな植え込みデバイスが登場するたびに同じようなリスクが潜んでいると言えるのではないでしょうか。同時に,このようなデバイスの存在を知っていれば同様のトラブルを避けられる可能性が高いと思い,少しでも多くの医療従事者の目につくようにと願って,本コラムを寄稿しました。
謝辞:執筆に当たり,不整脈専門医としていろいろとアドバイスをいただいたTK先生に感謝いたします。
末光 浩太郎(すえみつ・こうたろう)氏 関西労災病院 内科(腎臓)副部長
2003年兵庫医大卒。14年より現職。専門は血液透析,シャント関連治療(手術,PTA)。
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