医学界新聞

取材記事

2023.01.02 週刊医学界新聞(通常号):第3499号より

 2021年『胃と腸』賞の授賞式が,2022年9月21日に行われた。本賞は『胃と腸』誌に掲載された論文から,年間で最も優れた論文に贈られるもの。授賞式は過去2回と同様にWeb上で行われた。

 今回は対象論文167本の中から,川崎啓祐氏(九大)らによる「内視鏡完全一括切除可能な大腸T1癌の術前診断―-注腸造影の有用性と限界」[胃と腸.2021;56(8):1035-46.]が受賞した。川崎氏には事前に賞状と盾が授与され,当日は選考委員の松本主之氏(岩手医大)から,選考過程の説明とともに祝辞が贈られた。

◆大腸T1癌における注腸X線像の側面変形長とSM浸潤距離の関係

 近年では多くの早期大腸癌で内視鏡治療が可能となったが,大腸粘膜下層(SM)浸潤(T1)癌では約10%にリンパ節転移を認め,追加外科的切除についても考慮が必要となる。リンパ節転移の重要な病理組織学的リスク因子と考えられているSM浸潤距離は,治療前の画像診断で予測可能なことから,これまでも注腸X線所見や内視鏡所見の検討がなされてきた。

 今回の川崎氏の論文は,注腸X線像でのみ得られる側面変形に着目し,SM浸潤距離との関係を明らかにしたもの。2008~18年までに岩手医大,松山赤十字病院,九大にて注腸X線検査が施行された大腸T1癌133例を対象に,腸管壁に並行する変形長を水平変形長,直交する変形長を垂直変形長として実測し,切除標本の病理組織学的所見との比較を行った。結果,水平・垂直変形長ともにSM浸潤距離との有意な正の相関が示された。

 SM浸潤距離については,1800 μmが追加治療の判断基準になり得ることが既報で示されている。そこで,SM1800 μm以深癌の検出における変形長のカットオフ値を算出したところ,水平変形長4.5 mm,垂直変形長0.5 mmで,正診率はそれぞれ82.0%,79.7%であった。この値をもとに病変を変形陽性・陰性に分類すると,水平変形陽性例では陰性例に比べてリンパ管侵襲と静脈侵襲の割合が高い結果となった。このことから,水平変形長が脈管侵襲の予測因子になるとともに,4.5 mmまでの水平変形は内視鏡治療選択の指標となる可能性が示唆された。

 川崎氏は受賞のあいさつで,本研究に携わった全ての施設に謝意を述べるとともに,X線と内視鏡の併用が大腸腫瘍診断の精度向上につながることに触れ,「内視鏡全盛の時代にあってX線の論文で受賞でき,喜びもひとしお」と語った。

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写真 川崎啓祐氏

*授賞式の模様は『胃と腸』誌(第57巻13号)にも掲載されます。

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