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『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』より

連載 堀内圭輔

2022.05.06

 英語論文を書くにあたって英語力はもちろん重要ですが,それ以上に重要なのは,論文の作法や決まりごとを理解して,自分の考えを平易に説明できる能力です。『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』では,英語論文を書くための事前準備から,形式面での作法・決まりごと,論文の基本構造についてはもちろん,データの取り扱いや投稿先の選び方など,論文執筆から掲載までの過程の中でつまずきやすいポイントを幅広く解説しています。

 

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,英語フォントの選び方,英語論文の構造(IMRaD),投稿先のインパクトファクターについての話題をピックアップして,3回に分けて紹介します。

 

 ※本書は,「臨床整形外科」に「いまさら聞けない英語論文の書き方」として連載した内容に加筆・修正を施し,まとめたものです。

 

 

 大きな仕事でも,小さな仕事に分割し,1つずつこなしていけば,いつか終わります.英語論文も同様です.幸い,英語論文はいくつかの項目に明確に分かれており,各々の項目で書くべき内容も大体決まっています.これが,英語論文の基本構造である「IMRaD」です.IMRaDは20世紀初頭に考案され,1960年代以降急速に一般化し,1980年代以降はほぼすべての雑誌で採択されるようになりました1).英語論文執筆にIMRaDの理解は欠かせません.

英語論文には決まった構成がある

 すでに文献収集を済ませ,ある程度論文を読んでいれば,どの論文も同じような構成になっていることに気づくと思います.これが「IMRaD」です.これはIntroduction(導入),Methods(方法),Results(結果),and Discussion(考察)の各々の項目の頭字語です.雑誌によっては,Methodsが最後に来る場合や,ResultsとDiscussionが同じ項目(Results and Discussion)になることもありますが,原則は同じです.

 また,医学・科学論文では“Methods”ではなく“Materials and Methods”(試料と方法,通称“マテメソ”)と書くことが多いですが,本書では“Methods”で統一します.

 IMRaDを含めた論文の構造を図Ⅲ-2に示します.ちなみに,症例報告ではMethodsやResultsはなく,Introduction,Case Presentation(症例提示),Discussionの三部構成となります.

図3-2.jpg
図Ⅲ-2 英語論文の構成

 ところで,このIMRaDには論文の冒頭に来るはずのAbstract(要旨)が含まれていません.Abstractは論文の本体から独立したものと考えるからです.Abstractに関してはⅢ章-13(p.64)で改めてお話しします.

IMRaDの概要

 それではIMRaDの各項目でどのようなことを書くかを概説します.各項目は改めて詳しくお話ししますので,ここでは全体像をつかんでください.

Introduction:当該分野の背景と問題点を説明し,なぜ今回の研究に至ったのかを説明します.つまり,最終的にリサーチ・クエスチョンに話を持っていきます.そして研究の概要と,場合によっては結果を簡単に述べます.
Methods:研究に使用した試薬・抗体・機器などを示すとともに,実験手技・条件と実施した統計処理を述べます.
Results:どんな実験をして,どんな結果が得られたかを説明します.
Discussion:研究結果をどう解釈したかを述べるとともに,研究結果の当該分野における意味合い,研究の弱みと強み,展望などを議論します.

 Introductionでは研究の背景や文献的知識から始まり,徐々にリサーチ・クエスチョンの必然性・必要性に絞っていきます.MethodsとResultsは,当該研究に特化した内容になります.最後のDiscussionでは,文献的知識から研究結果を俯瞰して,当該分野におけるその位置づけを述べます.

 つまりIMRaDでは最初と最後(IntroductionとDiscussion)で当該分野を広く見渡した内容になり,中間部(MethodsとResults)ではその研究に絞った内容になります図Ⅲ-3のような砂時計にたとえられます).このことから,MethodsとResultsでは,あまり文献を引用しません.

図3-3.jpg
図Ⅲ-3 IMRaDの構造
IMRaDの構造は砂時計にたとえられます.どの項目で当該分野を広く見渡した内容を書くのか,どの項目で当該研究に絞った内容にするかを理解しておくと,論文の書式から大きく外れることはありません.

 IMRaDの大まかな構成を理解しておけば,各項目の内容を,どのような方向性にすべきか考える手がかりになります.頭の隅に置いておくとよいのではないでしょうか.一般的に,IntroductionとDiscussionでは文献的知識をある程度理解したうえで自身の考えを述べるので,やや難易度は高いです.一方,MethodsとResultsは実体験に基づいた内容がメインなので,比較的書きやすいです.

まずは論文のファイルを作る

 通常の研究論文だと5,000〜6,000単語程度かそれ以上,症例報告であれば2,000単語程度の長さになります.ワープロの真っ白な新規作成画面を前にすると,本当に書けるのか絶望的な気分にすらなります.しかし,初めから終わりまでよどみなく英語論文を書けるような人は滅多にいません.まずは,新規作成画面の白紙の状態から脱却します.

 とりあえず,図Ⅲ-2(p.47)に示した論文の構成をもとに,見出し(Abstract,Introduction…)を入力し,必要に応じてページ区切りを挿入していきます(図Ⅲ-4).ほとんど頭を使わずにできますが,できたら投稿予定先ジャーナルの書式になるべく合わせておきましょう.そして,忘れないうちに“ページ番号”も挿入し,ダブルスペースにしておきます.言わずもがなですが,第Ⅱ章でお話ししたさまざまな手法を遵守します.“すべての編集記号を表示する”にチェックを済ませましたか?

図3-4.jpg
図Ⅲ-4 論文の骨格の作りかた
論文執筆にあたり,まずは大枠を用意し,全体像がわかるようにします.これを済ませておくと気が楽になり,書き始めやすくなります.ぜひお試しください.

 次に,暫定的でかまわないので,表紙を埋めます.投稿予定の雑誌の投稿規定を確認する必要がありますが,通常はTitle(タイトル),Authors(著者),Affiliations(施設名),Corresponding author(責任著者)と連絡先,Running title(欄外の見出しに使う短い論文タイトル)などが含まれます.特に共著者や施設名は非常に大切な情報ですので,この折に間違いのないように記載しましょう.著者名の綴りは特に要注意です.後で間違いが発覚すると,大変気まずいです.

 誰を共著者にするか,共著者の順番をどうするかなどは,最終的に指導医・PIの確認が必要ですので,ここで無理に列記する必要はありません.Authorship(誰を共著者として取り入れるか)やその順番はとてもデリケートな問題で,ここで説明すると大幅に脱線しますので,改めてお話しします(Ⅵ章-26,p.134).

 これらの作業が終われば,単語数はおそらく100を超えているはずです.単語数だけでいうと全体の2〜5%分になりました.しかも何となく,論文の全体像を見渡すことができます.少なくとも,真っ白だった原稿ファイルが数ページに膨らみ,複数の項目に分けることができました.確実な一歩です.あとはそれぞれの項目を1つずつ埋めていきます.

文献
1)Sollaci LB, Pereira MG. The introduction, methods, results, and discussion(IMRAD)structure:a fifty-year survey. J Med Libr Assoc 2004;92:364-367.

 

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