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『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』より

連載 堀内圭輔

2022.04.29

 英語論文を書くにあたって英語力はもちろん重要ですが,それ以上に重要なのは,論文の作法や決まりごとを理解して,自分の考えを平易に説明できる能力です。『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』では,英語論文を書くための事前準備から,形式面での作法・決まりごと,論文の基本構造についてはもちろん,データの取り扱いや投稿先の選び方など,論文執筆から掲載までの過程の中でつまずきやすいポイントを幅広く解説しています。

 

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,英語フォントの選び方,英語論文の構造(IMRaD),投稿先のインパクトファクターについての話題をピックアップして,3回に分けて紹介します。

 

 ※本書は,「臨床整形外科」に「いまさら聞けない英語論文の書き方」として連載した内容に加筆・修正を施し,まとめたものです。

 

 

 英語論文の最低限の作法は,適切な英語フォントで入力することです.「あたり前だ」と言われそうですが,ちょっと待ってください.英語論文の初心者は意外とこの真意がわかっていません.特に,パソコンのOSが日本語環境だと,日本語と英語のIME(Input Method Editor:文字の入力システム)を切り替えて使うため,フォントを意識していないと,さまざまなミスが生じえます.

まずは英語フォントで正しく入力

 まずは下の3つの文をご参照ください.同じ文章が3つの異なるフォント(書体)で書かれています.どれが英語論文の原稿で通常使用されるかわかりますか?

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 答えは③です.フォントは上から①明朝体,②Arial,③Times New Romanです.明朝体でも一見問題ないようにみえますが,英語フォントではアルファベットごとに文字幅を変え,文字の間隔が一定(proportional fontといいます)になっています.たとえばiやjでは文字幅を狭く,wでは広くすることで,見た目にも整然として美しくなります.一方,日本語のフォントでは通常,文字の幅は一定なので,英文表記には適していません.

 最近では,同じ明朝体でもP明朝体(プロポーショナル明朝体)が使用できますが,そもそも明朝体は英語フォントではありませんので,英語論文では使用しません.ワープロを確実に英語入力に設定しておきましょう.日本語フォントがインストールされていない海外の研究者が使用するワープロソフト上では,文字化けが生じる可能性もあります.

英語フォントには使い分けがある

 それでは②Arialと③Times New Romanの本質的な違いは何でしょうか?

 英語フォントは,セリフ(serif)とサンセリフ(sans serif)に大別できます.セリフは文字の端にある小さな飾りのことで,セリフではこの“serif”が付加されています.さらに,縦線・横線の幅も異なります(図Ⅱ-1).このことからも,若干装飾的なフォントといえます.セリフのフォントとしてはTimes New RomanやCenturyが代表的です.和文フォントの明朝体に近いといえます.

図2-1.jpg
図Ⅱ-1 serif体とsans serif体の違い
丸く囲った部位がserif.serif体では線の太さが一定でないのも特徴です.sans serif体では線の太さはほぼ一定です.

 一方,サンセリフ(“sans”はフランス語で“without”という意味です)は,先ほどの“serif”がなく,縦線・横線の幅が一定です.ArialやHelveticaが代表的です.和文フォントではゴシック体が相当します.

 一般的にセリフはフォーマルな感じがあり,また印刷媒体で読みやすいとされています.多くの科学雑誌や新聞ではセリフのフォントが本文中に使用されています.サンセリフは各々の文字はすっきりとした感じがありますが,どちらかというとカジュアルな印象があります.見た目のインパクトもあるので,論文のタイトルなどで,しばしば使われます.また,発表用スライドやFigureの中では,論文とは異なり,一般的にサンセリフが推奨されています.文字をFigureやスライドなどに組み込む場合は,サンセリフのほうが認識しやすいためと思われます.

 Microsoft Wordなどのワープロソフトには,たくさんのフォントが用意されていますが,まずはTimes New Romanが第1選択です.文章が読みやすいですし,実際,多くの雑誌では投稿規定にTimes New Romanを使うように明記されています.

大きさとフォントは統一させる

 英語論文の原稿では11〜12ポイントの文字が通常使用されますが(ちなみに,Wordでは10.5ポイントがデフォルトで,やや小さめです),文字の大きさは最初から最後まで貫きます同様に1つのフォントも最初から最後まで貫きます.大きさの異なる文字や,ほかのフォントが混ざらないようにします.基本です.

 こんなことを間違うはずがないと思われるかもしれませんが,文字の大きさやフォントが統一されていない原稿には,頻繁に遭遇します.たとえば,Times New Romanで書かれた文章にCenturyや明朝体などが紛れていることがあります.

 原因ははっきりとはわかりませんが,どうもほかの原稿や,ウェブサイトの文章をコピペした場合などに起こるようです.つまり,異なる文字属性(文字の大きさ,フォント,装飾など)の文章・単語をそのまま貼りつけてしまっていると思われます.またカンマ(,)であるべきところに読点(、)が紛れていることもしばしばあります.いずれにしても,体裁の整合性が欠けると文面までいい加減にみえてしまいます.

特殊文字・数字なども英語フォントを使う

 また少し特殊な例もあります.図Ⅱ-2をご参照ください.左は誤りで,右が正しいです.お気づきかと思いますが,左は特殊文字や記号,数字が明朝体になっています.英語論文を書く際には,ギリシャ文字(α,βなど),括弧,ダブルクォーテーション(“ ”),カンマ,ピリオドなどが,異なるフォントで混在しないよう留意します.パソコン画面上では区別しにくいものがあるので要注意です.

図2-2.jpg
図Ⅱ-2 特殊文字,数字,記号入力は要注意
左の3語はα,2,%が明朝体になっています.

 特殊文字や記号を入力する際には,英文入力の状態から日本語IMEに切り替えることが多いと思いますが,そのためにこのようなことが起きると考えられます.Wordにある,【挿入】>【記号と特殊文字】で入力した場合は,そのときのフォントのまま文字が入力されるので,問題は生じません.日本語IMEで入力した場合は,日本語フォントになっていますので,入力した文字のフォントを英語フォントに直します.

 

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