医学界新聞

寄稿 櫻井大輔

2022.12.12 週刊医学界新聞(看護号):第3497号より

 「家族看護って何ですか」「家族支援はどうしたらできますか」。筆者は,家族支援専門看護師(Certified Nurse Specialist in Family Health Nursing:FCNS)となって10年以上になりますが,資格取得当初から今でも変わらず,多くの看護師から寄せられる言葉です。わが国における家族看護のSpecia listとされるFCNSとしては,本質的なこの問いを依然として受け続けている現実を真摯に受けとめ,このような言葉を耳にしない状況を看護界に創造していかなければならないと感じています。そのことを踏まえつつ,改めてFCNSとしての自身の臨床を振り返ってみると,より具体的な答え,すなわち家族看護の方法論が求められるようになったと肌感覚で認識しています。それは,臨床現場で家族看護・家族支援に対するニーズが高まっているということの裏返しでもあります。そのニーズに応えるべく,本稿では明日からの実践に生かすことができ,誰にでもできる(もしくはもうすでに行っている)家族看護・家族支援をお伝えしていきます。

 COVID-19のパンデミックにより家族支援の重要性と難しさが叫ばれ,また,2022年4月の診療報酬改定にて重症患者家族への支援体制整備で加算が得られる「重症患者初期支援充実加算」が新設されました。以前から救急看護・クリティカルケア領域での家族支援の必要性は認識されてきましたが,ここにきて改めて注目が集まっています。これは,家族看護をスペシャリティとする筆者にとって喜ばしい反面,「家族看護は特別なもの」という認識が強まるのではないかと,ひそかに危惧してもいます。

 家族看護とは,「家族が,その家族の発達段階に応じた発達課題を達成し,健康的なライフスタイルを維持し,家族が直面している健康問題に対して,家族という集団が主体的に対応し,問題解決し,対処し,適応していくように,家族が本来持っているセルフケア機能を高めること」と定義されています1)。簡単に言えば,「家族が家族自身の力で目の前の出来事に対処していけるように支援すること」です。このように,平易な言葉で考えてみると決して特別なことではなく,看護学を学び臨床で活躍されている方々であれば「何をいまさら……」「当たり前のこと」と感じられると思います。

 では,家族看護の対象は誰でしょうか。「患者家族」「患者家族」と表現される看護師が多いでしょう。しかし筆者がこの問いをされたならば,「患者を含めた家族」と答えます。この微妙な言葉の違いにこそ,家族看護に対する大きな認識のギャップが表れていると思います。

 家族看護学の中核をなす理論は,家族システム理論です2)。これは生物学者のベルタランフィが提唱した一般システム理論の考え方を家族のとらえ方に取り入れたもので,家族を一人ひとりの家族メンバー(構成要素)によって構成されたシステムととらえます。家族メンバー個々が互いに影響しあい,それぞれの関係性がさらに家族全体に影響するわけです。臨床をイメージして考えると,われわれ医療従事者がその家族メンバーの誰かにかかわるならば,その影響は家族メンバーにも波及し,家族全体にも影響します。つまり,家族全体をとらえるに当たっても,まず患者や家族メンバー個々をしっかりととらえることが重要なのです。家族メンバーと家族という集団との間を自由に昇り降りできるような目線が,家族看護の一つの特徴と言えるかもしれません。

 具体的な家族看護の手法について,仮想事例を用いて考えてみましょう。

 70歳代男性のAさん。膵臓癌終末期のため,現在疼痛コントロール目的(BSC方針)で入院中。 同世代の妻と,養子縁組する30歳代の男性との3人暮らしだった。養子は,Aさんが一代で築き上げた人気豆腐店の唯一の弟子。実子はいない。妻は体力的に衰えているものの,毎朝8時には病院に訪れ,18時までベッドサイドに座り,不安そうな表情でAさんの手足をさすり続けている。

 このような事例は,一度は体験したことがあるのではないでしょうか。「家族にどのように声を掛けたらよいかわからない」「奥さんも高齢で毎日大変なのだから,養子が代わりに来るとか送り迎えをするとかできるでしょう」といった声が挙がるかもしれません。まず,こうした声の背景を考えてみると,前者は「患者以外の家族にアプローチすることが家族看護」という看護師の認識,後者は「家族なのだから,助け合うべき」といった看護師個人の価値判断であって,家族メンバーが実際にどう考えているかはわかりません。

 では,具体的なアクションとしてできることは何でしょうか。前述した家族看護のとらえ方に基づいて考えてみると,絶対的に必要なのは「Aさんの疼痛コントロールが図られること」です。Aさんの安寧・安楽(痛みがない)によって,妻はAさんの痛がる様子を目にせず,安心して医療者に任せられるでしょう。それは,養子にとっても同じです。この事例の場合,現場の看護師は「Aさんの看病を一人で抱え込む妻」「養子縁組をしている男性との親子関係」といったことが気になるかもしれません。ですが,養子縁組をしている事実はわれわれが今変えられるものではなく,創られてきた関係性も変えられません。妻が一人で抱え込むのも何かしらの理由があります。これが,この家族の形であり,家族のありようなのです。であるならば,その家族のありようを訊ねていくことを優先してはどうでしょうか。家族のありよう・家族メンバーの考え方について理解を深めることができれば,そこから改めてその家族にあった支援を検討でき,やりとりを通じて,関係性が構築されていくと思います。看護師は「聞く・聴く」ことは比較的得意ですが,「訊く」,つまり踏み込んで尋ねることは苦手としているように感じます。だからこそ,得意とする患者ケアを通して,患者家族に関心を寄せて「訊く」ことから始めるのです。これは,誰もができる家族看護の一手ではないでしょうか。

 本稿で最もお伝えしたいのは,家族看護は特別なものでも,特別なスキルを必要とするものでもなく,家族看護の考え方さえ意識すればすぐに実践できるということです。家族システム理論を基盤としたシステム思考で日々の現象をとらえていくことで,患者・家族の見え方が変わってくると思います。認知の枠組みを変え,物事をとらえ直すことをリフレーミングと言います。家族看護学を学習した人やFCNSは,困難事例に直面したときに,無意識的に事象に対するリフレーミングをしています。それが全体の俯瞰にもつながり,介入の糸口を見つけるために有効な手段だと認識しています。この概念を知った今,「患者のケアなくして家族看護はない」という筆者のつぶやきを後ろ盾に,ご自身の家族看護に対する考え方・とらえ方をリフレーミングしてみてはいかがでしょうか。きっと自身が今までできていた家族看護に気付くことができ,明日からの看護のエネルギーになると思います。


1)鈴木和子,他.家族看護学 理論と実践第5版.日本看護協会出版会;2019.
2)上別府圭子,他.系統看護学講座――別巻 家族看護学.医学書院;2018.

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東海大学医学部看護学科 助教

2000年国際医療福祉大を卒業後,神奈川県立足柄上病院手術室・内科病棟で勤務しながら,11年に家族支援専門看護師となる。その後は資格を生かし同院にて教育専従看護師,救急外来看護師長を兼務しながら,組織横断的な活動を展開。18年より現職。

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