医学界新聞

寄稿 三好智子,大戸敬之,岡崎史子,舩越拓,吉田暁,芳野純,西城卓也

2022.12.05 週刊医学界新聞(レジデント号):第3496号より

 医療者は,臨床現場でうまくいった経験やうまくいかなかった経験をもとに,より安全で適切な医療を提供するよう日々努力しています。熟達した医療者は,臨床現場での自らのパフォーマンスに対する課題や,その課題を克服する方略を見いだすことが可能です。さらに,それらの方略を実行し,実行後のアウトカムから次なる課題にチャレンジすることにも秀でています。つまり,プロフェッショナルである医療者は,ドナルド・A・ショーンが提唱したような省察的実践1)を日々,行っています。しかしながら,医療者として成長過程にある研修医・専攻医は,自らのパフォーマンスに対する振り返りを自分自身で行うことが時に難しく,指導医による形成的評価(フィードバック)などのガイドが必要です。

 これまでも,臨床現場でのパフォーマンスを評価するために妥当性のある評価ツールが開発されてきました。例えば,診察の評価ツールであるMini-CEX(Mini-Clinical Evaluation Exercise)や技能を観察評価するDOPS(Direct Observation of Procedural Skills),カンファレンスでの担当患者に対する問題解決能力を評価するCbD(Case based Discussion)などが挙げられます2)。しかしこれらの妥当性のあるパフォーマンス評価ツールを用いて研修医・専攻医を評価しても,研修医・専攻医は指導医評価が自己評価と乖離していると認識して評価を受容しなかったり3),指導医がフィードバックを効果的に伝えられなかったりすることがあります。したがってこれらの評価ツールが必ずしも有効には活用されていない4)という状況に陥りがちです。

 R2C2モデルは,Sargeantらにより開発された評価を伝える際の研修医・専攻医と指導医との面談モデルです3)。研修医・専攻医の臨床現場でのパフォーマンスを改善するために指導医が振り返りを促し,行動変容をもたらすために用いられ,「ステージ1 信頼と関係を構築する(Relationship building)」「ステージ2 評価結果に対する反応や認識を探る(exploring Reactions)」「ステージ3 レジデントが結果/評価表の内容をどう理解しているか探索する(exploring Content)」「ステージ4 パフォーマンスを改善させるためのコーチング(Coaching)」の4段階に分かれています3)。われわれは開発者の許可を得て,このモデルの日本語版を発表しました5)

 R2C2モデルの優れている点は大きく2つあります。1つ目は,面談が構造化されていることです。4段階で順に面談を進めることにより,指導医と研修医・専攻医双方が評価を納得し受け入れる状況を整え,共に学習/改善計画を立てる段階を踏むことができます()。振り返りでは,自分の感情を認識することも重要な学習プロセスだとされ6),評価結果に対する反応や認識を探ることにも時間を取る必要があります。2つ目は,各段階の目的・目標・方略・フレーズ例が挙げてある点です()。これらの目的・目標を認識した上で各フレーズを使用し,研修医・専攻医に問いかけながら会話を進めると,自然と振り返りや学習/改善計画の立案ができるようになっています。

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 R2C2モデルにおける各段階の目的と目標(文献5をもとに作成)

 それでは,R2C2モデルを使用した振り返りの流れを,指導医のフレーズ例を挙げながら確認しましょう。『医師臨床研修指導ガイドライン2020年度版』7)では,初期研修の2年間のうちに少なくとも半年ごとの形成的評価の実施が求められており,臨床研修病院のプログラム責任者や指導医が活用できると考えます。また,臨床現場の一場面での行為についての振り返りでもR2C2モデルは有効だと言われています8)。そこで今回は,初期研修半年ごとの振り返りの場面と,病棟でのパフォーマンス評価後の場面の2つの例を挙げます。

◆初期研修半年ごとの振り返りの場面で

ステージ1 信頼と関係を構築する

指導医「これから,研修半年の節目の振り返りを行いますね。ローテーションはどうでしたか?」
「何が楽しかったですか?」
「どんなことに挑戦しましたか?」

ステージ2 評価結果に対する反応や認識を探る

指導医(レジデントに評価表を見せながら)「評価表の結果は,あなたが思っていたものと比較してどうですか?」
「意外な部分はありますか?」
「目標に達していないと聞くのはつらいですよね」

ステージ3 レジデントが結果/評価表の内容をどう理解しているか探索する

指導医「どこかわかりにくいところがありますか?」
「このようなコメントがありますが,何か心当たりのある出来事はありますか?」

ステージ4 パフォーマンスを改善させるためのコーチング

指導医「次のローテーションで達成したいことは何ですか?」

◆病棟での1つのパフォーマンスに対して8)

ステージ1 信頼と関係を構築する

指導医「前回の面談で,あなたと一緒に“X”に挑戦することを確認しましたね。今回の経験はどうでしたか?」
「何がうまくいきましたか?」
「何がうまくいきませんでしたか?」

ステージ2 評価結果に対する反応や認識を探る

指導医「あなたが“X”をしているのを見て,“Y”と思いました。私のフィードバックを聞いて,あなたは何を考えましたか?」

ステージ3 レジデントが結果/評価表の内容をどう理解しているか探索する

指導医「どこか,わかりにくいところがありますか?」

ステージ4 パフォーマンスを改善させるためのコーチング

指導医「次の目標は何ですか?」「いつ,誰とフォローアップしましょうか?」

 実際にわれわれは,R2C2モデルを使って研修医―指導医面談を行いました。研修医は事前に,研修目標に対する到達状況について自分自身で振り返りを行い,それを記録した上で面談に臨んでいます。研修医の面談後のアンケートでは,多くの研修医がR2C2モデルを使用した指導医との面談に肯定的な感想を持っていました。特に,指導医とのコミュニケーションの中で,自ら課題を発見したり,学習/改善計画立案の重要性に気づいたりしただけでなく,自分の考えを伝えられる場である点を有意義だと考えているようでした9)

 R2C2モデルは,欧米の複数国でレジデント―指導医間での有効性が検証されています。しかし,アジア諸国や医師以外の医療者での検証はされていません。日本の文脈において,あるいは他の医療職においても有効であるか,さらなる研究が望まれます10)

 これまでも学会発表やセミナーなどで,R2C2モデルのワークショップを行ってきました。ロールプレイなども交えて学べる場になっており,今後も開催する予定ですので,ぜひご参加ください。また,R2C2モデル実践のディスカッションも計画中です。皆さんと一緒に,臨床現場でのより良い振り返り面談ができるよう,日本の文化にあったR2C2モデルを育てていきたいと思っています。


:各ステージの方略とフレーズ例は,文献5の表1を参照。

1)ドナルド・A・ショーン.省察的実践とは何か――プロフェッショナルの行為と思考.鳳書房;2007.
2)Med Teach. 2007[PMID:18158655]
3)Joan Sargeant, et al. Evidence-Informed Facilitated Feedback:The R2C2 Feedback Model. Association of American Medical Colleges;2016.
4)Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2016[PMID:26003590]
5)三好智子,他.効果的なフィードバックの伝達および省察・行動変容を促すコーチングをブレンドした面談モデル――R2C2モデルの紹介と日本語版.医教育.2022;53(1):77-82.
6)Med Teach. 2002[PMID:12098429]
7)厚労省.医師臨床研修指導ガイドライン2020年度版.2020.
8)J Grad Med Educ. 2020[PMID:32089791]
9)岡崎史子,他.効果的な臨床研修医のフィードバック,コーチング――R2C2を用いて.第53回日本医学教育学会.2021.
10)Miyoshi T, et al. The need for researching the utility of R2C2 model in Cross-Cultural and Cross-Disciplinary settings. The Asia Pacific Scholar. 2022;7(4):86-7.

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岡山大学大学院医歯薬学総合研究域総合内科学くらしき総合診療医学教育講座 准教授

高知医科大卒。2010年岡山大大学院医歯薬学総合研究域附属医療教育センター,卒後臨床研修センターを経て,20年より現職。医学教育専門家を取得し,22年岐阜大大学院医学系研究科医療者教育学修士課程修了。博士(医)。行動科学授業やベッドサイド研修の教育を通じて,医学科1年生から研修医と共に,日々,成長中です。

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鹿児島大学病院歯科総合診療部 助教

広島大歯学部歯学科卒。同大病院にて臨床研修修了。同大大学院医歯薬保健学研究科博士課程修了。博士(歯学)。2015年より現職。21年日本医学教育学会認定医学教育専門家取得,22年岐阜大大学院医学系研究科医療者教育学専攻修士課程修了。修士(医療者教育学)。医療プロフェッショナリズムや地域歯科医療について研究を行う。

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東京慈恵会医科大学教育センター 准教授

慈恵医大卒。聖路加国際病院,慈恵医大青戸病院内科,慈恵医大循環器内科を経て,2020年慈恵医大教育センター講師,22年より現職。同大臨床研修センター副センター長。日本医学教育学会認定医学教育専門家。岐阜大大学院医学系研究科医療者教育学専攻修士課程修了。修士(医療者教育学)。

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東京ベイ・浦安市川医療センター救急集中治療科 部長

2005年千葉大医学部卒。教育にも根拠となる理論や学問的要素が必要と考え,医療者教育学修士課程を修了。自施設や学会活動を通じて救急医育成に励んでいる。

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新潟市民病院救命救急センター 副センター長

新潟大医学部卒業。沖縄県立那覇病院・南部医療センターこども医療センターにて臨床研修修了。2022年岐阜大大学院医学系研究科医療者教育学専攻修士課程を修了。修士(医療者教育学)。22年より岐阜大大学院医学系研究科医学教育学教室博士課程に所属し,臨床と研究の両立を目指す。新潟県の救急医療ならびに医学教育がよりよくなるよう,仲間と共に日々奮闘中。

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帝京平成大学健康メディカル学部理学療法学科 准教授

2001年国際医療福祉大卒。亀田総合病院,田中整形外科,太田医療技術専門学校を経て,11年より現職。14年群馬大大学院保健学研究科修了。博士(保健学)。22年岐阜大大学院医学系研究科医療者教育学専攻修士課程を修了。修士(医療者教育学)。理学療法教育専門理学療法士,日本理学療法教育学会理事。

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岐阜大学大学院医学系研究科医療者教育学専攻 専攻長

1999年日大医学部卒。国立病院機構東京医療センター総合内科,名大大学院,同大病院総合診療科を経て,2011年より岐阜大医学教育開発研究センター勤務,現在同センター長。09年オランダ・マーストリヒト大の医療者教育学修士号を日本人で初めて取得。20年本邦初の医療者教育学専攻修士課程を創設し,現在専攻長。日本医学教育学会理事。

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