医学界新聞


第10回日本シミュレーション医療教育学会学術集会の話題より

取材記事

2022.11.28 週刊医学界新聞(看護号):第3495号より

 第10回日本シミュレーション医療教育学会学術集会(大会長=京大大学院・任和子氏)が10月22日,「シミュレーション医療教育における心理的安全性」をテーマにオンライン上にて開催された。本紙では,「発問と応答で深い学びと心理的安全性をつくる」(座長=京大大学院・近田藍氏,愛媛大病院・内藤知佐子氏)と題されたセッションの模様を報告する。

 学習者の興味を喚起し,発想を広げ,思考を深めるための意図的な問いかけとしての「発問」と,発問に対する学習者の返答を受け止め,さらなる学びにつなげるための「応答」を活用した教育が指導者には期待されている。また「応答」には学習者の自己有用感・自己肯定感を高め,心理的安全性の高い教育を実現する効果があるという。

◆心理的安全性を高め,主体的な学習へとつなげる

 はじめに登壇した愛媛大の高橋平徳氏は,「発問・応答」は指導者が学習者に対して持つ「教える・支える・受け入れる」の3つの役割を果たす重要な教育方法であると解説し,目的別に分けられた6種類の発問(導入・発散・収束・深化・運営・まとめ)の適切な使い分けについて具体的な例を示しながら紹介した。また,心理的安全性を生む応答には「承認」が基礎にあるとし,「待つ・聴く・確かめる・返す」の要素からなる応答で学習者の努力を認め,足りないところはさらに発問して思考を深めさせる,というサイクルを回すことが大切だと強調した。

 「指導者は一方的に教える立場ではなく,二人三脚で課題に取り組んでいくパートナーであるという姿勢を学生に示し,心理的負担を軽減することが重要」と語ったのは高橋聖子氏(折尾愛真高校)だ。氏は心理的安全性を高めるためのポイントとして,失敗できる環境を整えた上で思考を深める発問を行うことが学生のチャレンジ精神や学習への意欲を支えるには大切であると,日々の教育現場で培った経験を共有した。

 両氏の発表中には配信のチャット上に多数の質問が寄せられ,いくつかの質問に対するディスカッションが行われた。学習者自身に考えてもらいたいとき,どのタイミングで答えを明示すればよいか,との質問に高橋平徳氏は,「知識の確認など,明確な答えがある問題であれば時間を取らずに教えてしまってもよいと思う。一方,生涯をかけて考えていくプロフェッショナリズムや看護観などに関する質問には,その場の応答で答えを明示する必要はないと感じる。指導者が何を大切にしているかを授業中に態度で見せることが,その生徒にとっての看護観を考えることにもつながるだろう」と答えた。続けて高橋聖子氏は,「『患者を思いやる』『患者に寄り添う』などの教えるのが難しい看護観であっても,自分が持つ意図を伝えることはできる。また,生徒のいかなる答えにも応答できる力があれば,発問と応答が成り立ち,継続して考えてもらうことにつながる」と述べ,この質問への回答とした。

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