医学界新聞

対談・座談会 井本寛子,江藤由美,小森久美子

2022.11.28 週刊医学界新聞(看護号):第3495号より

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 働き方改革()に伴い多職種間でのタスク・シフト/シェアの検討が進められる中,日本看護協会(以下,日看協)は『看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド』1)を公開した。ガイドラインでは,患者利益,医療の質・安全性の担保を前提に,看護師がその専門性を十全に発揮できる形でのタスク・シフト/シェアを推奨する。本紙では,日看協常任理事としてタスク・シフト/シェア事業を担当する井本氏と,看護部長として自施設内でタスク・シフト/シェアの遂行に取り組んだ江藤氏,小森氏による座談会を企画。それぞれの取り組みを通して見えてきた成果や課題について議論した。

井本 時間外労働の上限規制が医師に関しても適用される2024年4月が差し迫る中,院内でどうタスク・シフト/シェアを進めていくべきか思い悩んでいるとの声が,各施設の管理者から聞こえてきています。日看協では,2022年6月に『看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド』1)を公開しました。医師の働き方改革が進められる状況においても,看護師が専門性を発揮し,患者中心の質の高い医療を提供することができるよう,基本的な考え方をまとめたものです。

 本日は,後に本ガイドラインで好事例としてまとめられたタスク・シフト/シェアに取り組む三重大学医学部附属病院の江藤看護部長,市立野洲病院の小森看護部長にお越しいただきました。両院とも2021年の夏から秋にかけて着手し,同年末から翌年始頃には取り組みが軌道に乗ったとのことです。タスク・シフト/シェアに取り組むに当たって大切なことを伺えればと思います。

井本 まずは,三次救急医療施設であり,病床数も685床と多い三重大学医学部附属病院(表11)でのタスク・シフト/シェアについて,どう進めたのかを伺えますか。

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表1 三重大学医学部附属病院施設概要(文献1より一部改変)

江藤 当院でタスク・シフト/シェアを考えた際,取り組むべき領域としてまず挙がったのが救急外来です。人手が不足しており,他の診療科の医師が応援の形で救急外来を兼務している状況がありました。そこで,看護部長である私と看護副部長,救急科の師長,副師長と病棟主任を含む救急科の医師によるワーキンググループを立ち上げて議論を重ねました。結果的に,医師の事前の指示や事前に取り決めたプロトコール()に基づいた採血・検査を看護師が行うことでタスク・シフトを図っていくこととなりました。ワーキンググループでプロトコールを作成した後に,病院長,副病院長を含む会議でも承認をいただいたという流れです。

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 指示の種類(文献1より一部改変)

井本 救急外来での医師の時間外労働が問題になっていたのでしょうか。

江藤 時間外労働が特別多かったというわけではありません。問題はむしろ,人手不足を補うために他科の医師や研修医が数か月間のみ救急科で働くという体制のため,統一されていない指示の下で医療が提供されている状況にありました。救急科医師の不足を補う目的ももちろんあるものの,統一されたプロトコールを救急科に関係する職員全員で共有し,より効率的で質の高い医療提供をめざすことが主目的でした。タスク・シフト(移管)よりもタスク・シェア(共同化)の側面が強いですね。しかし,一部の医師は法的な懸念を抱いているようでした。

井本 どのような懸念があったのでしょう。

江藤 当院の脳卒中に関するプロトコールには,医師の診察前の看護師による検査オーダーが含まれています。その点が医師法第20条(無診察治療の禁止)に抵触するのではとの指摘があったのです。業務の割り振りを新しくする際には当該業務に当たる職種を守ることが必要です。これも看護師を守りたいとの観点からの指摘でした。そうした懸念に対しては,厚労省医政局長通知「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」2)を示しながら,法令で定める看護師の業務範囲を逸脱しないことを説明し,納得を得ました。

井本 各職種の法律上の業にきちんとのっとっているかを確認することは,医療安全管理上忘れてはならない点ですね。

江藤 もう一点付け加えるとすれば,タスク・シフト/シェアに伴って,電子カルテ上の権限の切り分け,付け替えが発生しますから,ベンダーとの契約内容には注意が必要です。権限の切り分け,付け替えへの対応も含めた包括的な契約であればいいのですが,都度課金になると業務分担を見直すたびに高額な支出が発生します。

井本 そうした負担が原因でタスク・シフト/シェアがなかなか進められない施設もあるようです。電子カルテにおいて実施者,指示者を明確にしておくことは医療安全管理上必要ですから,場合によっては契約の見直しも含めて検討しなければいけませんね。

井本 次に,二次救急医療施設であり,病床数199と中小規模である市立野洲病院(表21)のお話を伺えますか。

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表2 市立野洲病院施設概要(文献1より一部改変)

小森 当院では,2020年度に職種間の役割・業務分担を分析しており,その結果から,医師の時間外労働は少なく,医師から他職種へのタスク・シフトはほぼ十分なレベルで行えていることがわかっていました。一方で,看護師の担う業務が多く,医師以外の職種間の連携に課題があると考えられました。そのため国のタスク・シフト/シェアの流れを契機に,多職種間での連携の体系化をめざしたのです。各職種が専門性を発揮できる仕組みの構築が念頭にありました。

井本 業務分析後はどのように取り組みを進めましたか。

小森 まずは現状の分析結果を伝えて,病院長,事務部長を含む病院幹部の認識を統一し,合意を形成することで,組織としてタスク・シフト/シェアに取り組む承認を得ました。次に,プロジェクトチームの立ち上げです。当院では各職種が常に顔の見える関係にあるという中小規模病院の強みを生かすため,全部門・全職種の課長職が参加する「全課長職会議」を設置しています。タスク・シフト/シェア推進においては全課長職会議から誕生したプロジェクトチームが主導し,患者の利益を共通の目標としながら,組織全体の業務効率化,より質の高い医療を提供するための各職種の協力・分担についての検討を進めました...

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日本看護協会 常任理事

1991年姫路赤十字看護専門学校,92年日赤助産師学校卒。日赤医療センター看護副部長,周産母子・小児センター副センター長などを経て,2018年より現職。21年日赤看護大大学院博士課程修了。常任理事としての担当はチーム医療や助産師職能に関する業務,タスク・シフト/シェアに関する事業。アドバンス助産師,認定看護管理者。

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三重大学医学部附属病院 看護部長/副病院長

1984年三重大医学部附属看護学校卒。2003年三重県立看護大大学院修士課程修了。三重大病院副看護部長,同大医学部看護学科准教授などを経て,16年より現職。医療サービス担当副病院長として22年度よりタスク・シフト/シェアの推進に関するワーキンググループの長を務める。認定看護管理者。

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市立野洲病院 看護部長

1989年藍野学院短期大看護学科卒。2013年医療法人御上会野洲病院看護部長などを経て,19年より現職。同年聖泉大大学院修士課程修了。17~20年滋賀県看護協会職能理事を務めた。看護部長として,院長や事務部長とも密に連携を取りながら,タスク・シフト/シェア推進のイニシアチブを取る。

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