医学界新聞

寄稿 西村宣子

2022.10.31 週刊医学界新聞(看護号):第3491号より

 人生100年時代と言われる中,キャリアや豊富な経験を生かして定年後も社会に貢献することが看護職においても求められています。日本看護協会は,定年退職前後の看護職を「プラチナナース」と称し,熟練した看護技術や対人スキルを活用しながら生き生きと働ける環境づくりに尽力しています1)。とはいえ,セカンドキャリアについて全く考えていないという方も多いのではないでしょうか。

 本稿では,看護管理経験者のセカンドキャリアに関する2つの研究と,第26回日本看護管理学会学術集会で情報交換した内容をご紹介します。

 何を隠そう,私自身も看護師長を務めていた40歳代の頃は,日々管理業務に追われる中でセカンドキャリアを漠然と考え,「早く定年退職してゆっくり過ごしたい」と定年後の生活に期待感をも抱いていました。

 しかし,50歳を過ぎセカンドキャリアがいざ近付くと,「この病院を退職したらどこで働こう」「現場の仕事はできるだろうか」と不安と焦燥感が込み上げてきました。そして「病院勤務の看護師長はセカンドキャリアをどう考え,どんな準備をしているのか」「医療福祉施設は看護管理者をどう活用しているのか」との疑問から2つの調査研究を行いました。

◆一般病院に勤務する看護師長のセカンドキャリアに関する意識

 一般病院に勤務する40歳以上の看護師長440人を対象に,セカンドキャリアに関する意識について無記名自記式質問紙調査を2019年に行いました2)。回答者255人のうち,「働き続けたい」が43%,「考え中」が40%,「働きたくない」が16%でした。セカンドキャリアにおいて希望する雇用形態は,「現在の職場(22%)」「スタッフ(42%)」「非正規雇用(55%)」がそれぞれ最多でした。勤務継続意向の理由は,「経験を生かして社会に貢献したい」「看護の仕事が好き」など前向きな回答と,「生活のため」「年金の不安」など経済面で止むを得ず働くという回答に大別されました。

 また,看護師長は仕事を継続する意向は強いものの,日々の看護管理業務に没頭する中,セカンドキャリアを考え準備したり情報を得たりする時間や機会が少ないこともわかりました。さらに,働く上では下記の面で不安が大きいことが明らかになりました。

●管理者としての勤務が長く,看護技術やスタッフ業務が実践できるか
●即戦力として働けるか
●社会における看護管理者の価値

◆医療福祉施設における看護師長経験者の雇用の実態

 2021年には,ある県の医療福祉施設1236の人事権を持つ看護管理責任者を対象に,看護師長経験者の雇用状況について無記名自記式質問紙調査を実施しました。回答施設は243で,看護師長経験者の雇用ありが41%,雇用なしが57%でした。雇用形態は「非正規雇用」が56%,「正規雇用」が43%,職位は「スタッフ」が54%で「看護管理者」が38%,「その他」が8%でした。定年が60歳である施設が56%であり,看護師長経験者が退職後に管理職経験を生かせる現場が少ないことがわかりました。また下記のように,看護管理経験はポジティブにとらえられている面とネガティブにとらえられている面の双方があると判明しました。

●看護管理経験者への施設の評価

雇用施設が期待している点
●看護師としての高い能力が周囲に与えるプラスの影響
●組織方針の実現に対する高い実行力
●他職種との高い連携能力
●人手不足の解消

非雇用施設が懸念している点
●管理経験が長くなる中で,知識や対応がアップデートされていない可能性
●命令口調になるなど,スタッフとの協調が取れない可能性
●認定看護管理など,特別な知識や技術を有さない際に即戦力となれない可能性

◆看護管理経験を生かせる勤務形態の検討・拡充を

 第26回日本看護管理学会学術集会では,上記2つの研究の情報提供の後にディスカッションを行いました。すでにセカンドキャリアで活躍されている参加者から挙がった話は,「看護管理研修で一緒になった仲間と訪問看護ステーションを立ち上げた」という素敵なものや,「ゴールドナースという名称で定年後の看護部長を雇用し,看護師長の補佐や相談業務などを担ってもらっている」(囲み記事)という,看護管理者のセカンドキャリアを考える上で参考となるものでした。一方,「看護師長より看護部長経験者のほうが雇用先が少なく,県の看護協会へ就職したが時給は1500円と低い」という現状の指摘もありました。

 当日の議論を通して,今後は「ゴールドナース」のように看護管理経験を生かせる勤務形態の検討や職場の拡充が求められると考えています。

 セカンドキャリアには,「学び直す楽しみがある」と言われます3)。自分が歩んでいるのは自分自身の人生であり,セカンドキャリアにおいても自ら道を選択しなければなりません。その時になって慌てるのではなく,今から自身のセカンドキャリアを前向きに考え,準備していきませんか?

 現在,セカンドキャリア支援研修や職場復帰のための看護技術講習会などが各県のナースセンターで実施されています。さらに,今後は看護管理者研修などにおいてセカンドキャリアで働く看護職の方の話を聞く機会を設けるなど,セカンドキャリアを考える時間を意図的に確保するような支援も必要でしょう。現場から離れた看護管理者の不安が大きい看護技術訓練の場を増やすことも求められます。そして,看護管理者としての社会的価値を問い直し,その能力や成果の見える仕組みを作ることで,セカンドキャリアで働く場が広がっていくはずです。

 いま最前線で活躍している看護管理者の方々が,必ず来るセカンドキャリアにおいても自分らしく生きられることを願っています。


1)日本看護協会.プラチナナースの活躍促進.2022.
2)西村宣子,他.一般病院に勤務する看護師長のセカンドキャリアに対する意識調査.千葉保健医療大紀.2022;13(1):21-8.
3)安原実津,他(訳).先入観を捨てセカンドキャリアへ進む方法.パンローリング;2018.

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千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科 准教授

1985年に看護師免許を取得後,公立病院,民間病院での勤務を経て94年より東京歯科大市川総合病院に勤務。2004年より看護師長,15年より副看護部長を務める。18年より現職。修士(看護管理学)。認定看護管理者。

 ゴールドナース(65歳以上の定年退職後の看護師,当院規定)が当院で活躍するようになり,2年が経過した。現在3人のゴールドナースが非常勤で従事している。

 少子高齢化による労働人口の減少や看護職員の平均年齢の上昇などにより,看護職員の人材確保と定着がますます課題となる中,当院も例にもれず慢性的な人員不足により思うような看護提供ができない日々が続いていた。こうした状況をストレスに感じて退職する看護師もいた。ある日,私は職能団体での意見交換でゴールドナースの存在を知り,すぐに自院に持ち帰り,幹部会にてその雇用について承認を得た。Web上で求人情報を掲載し,間もなく現在も活躍している第1号のゴールドナースが面接に来てくれた。身体的な側面でできること・できないことを共有した後に,内定通知を出した。当初は不安行動のある患者の対応や検査・治療の搬送,日常生活援助を主な役割として提示していたが,実際には患者対応だけでなくスタッフ間の人間関係における緩衝役としても能力を発揮し,看護管理者の負担軽減にもつながっている。

 2022年に入り,新たに管理者経験のあるゴールドナースが入職した。看護部長経験もあるため,看護部長の相談役や看護管理者の育成も担っている。部下に言いにくいことへのアドボケーター役や上司に相談しにくいことの対応等,通常のゴールドナースとは異なる役割をも担う。ゴールドナースの3人は皆,「初めに得意・不得意などをすり合わせできたことで負担なく勤務できている」「経験を生かせており,やりがいがある」と述べる。また,受け入れるスタッフの側からも,当初は「一看護師としての業務内容ができないなら人員不足は解消されないのではないか」などのネガティブな意見も聞かれたが,今では「かなり助かっている」「なくてはならない存在」と信頼が寄せられている。

 今後はゴールドナースを導入したことで看護現場がどのような影響を受けたかを明確にし,その活躍の場をさらに広げていきたいと考えている。



神戸低侵襲がん医療センター副院長/看護部長

1992年に看護師免許取得後,民間総合病院にて経験を積む。2004年療養型民間病院の看護部長に就任し,看護管理者に。17年より現職。認定看護管理者。

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