医学界新聞

寄稿 河野 浩之

2022.09.19 週刊医学界新聞(通常号):第3486号より

 悪性新生物(がん)は死亡原因の第1位,脳血管疾患は第4位1)であり,日常診療では両者の合併例に遭遇する機会が多い2)。具体的には,がん患者が脳卒中を発症する場合と,脳卒中患者に新たにがんが発見される場合がある。近年,がん治療,脳卒中治療とも急速に進歩する中で,脳卒中診療医とがん診療医は,より密接にかかわることが求められるようになってきた。

 脳卒中領域とがん領域の関係を示す言葉である“Stroke Oncology”は,STROKE2020(大会長:杏林大・塩川芳昭氏)において提唱され,大きな注目を集めている。Stroke Oncologyは「がんと脳卒中合併に関する多岐にわたる領域横断的なコンセンサスを形成する取り組み」であり,がんと脳卒中合併例の病態や治療法などの臨床研究分野の議論から,両疾患を合併した後の治療支援体制の構築まで含む幅広い領域を指す。

 がんと脳卒中合併例には多くの課題やアンメットメディカルニーズがある。いくつか具体例を下記に挙げる。

・がん患者が急性期脳梗塞を発症した場合に迅速かつ適切に血栓溶解療法や血栓回収療法を実施できているか
・がん診療医と脳卒中診療医の医療連携が図れているか
・脳卒中患者のがんスクリーニングをどのように行うか
・がん合併脳梗塞の再発予防治療の科学的根拠が未確立
・脳卒中のリハビリテーションとがん治療継続の両立の困難さ
・脳梗塞後遺症のためにがん治療の適応が縮小される可能性

 複合的で未解決な課題を有する両疾患合併例について包括的に議論するためには,脳卒中診療医,がん診療医,リハビリテーション医を含む多職種での情報共有,協力は不可欠である。

 そこで,日本脳卒中学会に「Stroke Oncologyに関するプロジェクトチーム」(座長:塩川氏)が2020年に設置され,継続的,領域横断的に議論する取り組みが始まった。まず,わが国におけるがんと脳卒中合併症例の治療者側の意識と診療実態のアンケート調査を行った2)。回答によれば,脳卒中診療側の95.5%,がん診療側93.6%の施設が両疾患の合併例の診療を行っているとし,本プロジェクトのニーズの高さがうかがえる。また,がん患者の脳卒中発症経験を聞いたところ,脳梗塞95.7%,脳出血75.1%と経験数は多く(図12),脳卒中による入院または発症後に新規にがんを発見したことがあるという割合は,脳梗塞で88.4%と高いことが明らかとなった(図22)。さらに脳卒中発症後のがん治療について,脳卒中診療側はがん診療科の判断に任せているとする回答の割合が89.0%,がん診療側では症例ごとに個別に判断するという回答の割合が78.2%と高かった。個別対応には相互の治療への影響や治療の優先順位を考える場面もあるが,関係する医療者間で「話し合う」連携体制が構築できている施設は多くないのではないかと思われる。

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図1 がん患者の脳卒中発症の経験について(文献2より転載)
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図2 脳卒中による入院または発症後に新規にがんを発見した経験について(文献2より転載)

 Stroke Oncologyは,脳卒中診療医だけで解決することは困難であり,がん診療医,リハビリテーション医,多職種との包括的議論を行っていきたい。


1)厚労省.令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況.
2)河野浩之,他.がんと脳卒中を合併する症例の治療者側の意識と診療実態に関する全国調査.脳卒中.2022;44(2):133-41.

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杏林大学医学部脳卒中医学 講師

2001年熊本大卒。同大病院脳神経内科にて研修。荒尾市民病院,国立循環器病研究センター,済生会熊本病院などを経て,13年水俣市立総合医療センター脳神経内科部長。14年豪ニューカッスル大脳神経内科へ留学。16年より現職。
 

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