医学界新聞

フットヘルスを守るため

対談・座談会 寺師 浩人,菊池 守

2022.08.01 週刊医学界新聞(通常号):第3480号より

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 足にかかわる疾患を総合的に診る足病医学をご存じだろうか? 米国では,足潰瘍や足部変形,巻き爪などの足の症状を専門的に診る専門医として「足病医(podiatrist)」が存在し,広く臨床現場で活躍している。患者のフットヘルスが維持されると運動量の減少が抑えられ,サルコペニアやフレイルの予防につながるからだ。すなわち,超高齢社会の日本では対象となる人々は多く,医師にとって足病医学の学習は必要不可欠と言えるだろう。しかし,その認知度は十分ではない。

 今回,日本フットケア・足病医学会の理事長を務める寺師氏と,日本で唯一の「足と糖尿病の専門病院」である下北沢病院の院長・菊池氏の対談から,足病医学を根付かせるためのヒントを探っていきたい。

寺師 足病とは,日常生活に支障のある非健康的な下肢・足の状態を指します。背景には,形態的・機能的障害(循環障害・神経障害)や感染と付随する足病変があります。欧米には医学や歯学と同じように「足病医学」という学問が古くからあり,中でも米国足病医学会は100年以上の歴史を持ちます。米国では身近な存在として患者にも広く普及している一方で,日本での認知度は発展途上です。足の機能の維持が外出機会を増加させ,サルコペニアやフレイルを予防し心身の健康につながることから,より多くの医療者に足病医学を知ってほしいと私は考えています。

寺師 菊池先生が院長を務める下北沢病院は足病総合センターなどの外来を設ける,日本で唯一の「足と糖尿病の専門病院」ですよね。2016年に同院を開設されたそうですが,足病医学に関心を持つきっかけは何だったのでしょうか。

菊池 2012年に米国に留学した際に足病医(podiatrist)の診療を目の当たりにしたことです。留学先で見た足病診療がとても面白く,そこから足病医学を本格的に学び始めました。

寺師 留学先のpodiatristから何を感じましたか?

菊池 米国のpodiatristは日本のプライマリ・ケア医に近いということです。足潰瘍を診るのであれば,日本では形成外科や皮膚科が対応すると思いますが,米国ではpodiatristがまず診療に当たり,症状に応じて専門医にコンサルトするのが通常の医療体制になっています。「何となく体調が悪ければ内科」といった入口としての診療科があるように,足についても足病医という名のよろず相談窓口があればよいのですが,日本にはそのような医療機関が少ない。日本で家庭医が活躍している状況を考えると,プライマリ・ケアで足病を診る医師がいても良いのではと考えています。

寺師 同感です。足病を診る日本の医師はスペシャリストばかりで,プライマリ・ケアに従事する医師は多くありません。プライマリ・ケアで足病を診る医師が増えないと,結果として診療の質の向上につながりませんよね。

菊池 はい。例えば,高齢者の爪切りのケースにおいて,失敗して傷を作ってしまうのではとの恐怖から家族が爪切りを敬遠し,外来を受診する場合があります。一連の処置を終えるまでに30分程度を要しますが,これを全て専門機関で対応するのは現実的ではありません。高度医療を提供する専門機関,軽症の対応を行うプライマリ・ケア,そしてフットケアを行う民間の役割分担が重要なのです。

寺師 軽症のうちに介入しないと,疾患は重症化し,足を失う可能性すらあるでしょう。

菊池 ええ。巻き爪などはフットケアを行うセラピストが対応できることもあります。医療リソースを考える上では,患者を適切な場所に振り分けていくことが求められます。

寺師 足病のプライマリ・ケア体制を構築していくために,何か手はありますか。

菊池 早急な人材の育成です。そのためには多様な足病の症例を診られる研修機関,プライマリ・ケアを学べる場を増やすことが求められます。日本で足病医学がそこまで普及していない現状に鑑みると,一般病院やクリニックなどでどこまで安全性が担保された治療が行われているのかは専門機関から見えづらいです。足病診療を行える施設を増やすことと並行して,診療の質も担保する必要があるでしょう。

寺師 日本フットケア・足病医学会でも診療の質の担保には力を入れており,『重症化予防のための足病診療ガイドライン』が今夏に発行されることになりました。特定の診療科だけでなく,多科・多職種向けに作られた点が特長です。

菊池 今まで手探りで診療を進めていた医療機関も,ガイドラインが発刊されることでエビデンスに基づいた医療を提供できる可能性が広がるはずです。

寺師 菊池先生は足病診療の質の担保のために何か取り組まれていることはありますか。

菊池 2019年に初代理事長として「一般社団法人 足の番人」を設立しました1)。現在は理事長が変わっていますが,同法人では多くの医師に講師を依頼し,足病,フットケア,靴,歩行に関するセミナーを毎月開催しています。医療従事者だけでなくシューフィッターやケアマネジャーなど毎回多くの方が参加しており,足病医学をわかりやすく広めることで足病の啓発・認知度の底上げにもつなげていきたいと思っています(写真1)。

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写真1 足の番人セミナーの様子
足の番人セミナーはフットケアにかかわる全ての方を対象に,ケア技術の向上と足病の啓発によるフットケアの医療的安全性の担保を目的として行われている。以前は下北沢病院の隣の建物で開催され,毎回50人程度が参加。現在はWebセミナーが主となっている。

寺師 認知度向上に関連して言うと,特にこれからの医療界を担う医学生に少しでも興味を持ってほしいとの思いから,私の所属する神戸大学では,形成外科学講座の中に大学で唯一となる足病医学講座を設けました。

菊池 学生時代に教育を受けられれば関心を持つきっかけになり得ますよね。まず,足病という言葉を目にする機会を増やすことが重要です。これは一般の方にも言えるでしょう。なぜなら,肩こりや老眼などは老化現象として共通認識がありますが,足のトラブルは治さなければいけないものか,足の老化として放っておいても問題ないものか,その判断がつきづらいからです。そこで,一般の方向けに「教えて,足病先生!」というWebサイト(写真2)を立ち上げました2)。本サイトでは,スペシャリストたちが足病先生として記事を執筆し,さまざまな情報を発信しています。

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写真2 「教えて,足病先生!」
足病のスペシャリストたちが足病先生としてコンテンツを執筆し,足の健康や足病の予防・治療に関する正しい知識の啓発を行う。

寺師 「足病のプライマリ・ケア体制を構築していく」という目標に向けて,日本の足病医学を担う日本フットケア・足病医学会が官民と協力して進むべき道が少し見えてきたように思います。日本版の足病医学を学会主導で確立していくための一歩ととらえられますね。

寺師 施設拡充の観点において本領域では診療報酬が長らく算定できないことが課題でしたが,最近では2つの前進がありました。1点目は2016年度の診療報酬改定で人工透析患者に対する下肢末梢動脈疾患指導管理加算の新設です。下肢末梢動脈疾患を有する人工透析患者を専門機関へ紹介した場合,月1回を限度として100点が算定されます。2点目は,2022年度の診療報酬改定で,下肢創傷処置料および下肢創傷処置管理料が新設されたこと。これらの変化によって本領域への新規参入も期待できるようになりました。

菊池 足病診療は,靴と靴下を脱がせて包帯を外し,処置し戻してと,どうしても患者一人当たりにかける一連の診療プロセスに時間を要しがちです。これを理由に足病診療を敬遠していた医療機関も少なくないでしょう。下肢創傷処置料の新設によって,足病を診る医療機関が少なからず収益を上げられるようになったことは大きな福音であり,フットケア外来などを新設する医療機関が増えることを願っています。その上で,「これだけ収益が上がった」と現場からアピールして設備や人員の拡充を求めていくことも重要でしょう。

寺師 足病医学の大目標は患者自身の歩行,さらには生活を守ることに尽きます。足病診療に携わる個々の診療科のレベルで言えば,形成外科医はその大目標のために傷を治し,循環器内科や血管外科は血流を改善しようとします。しかし,いつの間にかこれらの治療の実施がゴールのように錯覚してしまう。もちろん治療自体は大事ですが,目標を達成するための手段に過ぎません。

菊池 患者を治して終わりではなく,その先を見据えるということですね。

寺師 ええ。外来で患者から「先生,また歩けるようになるかな?」と,よく質問されます。これに対し,「傷が治ってからね」「血流を良くしてからね」と言っている間に,「自分の足で歩く」という目標を患者が見失ってしまうかもしれません。そうならないように,足病診療にかかわる看護師や理学療法士といった多職種による視点を生かして介入をしていくべきでしょう。日本版の足病医学を確立していくためにも,医学や看護,介護,理学療法,作業療法,義肢装具,医工学などの領域が足病医学と連携してほしいと思っています()。日本フットケア・足病医学会では連携の一環として,リハビリテーション推進委員会を立ち上げ,日本理学療法士協会と日本作業療法士協会,さらには日本義肢装具士協会と連携し,足病リハビリテーションの教育・啓発をスタートさせました。

 菊池先生は多職種で連携した足病診療を推進するために何をすればよいと思いますか。

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  足病医学と他領域の連携

菊池 取るべき方策は,①現場の視点,②各部署をまとめたチーム医療の視点,③経営の視点,の3つに分けて考えられます。①についてはそれぞれの科がバラバラに診療に当たるのではなく,他科や多職種と積極的にコミュニケーションを取って診療に当たることです。そのためには,②の足病に関する外来やカンファレンスのようなチームとしての明確な枠組みを作ることが必要です。チームで同じ患者を診ながら診療方針をディスカッションする仕組みを作ることで,仲間意識や目的意識を共有でき,チーム全体が同じ方向を向けるようになります。そして,③では先ほども申し上げたように診療報酬の改定により収益性が上がったことを経営層にアピールすることで,足病のチーム診療を効率よく行う意義を伝えることが重要です。

寺師 なるほど,まさに足の専門病院の院長の視点ですね。大学病院のみで働いてきた私には思いつかない発想です。ありがとうございます。

菊池 足病診療にはさまざまな対応が求められることから,自身の専門領域にこだわらず,他科の知識も吸収しなくてはなりません。そのため日々学びが多く,多職種とかかわる機会にも恵まれます。当院は足病診療を専門に行う病院ですので,興味がある方の見学や研修などいつでもお待ちしています。当院と同じように専門的に足を診られるスペシャリストや,足病医学を学ぶ人の受け皿としての病院やクリニックが増えていくことを願っています。ぜひ一人でも多くの方に足病医学に興味を抱いてほしいですね。

寺師 形成外科医は,腫瘍切除や外傷によって例えば鼻がなくなったら鼻を再建し,唇がなくなったら唇を再建します。乳房再建や頭頸部再建も同様です。しかし,現時点ではどんな医療を施しても下肢だけは再建できず,足を失った患者はとてつもない喪失感を味わってしまいます。自力歩行は人間の尊厳に当たります。つまり,われわれ足病医はヒトとしてのアイデンティティを守る一翼を担っているとも言えるのです。これから足病医学を学び始める方には,ぜひそのことを意識していただきたいです。

(了)


1)一般社団法人 足の番人.公式Webサイト.2019.
2)「教えて,足病先生!」運営事務局.「教えて,足病先生!」公式Webサイト.2018.

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神戸大学大学院医学研究科形成外科学 教授/日本フットケア・足病医学会 理事長

1986年大分医大(当時)を卒業後,同大病院で研修。97年米ミシガン大に留学後,2001年神戸大病院形成外科助教授,07年同大大学院医学研究科形成外科学准教授を経て,12年より現職。日本フットケア学会と日本下肢救済・足病学会が合併し,日本フットケア・足病医学会が設立された19年より同学会の理事長を務める。「日本版の足病医学を学会主導で確立していきたいです」。

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下北沢病院 院長

2000年阪大医学部を卒業後,同大形成外科学教室に入局。慢性創傷にかかわっていたものの,10年に神戸大で開催された第2回日本創傷外科学会総会・学術集会において,米国の形成外科医と足病医の連携についての講演を聴講し,衝撃を受ける。講演の演者が所属する米ジョージタウン大への留学(12年~)を契機に,本格的に足病医学を学び始める。13年佐賀大病院形成外科を経て,16年より日本初の足と糖尿病の専門病院である下北沢病院の病院長を務める。「足病医学の知見を当院から発信していきたいと思います」。