Sweet Memories
寄稿 任 和子,内藤 知佐子,宮下 光令,藤野 泰平,河西 あかね,田中 いずみ,長坂 桂子
2022.06.27 週刊医学界新聞(看護号):第3475号より

誰しも初めは1年生,一歩一歩前に進もう
4月に入職したばかりの新人ナースにとって5~6月頃は不安の高まる時期です。「自分は何もできない」「先輩みたいに,自分もテキパキ仕事ができるようになるのだろうか」と思い悩む新人も少なくないのではないのでしょうか。ですが,それは誰もが最初に通る道。現在第一線で活躍している先輩方も,新人時代は同じ悩みを抱えていました。
本特集では,そんな先輩ナースから,今だから笑って話せる「新人時代の失敗談」を紹介していただきました。あまたの苦労を乗り越えてきた先輩からの熱いエールを,ぜひ受け取ってください。
こんなことを聞いてみました
①新人ナース時代の「今だから笑って話せるトホホ体験・失敗談」
②忘れ得ぬ出会い
③あの頃にタイムスリップ!思い出の曲とその理由
④新人ナースへのメッセージ

任 和子
京都大学大学院医学研究科
人間健康科学系専攻
先端中核看護科学講座 教授
かばってくれた先輩の個性的な声のトーン
①新人ナース時代の「今だから笑って話せるトホホ体験・失敗談」:看護師として初めて勤務したのは京大病院であり,第2外科・心臓血管外科病棟に配属となりました。まだICUもない時代,手術後は全ての患者が直接病棟に戻っていました。当科では多様な疾患,術式,術後ケアがある上に,レスピレーターは常時数台稼働し,新生児から高齢者まで幅広い年代の患者をケアしていました。60床を超えるベッド数では患者の状態を継続して把握することが難しいため,配属されてほどなくして2ステーション(1ステーション30~40床)体制となりました。この体制を構築できたのは当科が建築10年ほどの新病棟にあり,1フロア2ステーションとなるように建物自体が設計されていたからでした。その結果,看護師は数か月ごとにローテーションすることになり,患者の状態把握がしやすくなりました。
この病棟には5年勤務し,よく働き,よく学び,よく遊びました。最近,他施設の会議等で偶然にも昔一緒に働いていた研修医に会うことが続き,瞬時に時空を超えてあの頃に戻りました。全てが人生の糧となっています。
失敗談はあまりにありすぎて書ききれませんが,1つご紹介しましょう。忙しい準夜勤務の終盤,24時頃の出来事です。狭心症で冠動脈バイパス術を控えた50歳代前半の男性Aさんは,6時間ごとに血管拡張薬などを内服していました。しかし,私は他の方のケアをしており,24時に内服していただく薬を持っていくのが5分ほど遅れてしまったのです。ほどなくしてステーション付近から「俺を殺す気か!」と,Aさんの怒鳴り声が聞こえました。慌ててステーションに戻ると,ものすごい形相のAさんが仁王立ち。その時,先輩の看護師Bさんが「Aさん,悪かったのはその通りなんだけど,そんなにきつく言うと新人が萎縮するからさぁ,ね」とAさんを諭してくださったのです。沖縄出身のBさんの声のトーンはとても心地よく,ペースダウンできるような声でした。Aさんは納得されたわけではないですが,怒りが少し静まるのと同時に心拍が落ちていったように感じました。そしてぐっと私をにらんで私の手から内服薬を取り,部屋に戻っていきました。
Bさんは普段とても厳しく,私は失敗を指摘されるばかりで実は少し苦手意識を持っていましたが,その夜は感謝の気持ちでいっぱいで,自分もこんな先輩になりたいと思いました。言葉自体は関西弁なのですが,いわゆる“関西弁”ではない個性的な話し方とトーンを今でもよく覚えています。
②忘れ得ぬ出会い:勤務していたのは外科病棟でしたが,長期入院や手術目的以外で入退院を繰り返す方もいました。思い出すのはクローン病で1年以上入院していた20歳代のCくん(みんなが名字でCくんと呼んでいました)と,化学療法のため定期的に入院していた同室の50歳代のDさんです。二人は兄弟か親子のように仲良しでした。そして,私とは患者と看護師というよりも,兄妹か父娘のような関係でした。私がステーションで先輩に指導されているのを見ると廊下から大きく手を振って私を病室に呼び,「ここでちょっと休んだらいい」とかばってくれたり,瘻孔にタンポンガーゼを入れるための手技を細かく教えてくれたりしました。
その後,先輩看護師がご家族の支援を含め手厚く看護実践され,二人とも病棟で看取りました。私はお二人から見ればおそらく最期まで,看護師ではなかったでしょう。そのような関係は看護師人生で二度とありません。
③あの頃にタイムスリップ!思い出の曲とその理由:一時期ですが,ロッド・スチュアートの『Hot Legs』をよく聴きました。少し業務に慣れた頃,深夜勤務で起きるのがともかくつらかったのですが,この曲で勢いをつけて,顔を洗って歯磨きをして,曲が終わる頃には出勤準備が完了していました。
④新人ナースへのメッセージ:知識や技術が未熟で経験がなくても,患者さんやご家族の力になれたり,勇気付けることができたりします。その過程で看護師としての力も付くでしょう。そのために,仮説を持って仕事に臨み検証するというプロセスを地道に繰り返しましょう。

内藤 知佐子
愛媛大学医学部附属病院
総合臨床研修センター
助教
先輩からのため息に無意識の舌打ち
①新人ナース時代の「今だから笑って話せるトホホ体験・失敗談」:看護師になって初めての配属先は,呼吸器内科と血液内科の混合病棟でした。初めての大卒新人,しかも1人だけの配属,先輩らの視線は私に「全集中の呼吸」です。しかし,ほぼ何も習得せずに卒業してしまった私は,プリセプターに何を聞かれても「やったことありません」と返答。当然のごとく,プリセプターからは「はぁ……」という深いため息が。ここで落ち込めば新人らしいのに,なんと私は「チッ」と舌打ち……(汗)。後にわかったことですが,私には無意識に舌打ちをする癖があったのです。指摘されても半信半疑でしたが,気にし始めると,まぁすごい舌打ちの数。挙げ句の果てには,師長さんにまで舌打ちをする始末。もう,どんだけ~です(笑)。
そんな態度だけは立派な私。何をするにも時間がかかり,深夜勤が始まる22時過ぎまで病棟に残って仕事をする日もありました。当然,帰宅が遅くなるため勉強は手に付かず,業務を覚えるので精いっぱいの毎日。そんなある日,6床部屋の肺がん女性患者さんから息苦しさの訴えがありました。継続指示に従い酸素投与を開始すると次第に息苦しさは軽減し,患者さんからは「楽になった,ありがとう」の言葉が。すると,同室にいた他の患者さんが「私も,何か苦しい。それ(酸素)もらおうかしら」と。酸素飽和度を計測すると,95%! すぐに酸素流量計をセットし,経鼻カヌラで酸素投与を開始しました。「大丈夫,さっきやったばかりだから」と,妙な自信に溢れていました。酸素投与を開始して間もなく,外来を終えたオーベンが病室に入っていくのが見えました。「ちょうどよかった」と思ったのも束の間,普段は温厚なオーベンが片手に流量計と経鼻カヌラを握りしめ,仁王像のような顔で部屋から出てきたのです。そう,私はCOPDの患者さんに勝手に酸素投与してしまったのです……。幸い,大事には至りませんでしたが,大失態でした。
②忘れ得ぬ出会い:大切なことは,いつも患者さんやご家族に教えていただきました。今でも走馬灯のように思い浮かびます。人工呼吸器につながれるつらさ,吸引には上手い下手があること,痛くないテープのがし方。頂戴したお手紙や多くの言葉が,全て私の糧となっています。
また,指導してくださった先輩方との出会いは,一生忘れることがないでしょう。そして,プリセプターをはじめ諸先輩方,副師長さんや天国の師長さんにも感謝をしています。出来の悪い私を見捨てず,粘り強くかかわっていただき本当にありがとうございました。「内藤ちゃん,愛が足りないね~」と,ケアの雑さを明るく指摘してくださったこと,厳しく言わなくても伝わることを体感した最初の経験でした。
加えて,同じ大学から入職したRちゃん,Fちゃん。配属先はバラバラだったけれど,院内に同じ境遇の仲間がいるというだけで心強かったです。たくさん話を聴いてくれて,今でもつながっていてくれてありがとう。
④新人ナースへのメッセージ:「すべての出来事は,あなたへのギフトである」(アンソニー・ロビンズ名言集より)。つらい時には,誰かに聴いてもらいましょう。聴いてくれる人がいなければ,日記を書きましょう。つらい体験の中に教訓が見えてきます。それが,あなたへのギフトです。皆さんは大切な看護の仲間。応援しています。

宮下 光令
東北大学大学院医学系
研究科保健学専攻
緩和ケア看護学分野 教授
患者さんに嫌われた経験
①新人ナース時代の「今だから笑って話せるトホホ体験・失敗談」:看護師として病棟に出て2か月くらいの時だったと思う。Kさんという喉頭がんの男性患者さんを受け持った。Kさんは既に喉頭全摘術により失声しており,人工喉頭と筆談でやり取りをしていた。Kさんが頸部リンパ節転移の郭清術を受けることになり,術前の剃毛をすることになった(当時はこれが普通であった)。剃毛範囲は今でいうツーブロックの刈り上げ部分に当たる耳の周りである。
事前にきちんと説明したつもりであったのだが,バリカンで剃毛を始めると,「何をするんだ!」という感じで,ものすごい勢いで怒られた。私の説明が不十分だったのか,手技が悪かったのか,今でもわからない。その時は先輩看護師が間を取り持ってくれて,なんとか剃毛を終え,手術も無事終了した。
困ったのがその後である。Kさんを担当することが少なくなかったのだが,血圧を測ろうとしても,そっぽを向いて手をぐっと差し出すだけで,目も合わせてもらえない。Kさんが朝方散歩がてらナースステーションに来て「今日の受け持ちは誰だ?」と言い,「私です」と伝えると,手のひらを肩の上あたりに上げて「Why?」のようなポーズを取る。「今日は外れだ」という意味だろう。Kさんを受け持ちの日の出勤は少し憂鬱であった。
今なら「まあ仕方ない」と考えるのかもしれないが,当時はまだ若く,何かチャンスを見つけて信頼を回復できないものかと考えていた。たまたま訪室時に困りごとなどを問いかけると,「背中が凝って痛い」と話された。これはチャンスと思い,マッサージをしてみた。やってみると,どうもかなり強い指圧が好みであることがわかった。その後,訪室ごとに指圧をしていたのだが,表情も緩み,ある程度の信頼を得られたようだった。ある時,先輩が「宮下君を呼んでくれ」という紙を持って「ご指名よ」と言ってくれた時はうれしかった。男性看護師は少なかったので,おそらく力の入れ具合だけを評価されて呼ばれたのだと思う。
ある日の朝の申し送りで,主治医が「腫瘍が頸動脈を巻いているので,そろそろかもしれない」と話していた。その日の午前は担当ではなかった気がするが,「ちょっと押しておくか」と思って訪室した。Kさんが頸動脈の大出血を起こしたのはその日の昼休憩の時間帯だった。意識は戻らず数日後に亡くなられた。
②忘れ得ぬ出会い:私は臨床が短いので特別な人というのはあまりいないが,強いて挙げるとすれば自分を指導してくれた先輩方だろう。とにかく何もできず失敗ばかりだったので,かかわってくださった皆さまには感謝しかない。失敗も何もかも全てフォロー・指導してもらった。そのような経験がなかったら,看護界に長くいることにはならなかったと思う。
④新人ナースへのメッセージ:マッサージや手浴,足浴,洗髪といった「からだに触れる」ケアは大事だし,時に武器になるだろう。現在の現場は医療安全対策や看護記録作成など業務が多岐にわたり,昔のようなのどかな雰囲気ではないかもしれない。しかし,アセスメントから治療・ケアまで「からだに触れる」という基本的な看護行為を大切にしていってほしい。

藤野 泰平
株式会社デザインケア
みんなのかかりつけ訪問看護
ステーション 代表取締役社長
愛に気付くことで厳しい指導も超えていける
①新人ナース時代の「今だから笑って話せるトホホ体験・失敗談」:新人時代,救命センターのICUに配属になりました。1分1秒を争う部署であったため,緊張感のある職場でした。人工呼吸器・IABPを装着中の方や,脳から多臓器にわたるまでの疾患がある方などを支えるために日々必死でした。先輩方は体育会系の方が多く,厳しく育てていただいた記憶があります。ベッドサイドでいろいろなモニターを見ながらアセスメントをしていると,先輩が私の横に来て,「この二酸化炭素濃度と脳圧の関係は?」など,よく質問されていました。答えが違うと怒られるので,いつも緊張感がありました。1年目の時は怒られすぎてできない自分が嫌になり,病院にあった教会の前で勤務後に泣いたこともしばしばでした。
ただ,当時のアシスタントマネージャーにご飯に連れて行ってもらえることがあり,愛がある指導をいただいていたのだなと実感できてからは,厳しい指導であっても乗り越えることができました。先輩方には今でも感謝しています。
②忘れ得ぬ出会い:いろいろな方がいましたが,思い出に残っているのは夜勤日の朝方,暴れて病棟から逃げ出したある患者さんです。面食らってしまいおろおろしていたら,先輩に「追いかけるよ!」と言われ外まで追いかけました。ペットボトルを投げつけられながらも,「危ないから戻ってください,命にかかわります」と声を掛けながら走り,やっとの思いで追いついて病棟に帰っていただきました。こんなことも実際にあるのだなと,仕事の幅の広さを感じました。
③あの頃にタイムスリップ!思い出の曲とその理由:毎日の出勤時に聞いていた,BENNIE Kの『Sky』という曲に背中を押してもらいました。看護師になった自分の信念を変えないこと,自分に負けないこと,前を向いて頑張り続けることができたのは,この曲のおかげです。
④新人ナースへのメッセージ:看護師になってやりたいと思っていたことと現実のギャップに苦しむ方もいるかもしれません。できない自分よりも先輩が患者さんを看たほうが,患者さんのためになるのではないかと,自分の存在意義が感じられない方もいると思います。そう思って私もつらい思いをしていました。ただ,つらい時期を越えて少し年を取った今だからこそ言えることは,あなたがそこにいる意味は絶対にあります。先輩...
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