IgG4関連疾患分類国際基準の策定と診断の進め方
寄稿 神澤 輝実
2022.06.20 週刊医学界新聞(通常号):第3474号より
IgG4関連疾患は,自己免疫性膵炎患者における臨床病理学的研究から,IgG4が関与する全身性疾患として筆者らにより2003年に提唱された1)。その後,ミクリッツ病などの膵胆管以外の臓器病変も本疾患であることがわかり,国内外で広く注目されている。リンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化により,同時性あるいは異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認め,それらによる閉塞・圧迫により種々の臨床症状が生じる。診断は,臓器の腫大や肥厚などの画像所見,高IgG4血症,病理組織学的所見,ステロイドへの反応性などの組み合わせで行われる。また,各臓器の悪性腫瘍(癌や悪性リンパ腫など)や類似疾患との鑑別が重要である。
なお,従来は罹患臓器の特性を考慮して臓器別の診断基準が作成されていたものの,病理検査をするのが困難な臓器ではIgG4関連疾患との鑑別が難しい症例が存在したことから,各国においてIgG4関連疾患と診断される例に差異が生じるようになってきた。そこで,2019年に米Harvard大学のStone教授が中心となって国際的に統一されたIgG4関連疾患の分類基準が作成され,米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会の両学会から承認された。
◆3ステップを経る国際基準の診断プロセス
本基準では,診断に至る最初のステップとしてエントリー基準を設けている(図)。エントリー基準では,出現頻度の高い10個の臓器病変(膵臓,唾液腺,胆管,眼窩,腎臓,肺,動脈,後腹膜,肥厚性硬膜炎,甲状腺)の臨床像と画像所見,また原因不明のリンパ球と形質細胞浸潤を伴う炎症の病理組織学的所見が取り上げられている。このような所見を満たす場合にはIgG4関連疾患を疑い,次の除外基準に進む。
除外基準では臨床像,血清学的所見,画像所見,病理所見,既知の疾患(多中心性Castleman病,潰瘍性大腸炎,クローン病,橋本病)の5項目が取り上げられており,これらの所見が確認されれば本疾患を否定する。除外基準を認めない場合,最後のステップである包括基準に進む。
包括基準では,本疾患を示唆する8項目(病理組織学的所見,IgG4ないしIgG免疫染色所見,血清IgG4値,両側涙腺・耳下腺・顎下腺・舌下腺所見,胸部所見,膵胆道所見,腎臓所見,後腹膜所見)が取り上げられ,スコア化されている。例えば,血清IgG4値が正常上限から正常の2倍までなら4点,2~5倍までなら6点,5倍を超える値なら11点のスコアになる。8項目のスコアの合計が20点以上の場合にIgG4関連疾患と診断する。
本基準は感度・特異度ともに優れており,世界中の症例に対して共通した基準での診断が可能なことから,今後の症例の解析等において有用である。本基準の詳細についてはWallaceらによる報告2)を参照されたい。
参考文献・URL
1)J Gastroenterol. 2003[PMID:14614606]
2)Arthritis Rheumatol. 2020[PMID:31793250]
神澤 輝実(かみさわ・てるみ)氏 がん・感染症センター都立駒込病院 院長
1982年弘前大医学部卒。86年東京都立駒込病院消化器内科医員,2008年同院内科部長,15年同院副院長を経て,19年4月より現職。東京女子医大,日大医学部の非常勤講師を長年務める。専門は膵臓・胆道疾患の診断と治療。膵臓・胆道疾患の臨床研究に携わり,350編以上の英語論文を執筆。IgG4関連疾患の提唱者。
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