医学界新聞


臨床の楽しさを医学生,研修医に実感してもらうために

寄稿 熊木 天児

2022.06.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3473号より

 愛媛大学医学部附属病院総合臨床研修センター(以下,当センター)は2004年の新医師臨床研修制度導入に合わせ,恩地森一先生(初代センター長/消化器・内分泌・代謝内科教授)のもと,髙田清式先生(当時副センター長/2代目センター長/教授)が旗振り役となり設立された。最も重要な役割は,臨床研修医育成のための「アイプログラム」の運営であるが,総合医学教育センターや教務委員会とも連携した卒前・卒後のシームレスな教育を実現させているほか,専門研修委員会とも連携して生涯教育へつなぐ役割も担っている。また,看護師の特定行為研修など多職種医療人育成の拡充も図る。

 2022年度からは第4期中期目標(文部科学省指定国立大学法人制度)において,「各部署と連携し,医療技術の習得や医療安全推進のためのシミュレーション教育を担当する人材を養成することにより,質の高い医療人を育成」することを掲げ,新たに2人のシミュレーション教育専門家を採用して6年間の事業を開始した。

◆充実したシミュレーション専用ルーム

 当センターの3階は,全フロア(延べ床面積775 m2)がシミュレーション専用ルームとなっており,充実した教育施設が完備されている。これは,髙田先生による2011年の功績である。筆者が3代目センター長を拝命した2020年4月は,COVID-19が拡大した時期であり,愛媛大学でも5,6年生の臨床実習が2か月間中止となっていた。そこで,強みであるシミュレーション教育を生かしたユニークな取り組みを実施してきたので紹介する。

◆「早期医療体験実習」「スーパードクター養成コース」でモチベーション向上!

 例年,医学科 1 年生を対象に,医療現場に触れる「早期医療体験実習」を 3 日間実施していたが,コロナ禍による影響を受け,心音・呼吸音聴取,血圧測定などの診察手技を習得するシミュレータ実習に切り替えた。指導医には実習内容の臨床的意義について触れるようにお願いしている。実習は数時間だけだったが,学生時代の過ごし方などの助言も得られ,学生からは大きな反響があった。

 医学科 2 年生では,解剖実習で学ぶ知識に直結する医療行為の体験を通して,暗記になりがちな解剖の知識に臨床的な重み付けをし,知識の定着や学習意欲の向上につなげることを目的に,「スーパードクター養成コース」を実施している。武内章英先生(生体構造医学教授)の提案による本コースは,採血,気管挿管,BLS(一次救命処置)や腹部エコーなどを行うシミュレータ実習である。人体の構造を意識した解説により,解剖実習の際に注目して観察すべき点が具体化され,能動的な解剖実習につながっている。

 いずれも,没交渉に陥りがちなコロナ禍の学生生活において,医学生であることを実感できる良い機会となり,モチベーション向上に寄与しているようだ。今後は医学科3年生や4年生を対象に,さらに発展したプログラムを提案していきたい。

◆「シミュリンピック週間」で文部科学省事業も楽しく!

 愛媛大学は文部科学省が実施する感染症医療人材養成事業に採択され,本年3月にシミュレータとオリンピックを掛け合わせた「シミュリンピック週間」で医学科5年生が感染対策の重要性を学んだ。5日間にわたる本プログラムでは,初日の感染予防を学ぶVR実習に続き,2~4日目のシミュレータ実習で手洗い・手指消毒,ガウンテクニック,鼻腔咽頭ぬぐい,胸部聴診,ルート確保,導尿および気管挿管の手技を習得した。本実習には指導者として看護師も派遣していただいた。最終日には「シミュリンピック大会」を開催し,トーナメント方式で手技を競った(写真1)。COVID-19重症患者・甘泉大作(かんせんたいさく)氏が搬送されて来たシナリオのもと,臨床実習では踏み込むことのできなかった診療の現場を擬似体験。多くの見学者が集まり,NHK松山放送局の特別番組として取り上げていただいた。

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写真1 シミュリンピック大会で,気管挿管後に胸部聴診の確認を行う様子

◆「ハンズオンセミナー」「キャダバートレーニング」で手技をレベルアップ!

 当院では,コロナ禍前と変わらず臨床研修が充実するようハンズオンセミナーや個人指導を頻回に行い,研修期間中の幅広い学びを保証している。研修医対象のハンズオンセミナーでは,各種エコー(心臓,経食道,腹部,乳腺),FAST(外傷初期診療における迅速簡易超音波検査法),CVC(中心静脈カテーテル),PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル),腰椎穿刺,腹腔鏡操作,アンギオグラフィ操作などを学べる他,今年は新たにシーネ固定のセミナーを実施した(写真2)。研修医からのニーズが高く,第2回目を実施予定である。さらに,愛媛大学が全国に先駆けて取り組んだ,ご遺体を用いたキャダバートレーニングにも力を注いでいる。

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写真2 ハンズオンセミナーでのシーネ固定教授

 これらの取り組みの結果,市中病院と比べて遜色ないスピードでの手技習得を実現できただけでなく,医療安全に対する認識も高まっている。研修医からも,「大学病院で手技は習得できないといううわさはフェイクだった」との声が多く寄せられている。その他,当センターでは全国でも珍しい“接遇についても問う”研修医OSCEを開催してきたが,コロナ禍の影響により2年連続で中止となっている。今年はぜひとも開催したい。

◆「研修医による研修医のための勉強会(KKB)」で横断的に経験を共有!

 筆者はセンター長就任の際に,研修医による横断的勉強会の導入をマニフェストに掲げた。一般的に,大学病院での研修は,各診療科の専門医による濃厚な指導を受けられるものの,研修医同士が横断的に何かを体験する機会は少ない。そこで,2年前に臨床研修ガイドラインが改定され一般外来が必須研修となったのを機に,臨床推論を軸とした「研修医による研修医のための勉強会(KKB)」を導入し,筆者が司会進行役を務めている。各自が経験し,シェアしたい症例を研修医自身が選び,冒頭は「50歳代男性,胸痛」とのシンプルな情報から発表が始まる。研修医が経験する症例の多くは診断後の入院患者であるが,患者にはそれまでの物語がある旨を研修医には強調しており,診断に至る過程が提示されることもある。思考と行動の再構成を図り,上級医から即時フィードバックを得られることで,効果的なメンタルシミュレーションの場にもなっている。なお,2021年度はKKBより2編の症例報告が英文誌(Internal Medicine誌,Cureus誌)に掲載された。

 当センターの役割と取り組みについて,シミュレーション教育を中心に紹介した。私は消化器専門診療にとどまらず,「ゼッケン医師」 をめざして研鑽を積む機会に恵まれた。ただし,1人の医師として行う社会貢献は診療のみでは限界があることから,臨床研究に着手した。さらには,カナダ・トロント大学では診療従事に加え,臨床研究の醍醐味に魅せられ,診断基準やガイドラインにかかわる貴重な経験ができた。また,カナダと日本の医学教育の違いも目の当たりにし,卒後7年目に気付いていた「教育によるボトムアップでこそ,出会うことのない人々に間接的に役立てる潜在能力を育む」ことを,いつかは実践したいと考えていた。帰国後,くしくも教育にかかわる機会の多い地域医療学講座に配属となり,その思いが強固になった。これからも多くのスタッフと共に,大学教員に与えられた教育という特権を生かし,海外での専門診療,アカデミアから地域医療,プライマリケアまで幅広い分野での経験を,1人でも多くの医学生・研修医・若手医師に伝えながら熱く指導し,共に楽しく学んでいきたい。

 最後に,当院臨床研修プログラムについてのアピールを。市中病院とのたすき掛けなど多彩な選択肢のある「アイプログラム」では,教育熱心な各診療科専門医による指導はもちろんのこと,それぞれのニーズに合わせた幅広い学びが約束されている。当センターはこれからも進化し続け,愛媛大学全体として,卒前から生涯をつなぐ医学教育のメッカをめざしていく。

本稿で紹介した取り組みの様子は下記Webサイトよりご覧いただけます。

●シミュリンピック(動画)
https://youtu.be/A8clRgL56uA

●総合臨床研修センター
https://www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/kenshu/


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愛媛大学医学部附属病院総合臨床研修センター長/教授

1995年愛媛大医学部卒。2006年にカナダ・オンタリオ州医師免許を取得,トロント大消化器内科(肝疾患センター)で約4年間診療に従事。13年愛媛大准教授などを経て,21年より現職。11年国際膵臓研究フォーラム最優秀演題賞,12年日本膵臓病研究財団膵臓病研究奨励賞,21年愛媛医学会賞,愛媛大学医学部医学科Best Teacher賞(計8回)を受賞。

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