医学界新聞

インタビュー 仲島 大輔

2022.06.06 週刊医学界新聞(通常号):第3472号より

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 風邪や喘息などの内科的治療が中心となる小児科診療においては,心の支援を行う体制は十分ではない。また,小児医療から成人医療への移行期において,支援が途絶えてしまうという課題もある。子どもに心の支援を継続して届けるために,小児科医をはじめとする医療従事者ができることは何か。移行期医療に関する情報発信や医療的なケアの必要な子どもに対する訪問看護の導入,フリースクールの運営など,多角的な視点から子どもの心身に対する支援を精力的に続ける仲島氏に取り組みの実際や背景を聞いた。

――子どもの心の支援の中でも,特に場面緘黙や不安が強い子どもへの支援に積極的に取り組んでいると伺っています。具体的な工夫を教えてください。

仲島 例えば,チャットアプリを利用した診療ですね。同じ診察室にいながら,診療上のやりとりをチャットで行います。すると,やり取りするうちに緊張がほぐれ,直接話してくれるようになる子も多くいます。

 またコロナ禍の影響で,感染への恐怖をはじめとするストレスの増加により,不安や対人緊張が顕著になる子どもが増えた印象です。そこで開設したのがドライブスルー外来です(写真1)。患者さんには駐車場の一角にあるドライブスルー外来用の別館に車をつけてもらい,医師は窓越しに診察を行います。もともと,車から外に出られない子が来院した時には医師が駐車場に出向いていたので,その方法が応用できるのではと考え導入に至りました。コロナ禍の発熱外来での感染対策としても,不安や緊張から病院に入れない子への支援としても,有効だと考えています。

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写真1 ドライブスルー外来の様子
医師は駐車場に併設された別館に待機する。患者の親は別館に車をつけ,医師は窓越しに診察を行う。

――そもそも家から出られず,医療的なケアが必要でもなかなか受診ができない子どももいると思います。どのような支援を行っていますか。

仲島 Ui訪問看護ステーション西真岡という訪問看護ステーションを立ち上げました。ドライブスルー外来などを含む受診時に訪問の許可をもらい,保健師や訪問看護師,作業療法士などが患者の自宅に伺います。

 実際に家庭環境を見ることで,子どもよりも親への支援が必要だと感じることも多くあります。子どもの支援に当たっては,子どもへの影響が大きい両親への支援も重要になるのです。

――両親への支援には何が有効でしょう。

仲島 ケースに応じて服薬指導から家庭環境を整える場合までさまざまです。例えば,「薬を飲んでいるのに効かない」と親が言っていても,実際には親が薬の管理をできておらず,子どもが服薬していないケース。このケースでは,訪問看護を通して服薬指導や登校の手伝いを行うことで親の負担を解消しました。すると親が薬の管理をできるようになり,子どもの症状も少しずつ改善します。

 子どもには,家庭や学校など取り巻く環境が大きく影響します。小児科医には問題の所在を見極めて対応することが求められるのです。

――学校での問題といえば,不登校が思い浮かびます。

仲島 そうした子どもの居場所づくりとして,フリースクールである西真岡ドリームスクールの運営を始めました(写真2)。活動内容は子どもの状況によって変えています。例えば,不登校の子で昼夜逆転していれば,朝にドリームスクールに来てもらうことで生活習慣を整えていく。集団内での行動やコミュニケーションが苦手で学校に行けないけど受験勉強を頑張りたいという子には個別で勉強を教える,といった具合です。現在はドリームスクールの活動に賛同してくれた学校の教員4人と,当院の医療スタッフとが連携しながら支援に当たっています。ドリームスクールの活動を認めて,登校扱いにしてくれている学校もあるのですよ。

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写真2 西真岡ドリームスクールの様子
クリニックの休憩室を利用して開設。本や卓球台などを持ち込み設備を整え,子どもたちが過ごしやすい空間作りを心掛けている。

――クリニック開設当初から幅広く子どもの心の支援に取り組むことをめざしていたのでしょうか 。

仲島 クリニックで小児科診療を続ける中で生じる課題に対応するうちに,必要に迫られて次第に活動の幅が広くなっていったのです。初めは風邪や喘息など,一般的な小児科診療だけを行っていました。その中で,受診していた赤ちゃんや子どもが成長するにつれ,言葉の遅れが出たり他施設で発達障害と診断されたりするケースが出てきたのです。そこで,受診した子どもたちや彼らを取り巻く環境を一番よく知っているのは私たちだと思い,心の支援にも取り組み始めました。

――先生は,小児医療から成人医療への移行に関する支援や問題提起も積極的に行われています。移行期医療においては何が課題になるのでしょう。

仲島 小児医療から成人医療に移行する際に,医療的支援が途絶えてしまう現状があります。現在の日本の小児科では,16歳以降の診療を受け付けない施設が大学病院や総合病院を中心に多くあります。そうすると,成人向けの精神科や内科に行くことになる。初めての場所で医師や院内の雰囲気も変わり,子と親の双方が戸惑うのです。加えて自治体によっては16歳以降に自己負担が増え,金銭的な負担が大きくなることも受診をためらう一因でしょう。これらの要因が重なることで,結局通院を止めてしまうケースが多発しています。移行期医療の充実はこの問題を解決するために重要であり,どのように子どもを成人医療に移行させていくかを,子どもを送る側の小児科医も真剣に考える必要があります。

――何か対応策を取られているのでしょうか?

仲島 当院の患者を引き継ぐため,信頼できる医師とともに成人の内科や精神科を診療する関連病院を立ち上げました。私は心療内科の専門ではないので,密に連携できる先生たちに治療を引き継ぎたいという思いがあったのです。施設の連携で得られたものは多く,仲間とのコミュニケーションの中で,自分が考えていた小児科からの移行の問題だけでなく,成人医療の問題点も見えてきたり,気付けなかった課題を発見したりすることもできました。

――移行期を含む子どもに継続して支援を行うために,医療者皆が意識すべきことはありますか。

仲島 クリニックごとの事情もあり,実践できる支援には差があるでしょう。しかし共通して意識すべきは,自分だけで取り組まず,周囲を巻き込むことです。自分だけで支援を続けようとする場合,いつか必ず限界が来ます。また,実務的な対応で手一杯になってしまい,不安から受診する患者さんの相談に十分に向き合うことができなくなっては本末転倒です。初めは大変ですが,スタッフも含めた全員で情報共有を行いレベルアップを重ね,施設一丸となって診療に当たる。そして他施設の医師をはじめとする,地域をも巻き込み,協力していくことが必要です。

仲島 私自身も,移行期医療に関する取り組みは自施設内での活動にとどまっており,クリニックが位置する真岡市内の他施設や行政との連携がまだ不十分だと感じています。医療も社会の一部です。子どもの心の支援は,病院や診療所,学校,行政の垣根を越えて社会全体で取り組めれば理想的ですね。

(了)


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西真岡こどもクリニック理事長

1998年獨協医大卒。同大小児科医局長,大田原赤十字病務小児科部長,加マギル大神経学研究所留学,那須赤十字病院小児科部長などを経て,2011年西真岡こどもクリニックを開設し,現職。18年にみやの杜クリニック,西真岡アクセプト・インターナショナルクリニックなど関連病院を開院。連携を図りながら,小児医療と成人医療との溝を埋めるために尽力する。

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