アトピー性皮膚炎診療の進歩
改訂ガイドラインに基づく新規治療薬の使い分け
寄稿 松田 光弘
2022.05.09 週刊医学界新聞(通常号):第3468号より
アトピー性皮膚炎の治療は,長らくステロイド外用を中心とする外用療法が主体であった。その中で,2018年に約10年ぶりの新薬として生物学的製剤(以下,抗体製剤)のデュピルマブが登場。2020年には経口JAK阻害薬がアトピー性皮膚炎に適応拡大され,外用薬で約20年ぶりの新薬となるデルゴシチニブも発売された。さらに新たな機序の薬剤も今後登場予定である。
●全身療法
2018年:デュピルマブ(抗体製剤)
2020年:バリシチニブ(経口JAK阻害薬)
2021年:ウパダシチニブ,アブロシチニブ(経口JAK阻害薬)
今後発売予定:ネモリズマブ(抗体製剤)
●外用療法
2020年:デルゴシチニブ(外用JAK阻害薬)
今後発売予定:ジファミラスト(外用PDE4阻害薬)
以上のように新薬が続々と承認され,近年アトピー性皮膚炎の診療は大きく進歩している。2021年12月には『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン』(以下,改訂ガイドライン)が約3年ぶりに改訂され1),新しい治療薬の記載が加えられた。本稿では新規薬剤の特徴と,それらをどう使い分けて実際の診療に当たるべきかを解説する。
新規治療薬の作用機序と特徴
近年の研究で,アトピー性皮膚炎の病態にはIL-4,IL-13,IL-31などの2型サイトカイン(Th2サイトカイン)が関与していることが明らかになった2)。新規薬剤の主な治療標的は,この2型サイトカインのシグナル伝達経路である。サイトカインを個別に阻害する抗体製剤や,サイトカイン受容体の下流にあるJAK-STAT経路を阻害するJAK阻害薬は,過剰な免疫反応を抑制してアトピー性皮膚炎の症状を改善する。以下,薬剤の種別に特徴を解説する。
◆抗体製剤(デュピルマブ)
デュピルマブはIL-4受容体αに結合して2型サイトカイン(IL-4とIL-13)のシグナル伝達を阻害する抗体製剤である。外用治療の効果が不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対して適応があり,2週間隔で皮下注射を行う(自己注射も可能)。従来の免疫抑制薬に比べて限定的な免疫抑制が可能で,重大な副作用が少なく安全性が高い。
◆経口JAK阻害薬(バリシチニブ,ウパダシチニブ,アブロシチニブ)
JAKはJAK1,JAK2,JAK3,TYK2からなるファミリーを形成し,サイトカイン受容体の下流でシグナル伝達経路を制御している。経口JAK阻害薬はサイトカインのシグナル伝達を幅広く阻害し,関節リウマチなどの治療に効力を発揮してきた薬剤である。
バリシチニブはJAK1とJAK2,ウパダシチニブ,アブロシチニブはJAK1と,それぞれの薬剤で強く阻害するJAKが異なる。外用治療の効果が不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対して適応があり,1日1回経口投与を行う。
また理論上,JAK阻害作用により易感染性を生じる可能性があるため,投与開始前に結核やB型肝炎などのスクリーニング検査が義務付けられている。
◆外用JAK阻害薬(デルゴシチニブ)
デルゴシチニブは日本で開発された世界初の外用JAK阻害薬であり,JAK1,JAK2,JAK3,TYK2の全てを阻害する。軽症~中等症のアトピー性皮膚炎に対して...
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松田 光弘 (まつだ・みつひろ)氏 皮膚科専門医,アレルギー専門医
2007年久留米大卒。同大病院にて初期研修後,同大医学部皮膚科学教室に入局。15年同大大学院医学系研究科博士課程修了。15年より公立八女総合病院や大牟田市立病院などで医長を務め,地域医療に従事。「皮膚科の豆知識ブログ」を通して専門領域に関する情報発信も行う。著書に『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(医学書院)。
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