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『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた』より

連載 渡邊 勇太,三木 貴弘

2021.07.30

術後リハビリテーションの学習に際しては,リハビリテーションの方法論はもちろんのこと,疾患の特徴や手術内容,画像の読影方法をはじめとした周辺知識も併せて学ぶことが重要視されています。このたび上梓された『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた』は,そうした術後リハビリテーションに必要な知識を包括的に学習できるよう,各専門領域の第一線で活躍中のセラピストたちが筆を執りました。 今回の医学界新聞プラスでは,本書の中から「腰部脊柱管狭窄症における術後リハビリテーション」について,時系列に沿った部位ごとのリハビリテーションの方法を3週にわたって紹介していきます。

術後のリハビリテーション

 ここでは脊椎固定術後のリハビリーションについて述べる.椎弓形成後のリハビリテーションも基本的には固定術後と変わりないが,侵襲が少ないぶん,より早期にプロトコルが進行していく傾向がある.プロトコルは手術を行った医師により異なるため,必ず確認する.

1.脊椎固定術後リハビリテーションの基本戦略

  • ●「固定椎間の不動性」を保つことが重要である.
  • ●スクリューにより構造的な固定性は担保されているが,スクリュー挿入の際に必要に応じて骨移植がなされている.
  • ●骨移植部分の癒合は最低でも8〜12週,長い場合1~2年要すことが報告されているため,その間の運動負荷は制限する必要がある1)
  • ●そのほかの合併症として,スクリューの折損やケージのバックアウトなどがあり,これらの合併症を防ぐためにも固定椎間は固定性が得られるまでの間,不動性を保つ必要がある.
  • ●したがって,術後は装具療法を併用し,体幹の過度な運動が起こらないように動作を指導する.

2.術後の全体像の1例

術後の全体像.png

手術当日

●手術当日は手術の結果をカルテや医師,看護師より情報収集する.
 □手術情報:術式の変更の有無,術中所見の確認
 □外固定の指示の確認
 □臥床期間の指示やプロトコルの確認
 □ドレーンチューブの留置期間
 □検査値の確認

3.術後リハビリテーションの実際

Day 1〜2

神経症状の評価
  • (1)目的
  • ●術前後での神経学的所見の変化および観察
  •  
  • (2)ポイント
  • ●「術前評価」で得られた理学所見をもとに,説明のつかない評価結果がないか,スクリーニング的に検査を行う.
  • ●この時期は麻酔の残存や疼痛のために正確な検査結果が得られない可能性があることも考慮する.
  •  

深部静脈血栓症の予防

  • (1)目的
  • ●深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)の予防
  •  
  • (2)ポイント
  • ●DVTとは,深部静脈に血栓が生じることであり,それが肺に遊離すると肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)を引き起こし,最悪の場合は死に至る.
  • ●LSCS術後にかかわらず,すべての手術においてDVT予防は術後早期から必須である.
  •  
  • (3)方法
  • ①持続的な下肢挙上
    • ●早期離床や早期歩行が効果的であるが,この時点では,下肢を挙上することでDVTの発症頻度を低下させることが可能である2)
    • ●20~30°ほど下肢を挙上させた状態で,足関節の背屈/底屈を行うとより効果的である.

    ②弾性ストッキングの着用
    • ●弾性ストッキングが用意されていれば,着用することでDVTの予防となる3).​​​​​​

ADL動作練習

  • (1)目的
  • ●固定椎間の不動性を保った動作指導を行うこと.
  •  
  • (2)ポイント
  • ●基本動作は本来,身体各部位の分離した動きが必要になるが,前述したとおり固定術後では腰椎への過度なストレスを避ける必要がある.
  • ●腹筋群と背筋群や外固定によって脊柱を固定し「体幹-骨盤-下肢」を一体化させた状態で行う必要がある.
  • ●体調や疼痛,身体機能・能力に応じて可及的に離床を図っていく.
  • ●この時期には,ドレーンチューブやバルーンカテーテルなどのルート類への配慮も行う必要がある.
  •  
  • (3)方法
  • ①寝返り動作
  • ●寝返り動作は頸部-胸郭-骨盤と連動して屈曲・回旋運動が生じる.
  • ●屈曲・回旋ストレスは極力回避したいため,体幹筋群の作用により胸郭-脊柱-骨盤を連結し,一体化した状態で行う方法を指導・実践する(図1).
  •  
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図1 寝返り動作
a:骨盤帯~下肢が上体についてきていないため,体幹には回旋ストレスが加わる.
b:骨盤帯と体幹を連結させて寝返りすることにより,回旋ストレスが加わるのを避けることができる.
  • ②起居動作
  • ●起居動作は屈曲・回旋・側屈動作が複合的に生じる.
  • ●体幹筋による固定がある程度できるようになってから進めるべきである.
  • ●半側臥位から上肢の力を最大限に利用して上体を起こす方法が最適である(図2).
  • ●上体を起こすと同時に,下肢をベッドから降ろすことで体幹の側屈が強制されるのを回避することができる.
  •  
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図2 起居動作

神経モビライゼーション

  • (1)目的
  • ●末梢神経の滑走性の改善/癒着の予防
  •  
  • (2)ポイント
  • ●手術により神経の圧迫や癒着を取り除いているので,早期から神経,特に末梢神経の動きを獲得するために神経モビライゼーションを行う.
  •  
  • (3)方法
  • ●Day1~2では,足関節の背屈を自動運動で数回繰り返すことで下肢の末梢神経の動きを促すことができる.
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1)水野正喜,倉石慶太,鈴木秀謙:腰椎固定術の基礎と低侵襲手技の発展.脳神外ジャーナル 26:353-361,2017
2)Hartman JT, Altner PC, Freeark RJ:The effect of limb elevation in preventing venous thrombosis. A venographic study. J Bone Joint Surg Am 52:1618-1622, 1970
3)Sachdeva A, Dalton M, Amaragiri SV, et al:Graduated compression stockings for prevention of deep vein thrombosis. Cochrane database Syst Rev 12:CD001484, 2014

こんなときどうする!?

➀術前にはなかった術後大腿前外側の痛み・感覚障害(異常)が出現してきた

仮説①:手術体位によって引き起こされた大腿外側皮神経の絞扼障害の可能性

  • ●絞扼障害(meralgia paraesthetica)とは,大腿前外側部の痛みまたは感覚異常,あるいはその両方を引き起こすことである.
  • ●原因の1つとして外側大腿皮神経の圧迫や絞扼により引き起こされることが挙げられるⅰ).脊椎手術においては,術中の体位(腹臥位)により引き起こされる可能性がある.その発生率は23.8%程度であり,改善には平均10.5日程度を要すると報告されているⅱ)
  •  
  • 外側大腿皮神経の解剖(Fig1)
  • ●腰部から分かれ,大腰筋を貫通し腸腰筋の前方,鼠径靱帯の下を通り,大腿外側を走行する神経.感覚神経であり,運動の支配領域はない.
  • ●対処法は手術高位と術前後の理学所見とを照らし合わせ,医師へ報告・相談する.絞扼障害の場合,運動麻痺を伴うことはなく,経時的に疼痛が改善されることが多い. 

 

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Fig1 外側大腿皮神経の解剖

仮説②:麻酔の残存

  • ●硬膜くも膜下麻酔や硬膜外麻酔の場合,ごくまれに下肢の神経障害が残存する可能性がある.
  • ●対処法は,麻酔医・主治医に報告し,指示を仰ぎつつ,経時的な評価を行うとよい.
  •  

文献
ⅰ) Yang SH, Wu CC, Chen PQ:Postoperative meralgia paresthetica after posterior spine surgery. incidence, risk factors, and clinical outcomes Spine(Phila Pa 1976) 30:E547-E550, 2005
ⅱ) Agarwal N, Mistry JB, Khandge PV, et al:Meralgia paresthetica after spine surgery on the Jackson table. Clin Spine Surg 31:53-57, 2018

②術後に右(左)の股関節屈曲ができない,筋力低下がある

側方経路椎体間固定術(XLIF)とは?

  • ●側方経路椎体間固定術(extreme lateral interbody fusion;XLIF)は,2013年にわが国に導入された比較的新しい手技であるⅲ)
  • ●長所:出血量が少なく,侵襲性が低下する.
  • ●短所:一側の大腰筋間を侵襲するため,その部位の一時的な筋力低下が生じる可能性がある.また,大腿部の感覚異常,股関節の可動域制限を生じる場合もあるⅳ)
  •  

XLIFの進入経路を確認しよう

 Fig2に示すように大腰筋を侵襲して椎体にたどり着くⅲ)

 

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Fig2 側方経路椎体間固定術(XLIF)の進入経路

XLIF以外の原因がないかを考える

  • ●他の同一神経支配の筋力低下や感覚異常の存在を評価する.同一神経支配の運動・感覚障害がなく,また股関節を屈曲した際の運動時痛・収縮時痛などが確認できた場合は,XLIF施行の際の大腰筋の侵襲による一時的な筋力低下が原因である可能性が高い.その場合の予後は良好であるため,経時的な評価を行いつつリハビリテーションを進めていく.
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予後

  • ●一般的に,3か月以内に完全に回復し,早ければ1週間,平均4~6週程度で回復するⅴ,ⅵ)
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文献
ⅲ)Ozgur BM, Aryan HE, Pimenta L, et al:Extreme Lateral Interbody Fusion (XLIF):a novel surgical technique for anterior lumbar interbody fusion. Spine J 6:435-443, 2006
ⅳ)Ahmadian A, Deukmedjian AR, Abel N, et al:Analysis of lumbar plexopathies and nerve injury after lateral retroperitoneal transpsoas approach:diagnostic standardization. J Neurosurg Spine 18:289-297, 2008
ⅴ)金村徳相,佐竹宏太郎,山口英敏:変性側弯・後側弯に対する側方経路腰椎椎体間固定(XLIF)を併用した手術治療の実際と成績.整・災外 57:1547-1555,2014
ⅵ)小谷俊明,赤澤努,南昌平:Lateral interbody fusion前後の下肢近位筋力定量評価.Jpn J Rehabil Med 52:S368,2015

③末梢神経のモビライゼーションの意義や方法がわからない

末梢神経の機能

  • ●側末梢神経は身体中に張り巡らされているが,身体が動くにつれ,緊張,滑走,圧迫を行い適応している(Table1ⅶ)
  • ●これらの機能に対し,過度な負担や機能不全が生じることによって末梢神経障害となる.
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Table1 神経の機能

末梢神経障害の原因

  • ●末梢神経損傷の原因は,主に過度の圧迫,過度な滑走不全,過度な牽引,により生じる.
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  • 過度な圧迫
  • ●腰部脊柱管狭窄症(LSCS)による末梢神経損傷は圧迫によるものが多い.圧迫されると神経伝達障害(末梢神経損傷1度)が生じることで,末梢神経障害が起こる(Fig3).
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Fig3 圧迫による末梢神経障害のメカニズム
a:伸展,b:屈曲.
末梢神経の圧迫→局所的な虚血→神経の循環不全(酸素,栄養の供給不全)→末梢神経障害の症状の出現に加え,炎症,浮腫,瘢痕化→さらなる圧迫,滑走不全→さらなる末梢神経損傷の症状.

過度な滑走不全

  • ●滑走不全によっても末梢神経障害の症状が出現する
  • ●滑走不全により,神経の滑走不全→神経の伸長→神経の直径の縮小(図参照)→神経内圧上昇→循環不全(酸素,栄養の供給不全)→末梢神経症状の出現となる(Fig4).
  • ●滑走不全の状態でさらに牽引ストレスが加わると,神経線維,神経内膜,神経周膜の損傷,完全損傷などさらなる損傷が起きる可能性もある.
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Fig4 滑走不全による末梢神経障害のメカニズム

過度な牽引ストレス

  • ●LSCSではほぼ生じないが,交通事故などで末梢神経の牽引ストレスが生じ,神経断裂などの末梢神経損傷が生じる.

神経モビライゼーションの効果と方法

  • ●手術により末梢神経(神経根)の圧迫や滑走不全を取り除いた状態になるが,その効果をより高めるため,また,手術の瘢痕形成を最小限にするためには,早期から神経を積極的に滑走させることが重要であり.そのために神経モビライゼーションが効果的である.
  • ●神経モビライゼーションには神経の滑走運動の改善とするスライダーと神経組織の緊張を高めるテンショナーの2つがある.LSCSの術後に対する神経モビライゼーションは,主に神経の滑走性改善を目的とするスライダーを用いる.
  •  
  • 神経モビライゼーション(スライダー)の効果
  • ●①神経滑走機能異常の改善,②神経周囲の組織液の移動,③神経組織周辺の循環の改善,が挙げられるⅷ)
  • 神経モビライゼーションの方法
  • ●難易度の低いものから紹介するⅷ)
  •  ①背臥位にて足関節の背屈⇄底屈,股関節内旋⇄外旋を自動運動で行う.
  •  ②背臥位にて下肢伸展挙上をし,そこから足関節を背屈⇄底屈する.
  •  ③背臥位にて股関節90°から膝伸展を行う.
  •  ④端座位にて膝関節をゆっくり伸展する.
  • ●すべての運動は10回程度の反復を行うとよい.
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文献
ⅶ)Dilley A, Odeyinde S, Greening J, et al:Longitudinal sliding of the median nerve in patients with non-specific arm pain. Man Ther 13:536-543, 2008
ⅷ)Shacklock M:Clinical Neurodynamics:A New System of Neuromusculoskeletal Treatment. Elsevier Health Sciences, 2005

第2回へつづく)

 

術後リハで起こるどんなイレギュラーにも慌てない!

<内容紹介>腰椎椎間板ヘルニア,変形性股関節症,橈骨遠位端骨折……本書は,整形外科領域のリハビリテーションを担当する療法士に馴染み深い代表的な疾患について,術後リハビリテーションに焦点を当てて,時系列に沿いながら多角的に解説する。
また,多くの療法士が持つ悩みを熟知した経験豊富な執筆陣により,臨床で誰もが一度は遭遇するであろう“こんなときどうする!?”をピックアップし,具体的な解決策を提示する。

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