敗血症診療国際ガイドラインSSCG 2021変更のポイント
寄稿 近藤 豊
2021.11.29 週刊医学界新聞(通常号):第3447号より
米国集中治療医学会と欧州集中治療医学会が合同で策定した敗血症診療国際ガイドライン2021(Surviving Sepsis Campaign:International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021,以下SSCG 2021)1,2)が2021年10月2日に発表された。SSCGは2004年の初版発表から今回で第5版となる。SSCG 20163)の発表から約5年が経過した。この間に敗血症診療がどのように変化したのか,本稿で一緒に読み解いてみたい。
SSCG 2021の推奨とその変更点
SSCG 2016においては,長年使用されてきた全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準による敗血症の定義が「感染に伴う臓器障害」へと変更され,敗血症診療や敗血症研究に大きな影響を与えた。結論から言えば,SSCG 2021はSSCG 2016ほどの大きな変更はなく,敗血症の診断基準はそのまま踏襲された。しかしながら,SSCG 2016で話題となったqSOFAの位置付けが変化するなど少なからず変更点がある。
SSCG 2021の各推奨項目は表の通り(註)。なおSSCG 2016に記載があり本邦でよく使用されているアンチトロンビン製剤,リコンビナントトロンボモジュリン製剤などがSSCG 2021では触れられなくなったのも変更点の一つである。

推奨付けの強さ=強い/弱い,推奨付けの質=高い/中等度/低い/非常に低い,推奨付けはないが強い推奨=Best Practice Statement(BPS)*,SSCG 2021で新たに登場=★
*BPSは介入が適切であることが予想されるものの,利益と害のバランスが不明でエビデンスの要約の評価が困難なものに用いている。
以下で,SSCG 2021各推奨項目の概要を解説する。
【敗血症/敗血症性ショック患者のスクリーニング】
主な変更点
●スクリーニングにqSOFAスコアを単独で用いないことを推奨
スクリーニングの項目で大きな印象を与えたのは,qSOFAスコアを単独で用いないように呼び掛けたことである。SSCG 2016においてqSOFAスコアが提唱された後に多くの研究が行われ,qSOFAスコアはSIRS基準に比べて特異度は高いものの,感度がそれほど高くないことがわかったためである4)。qSOFAスコアが2点以上となった患者の70%が予後不良症例であったものの,感染症全体では24%しかqSOFAスコアは陽性とならず,予後不良症例が見逃されている可能性が示唆された5)。原則,qSOFAスコア単独で敗血症のスクリーニングは行わない。
【初期蘇生】
主な変更点
●毛細血管再充満時間(CRT)を蘇生の指標に用いることを提案
初期蘇生の項目では,他の指標に加えて毛細血管再充満時間(CRT)を蘇生の指標として用いることが提案された。2019年に発表された無作為化比較試験(RCT)であるANDROMEDA-SHOCK研究6)において,敗血症性ショックの初期蘇生の評価指標として,CRTガイド群と乳酸値ガイド群に分けて比較した結果,治療開始3日の時点でSOFAスコアがCRTガイド群で有意に低かった(平均SOFAスコア:CRTガイド群5.6点,乳酸値ガイド群6.6点,p=0.045)。28日死亡率には統計学的に差はなかったが(死亡率:CRTガイド群34.9%,乳酸値ガイド群43.4%,p=0.06),CRTが簡便で低コストで実施できることを考えると,その有用性が示唆されたため,今回の推奨に至ったものである。CRTは小児診療や災害時のトリアージなどで主に使用されてきたが,敗血症性ショックでもその使用が推奨された。
【平均動脈圧】
新たにRCTが報告されているが既存の結果を支持するものであり7),SSCG 2016と比べて大きな変更はない。なお敗血症性ショックにおいて,高めの平均動脈圧で管理すると死亡率を改善しない上,循環作動薬の使用量を増やすことなどがわかっている。
【ICU入室】
ICU入室が遅れると敗血症治療バンドルの順守率が下がり,死亡率が上がるとされている。ある研究ではICU入室が1時間遅れると,死亡率が1.5%上昇したと報告された8)。集中治療が必要な患者が救急外来に6時間以上滞在すると,死亡率の上昇や入院期間が延長することもわかっている9)。これらの理由により,ICU入室が必要な敗血症もしくは敗血症性ショックの患者においては,6時間以内を目安にICU入室すべきとされた。6時間以内という目標値は地域や病院によって変わるだろうが,集中治療が受けられる環境へ速やかに患者を移すという考え方は極めて重要である。
【感染】
主な変更点
●敗血症の可能性があるもののショックを伴わない場合に,敗血症認知後3時間以内に抗菌薬を投与
●真菌に限定したCQが追加
SSCG 2016では敗血症認知後1時間以内に抗菌薬投与を開始すべきとされていたが,SSCG 2021ではややトーンダウンした。背景には不要な抗菌薬投与による多剤耐性菌の増加,薬剤による副作用,1時間以内の抗菌薬投与の難しさ,不適切な血液培養の採取または未実施,などを憂慮したと考えられる。また敗血症の可能性があるもののショックを伴わない場合には,敗血症認知後3時間以内に抗菌薬を投与するとされた。
なおショックを伴わない敗血症に対する早期抗菌薬投与の有効性を検討したRCTは2つのみ報告されているが,最初の数時間の差で予後を改善したという一貫した結果は得られていない10, 11)。観察研究においては,投与開始が3~5時間遅れると予後が悪化したという結果が複数あり,SSCG 2021で3時間以内の抗菌薬投与が提案されたと考えられる。
またβラクタム系抗菌薬では初回ボーラス投与に続き投与時間の延長を行うことが推奨された。間欠的投与がほとんどである日本の敗血症診療において,重要な変更点である。
【循環管理】
主な変更点
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近藤 豊(こんどう・ゆたか)氏 順天堂大学医学部附属浦安病院救急診療科/同大大学院医学研究科救急災害医学 准教授
2006年琉球大医学部卒後,沖縄県立中部病院にて初期研修,聖路加国際病院で後期研修。琉球大大学院医学研究科救急医学講座講師,同大病院救急部副部長,米ハーバード大医学部外科学講座研究員を経て,18年より現職。専門分野は敗血症,外傷,集中治療。敗血症やARDSなど救急分野の診療ガイドライン作成に携わる。『敗血症controversy』(中外医学社)など著書多数。
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