医学界新聞

寄稿 渡邊 仁美

2021.11.22 週刊医学界新聞(看護号):第3446号より

 40診療科と約700の病床を有する県内最大規模の鳥取大病院にとって,2020年度は外来診療の在り方が大きく変化した転換期だった。同年4月の診療報酬改定では医師のタスクシフティング,外来機能分化などが医療改革として求められるようになった上,新型コロナウイルス感染症の影響で入院後の治療手術のインフォームド・コンセント(IC)を行う場が病棟診療から外来診療に移行したからである。実際,当院で外来診療時にICが行われた件数は,前年度4745件から5767件に増加した。件数は増える一方で,外来診療時に看護師が同席して行われたICが,その後の看護に結び付きにくい,意思決定支援が外来看護に定着していない等の課題が生じた。そのため2020年度の外来患者の看護師に対する患者満足度は65.3%と,医師への満足度が81.1%であったのに比して低値であり,前年度と比較しても上昇は見られなかった。

 患者の療養生活をよりよいものとするため,当院では患者の移行支援として特に外来機能の前方支援の在り方を検討した。各科のミドルマネジャーである看護師長が連携し,以前から運営している看護専門外来のより効果的な運用,外来継続看護を生かした意思決定支援の強化を開始した。本稿では,当院の看護体制である病棟外来一元管理のメリットを最大に生かすべく取り組んだ,院内の看護フローの基盤整備について紹介する。

 前方支援の運営フローの見直しにあたって,当院では2020年4月,ICUや病棟外来一元化のセクション,外来,入退院支援センター,医療情報部の看護師長らと医事課,経営企画室のメンバーが参画し業務整理を行った。またこれを機に,当院で一部の診療科しか算定していなかった「総合機能評価加算」(50点)をはじめ,2020年度診療報酬改定で新規加算となった「せん妄ハイリスク患者ケア加算」(100点)や図1内の項目ア~クを入院前に全て実施した場合に算定できるよう改定された「入院時支援加算1」(230点)を確実に取得するためにフローを見直した(図1)。このフローは看護部の各種会議で報告した後,医事課から文書で周知を行い,実践した内容は看護部の外来・入退院支援委員会が他者監査により評価した。

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図1  入院決定時から看護師がかかわって行う前方支援の運営フロー

 フローを作成する際に特に意識したのは,療養支援計画書のICを各外来看護師まで拡大する点である。基本となる意思決定支援業務の強化とともに,加算要件を満たすための記録監査を開始した。また,65歳以上の患者に漏れなく機能評価を実施するため,入院診療計画書に機能評価項目を追加し,「せん妄ハイリスク患者ケア加算」は新規に帳票を作成した。これらの活動は,看護部の外来・入退院支援委員会と各外来をチーム制にした外来リーダーが中心となって活動した。

 この結果,「入院時支援加算」の算定件数は前年度比207%となった(図2)。さらに2020年度診療報酬改定で新設された「せん妄ハイリスク患者ケア加算」は,5月時点で取得可能な体制が整い,21年3月までに6234件算定できた。監査結果によれば,新規に作成した帳票の記載率は99.6%と高く,せん妄ハイリスク予防計画書の56%は外来時に記載されていた。「総合機能評価加算」は2020年4月から算定を開始し,当初は「入退院支援加算」に対し4.4%の算定率であったが,21年1月時点では97%の算定率となった。

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図2  鳥取大病院における過去3年間の診療報酬加算算定件数
運営フローの見直しを行った2020年度では,前方支援にかかわる3つの診療報酬加算の算定件数が大幅に増加した。なお20年度の入院時支援加算は1,2の合計件数を示す。

 加えて2020年度,がん患者の意思決定支援を強化すべく,これまで病棟配属であったがん化学療法認定看護師を外来業務にシフトし,がん化学療法看護外来を開始した。消化器外科でも看護外来運営を行い,消化器内科のがん化学療法認定看護師と連携し密な情報交換を行った。また,患者1人につき1度しか算定できないがん患者指導管理料(イ)に対し,内科/外科と連携した患者対応を行った。その際,化学療法室勤務のがん専門看護師,緩和ケア認定看護師は,曜日を調整し必要な診療科に配置した。結果,看護師が算定にかかわる「がん患者指導管理料(イ)(ロ)」(500点,200点)の20年度の算定額の合計は前年度の6倍以上となった。

 当院ではこれまで,入院前からの療養支援に対しICを得た計画書の手渡しができていなかった。そのため2019年度の「入院時支援加算」は「入退院支援加算」の24%である1164件しか算定できておらず,他大学の実績である算定率60%と比しても少ないことが課題となっていた。しかし上記の取り組みを経て,20年度では37%まで上昇した。「総合機能評価加算」「せん妄ハイリスク患者ケア加算」「がん患者指導管理料(イ)(ロ)」の着実な算定につながり,外来における意思決定支援の介入設定率も26%から78%に上昇した。

 加えて当院では現在,移行支援の一環として高齢者のフレイル/オーラルフレイル予防にも注力している。退院後のPICSを予防をするため入院前から評価を行っており,この時使用しているチェック表を用いて,65歳以上の入院患者を対象に介護予防のための評価も開始した。また当院では,患者・家族に医療福祉相談等の医療サービスと地域連携を行う医療福祉支援センターの看護師と外来看護師が外来通院中の患者に入院オリエンテーションを実施している。その際に,フレイル,プレフレイル,健常を評価するSGA(主観的包括的評価)を用いて運動の判断をして指導する運用を行っている。

 また,当院の位置する鳥取県米子市では高齢化が進んでいるため,当院のリハビリテーション部,歯科衛生士,および米子市健康対策課と連携しながら入院前からフレイル/オーラルフレイルを予防するための講座も開催している。地域全体の健康を守る取り組みを今後も続けていく。

 看護師長がお互いの成果だけでなく組織のミドルマネジャーとして部署連携した結果,今回のように,看護部管理室とともに人的資源に対するコーディネーションが進んだ。この人的資源の投資とプロセスへの看護師長の「納得感」が,多部署連携を促進したのだろう。看護師長の部署を越えた連携により,算定率の上昇ならびに看護外来の拡充ができた。患者の生活を見据えた移行支援に寄与したことで結果的に,約半年間の取り組みで2000万円ほどの増収にもつながった。今回の看護管理実践は院内のベストプラクティス賞にも選ばれている。今後も引き病棟外来一元化の外来看護の機能を強化し,患者の生活の質を維持するための移行支援の充実を図っていきたい。

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鳥取大学医学部附属病院 外来統括マネジャー

1985年鳥取大医療技術短大看護学科(当時)卒,96年放送大教養学部卒。2018年鳥取大大学院医学系研究科修了。博士(保健学)。05年より現職。診療情報管理士,医療情報技師,介護支援専門員。周術期におけるPICS予防看護外来の開設などにも従事。