医学界新聞

寄稿 後藤 喜広

2021.10.25 週刊医学界新聞(看護号):第3442号より

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントへの対策は喫緊の課題である。2006年の男女雇用機会均等法改正に伴い,女性のみならず男性に対しても同様に,雇用管理上必要な措置を講ずることが事業主に義務付けられた。

 看護師は業務において,身体や局部への処置を行う際に,患者からのセクシュアル・ハラスメントに遭いやすいことが複数の研究によって報告されている。こうした知見に加えて,本稿における筆者の関心は,「男性看護師が看護師から受けるセクシュアル・ハラスメント被害」に焦点化している。

 2016年から19年までの間,筆者は約20人の男性看護師を対象に,職場でのセクシュアル・ハラスメント被害についてインタビュー調査を行った1, 2)。その結果,加害者として男女の看護師,特に女性看護師が関与するケースが多かったことに着目している。

 男性看護師が被害を受ける場面として,女性患者への膀胱留置カテーテル挿入時に尿道口を探せないといった状況において,「まだ女の体を知らないのね」といった会話が発生するなど,患者に提供される看護・医療行為が誘因となり,セクシュアル・ハラスメントが発生するという特徴がみられた。そして男性看護師は,加害者に対して嫌悪感や不快感を抱いても,限られた人員で構成される勤務体制への影響を考えることや,加害者が上司であることなどを理由に自身の被害を問題化させない。こうした理由から,看護師間で発生する男性看護師へのセクシュアル・ハラスメントの実害は潜在化している可能性が示唆された。

 病院環境下において発生するセクシュアル・ハラスメント被害は,その多くが女性を対象としており,女性看護師がセクシュアル・ハラスメントの最大の被害者であることは既知の事実である。しかし,彼女らに付与された被害者性が免罪符となることで,その加害者性が放置・黙認されているという状況について,筆者は問題提起をしたい。

 ハラスメントは,差別意識や権力構造と関連が深いことが明らかになっている。一般的な日本の職場環境にみられる男性優位の構造とは逆転的な立場をとる看護の労働環境において,特に若年の男性看護師が標的となり,コミュニケーションの範疇という線引きのもと,個人の尊厳が侵害される事象に医療者は心当たりがないだろうか。また,「男性」という性別を理由とした,体力を要する業務への過剰なまでの割り振りや,急な勤務交代をたびたび依頼するといった,アンコンシャス・バイアスによる負荷を看過してはいないだろうか。

 これまで看護の倫理教育は,「セクシュアル・ハラスメント被害に遭わないための教育」という一義的な方向にのみ注力がされたことで,被害者・加害者という多義的な立場の理解に至る教育がされてこなかったと考える。筆者が提起した問題は,一部の労働者の特殊な事案ではなく,看護職全体の問題としてとらえる必要がある。さらには,病院組織および看護界として対策に取り組むことの重要性が理解されることで,本質的な男女共同参画社会の実現に帰するものと考える。


1)後藤喜広,伊藤桂子.セクシュアル・ハラスメントを受けた男性看護師が働き方を構築するプロセス.(日本看護研究学会雑誌に受理・掲載準備中)
2)後藤喜広.男性看護師が経験するセクシュアル・ハラスメントに関する研究.(日本看護研究学会雑誌に受理・掲載準備中)

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東邦大学看護学部看護学科精神看護学研究室 助教

浜松医大医学部看護学科卒。愛知医大大学院看護学研究科修士課程修了,東邦大大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。2015年より現職。専門は精神看護学。主な研究テーマとして男女共同参画社会における看護職の課題,男性看護師の労働環境,ハラスメントとメンタルヘルス。