COVID-19パンデミック下の大学生をいかに支援するか
寄稿 潤間 励子
2021.10.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3440号より
千葉大学は,千葉県内に4つのキャンパスと医学部を含む10学部を持ち,学生約1万5000人・教職員約3500人が在籍しています。その中で,筆者が所属する総合安全衛生管理機構(以下,総安機構)は,大学構成員の安全衛生管理やCOVID-19パンデミック対策の実務を担う大学保健管理施設です。パンデミック下での運営方針を決定するため,大学本部には学長・理事等役員をメンバーとする危機対策本部とその下に教育WG・感染対策WGが設置され,さまざまな対策が行われてきました。本稿では,COVID-19パンデミック下の学生生活の実態と千葉大学の取り組みをご紹介します。
感染対策と学生のケアの徹底
第1回目の緊急事態宣言の発出に伴い,2020年度の学事は5月よりオンライン授業のみで開始されました。当時はキャンパス内が原則入構禁止となり,入学式も中止,許可を受けた研究活動を行う者だけが最低限入構を許されたのです。医学部では臨床実習も中止となり,オンライン化が進められました1)。
オンライン授業の開始に伴い,本学附属図書館(アカデミックリンクセンター)は授業を支援するポータルサイト「オンライン学習支援ポータル」2)を立ち上げました。パンデミックによって一時閉館を余儀なくされた同センターを利用できず困る学生が,学習のサポートを気軽に受けられる仕組みです。同センターが再び開館した21年度もポータルサイトの運営は継続しながら,館内は身体的距離を保つ机・椅子の配置,オンライン授業に適したコーナーの設置など,学生の学習ニーズに合わせた工夫と感染対策を行っています(写真)。
また,20年度後期からはオンライン授業と併用する形で,実習や実技,語学などを中心に対面授業が始まりました。学部にもよりますが,本稿を執筆している21年9月現在は多くの学生が週1~3回程度対面授業を受けており,キャンパス内でそれなりの数の学生を見掛けます。
対面授業の再開に当たって総安機構は,講義室や実習室の巡視,教室の図面をもとに適切な換気方法の確認などを行いました。教員は換気,身体的距離の維持,マスクの着用,体調不良者の確認などを講義前に行い,感染対策を徹底しています。また,通常の講義以上に学生同士が密集しやすい医学部の解剖実習については,実習室内の感染対策のみならず,学生の平素の対策まで含めて担当教員と相談し,20年度の実習が無事終わった時はほっとしました。
一方で,COVID-19パンデミックによりメンタルヘルス不調を起こす学生もいます3)。背景にはオンライン授業など環境の変化に加え,サークル活動や大学祭,その他の全ての懇親会(いわゆるコンパ)の開催が制限された影響があるでしょう。現在では,一部の課外活動は感染対策・活動計画書を提出させ審査の上,許可制で再開しているものの,いまだ他学部生と交流を深める機会は少ないままです。医学部の新入生も例外ではなく,「期待したキャンパスライフではなかった」「自分は本当に医師になりたいのか?」と自宅で思い詰め,入構規制で教員への相談もままならず,他学部への再受験を希望する学生もいました。そのため現在は,学生のWeb問診型メンタルヘルスチェックを行い,不調になりやすい傾向を持つ学生に専門家への相談を促すなど対策を講じています。
健康観察システムの構築
大学内での流行拡大を防止するには,COVID-19に感染した可能性のある学生・教職員を適切に医療に結び付け,人との接触を防ぐ必要があります。そこで本学は2020年3月から「風邪症状がある学生・教職員は,自宅待機して総安機構へ報告する」ルールを作ったのです。まず,総安機構がMicrosoft formsで作成した専用のURLを全学生・教職員宛にメールで送付しました。そこに入力された報告内容を看護師が確認することで健康観察4)を行っています。報告内5)は風邪症状や濃厚接触者となった際の連絡のほか,海外渡航・課外活動などの行動の記録です。21年6月末までの報告総数は1133件で,20年末と21年のゴールデンウィークに報告数が多く(図),国内のCOVID-19流行傾向と合致しました。
また,出席・出勤の基準は日本渡航医学会・日本産業衛生学会による『職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド』に準拠し,学校側から指示した欠席・休業期間は出席停止・特別休暇で処理しています。医療職がメールと電話で体調不良の学生やCOVID-19罹患学生の支援をすることで安心して療養できる環境が整備され,学生から感謝の言葉をもらうこともあります。
今後の大学生活を安心して送ってもらうために
第5波の只中である本稿執筆現在,将来の希望の灯はワクチン接種です。本学でも大学拠点接種(職域接種)を2021年7月12日に開始し,すでにおよそ7000人の学生,教職員の接種が完了しています。20年度はオンラインプログラムへの参加などで代替していた海外留学プログラムも,ワクチンを接種した学生を対象に21年度後期から一部再開予定です。
大学の教育研究活動を守るため,学長以下,全学で接種体制を作り,医学研究院,薬学研究院,看護学研究院からも有資格者が多数応援に入っています。このような大規模集団接種は近年になかったことです。集団接種会場に応援に入る研修医・若手医師の皆さんにはぜひ,集団接種オペレーションを学んでいただき,スキルが継承されることが重要だと考えています。
今後の大学生の生活は,Before Coronaとは異なったものになるでしょう。オンライン授業やオンサイトで行う講義・実習の意義が再確認され,今まで日本では難しかった予防接種記録管理が一般化するはずです。加えて今後はパーソナルヘルスレコード(PHR)のデジタル化と自己管理も重要になると考えています。特に大学生は保護者の管理下から自己管理へ移行していく年代ですので,大学保健管理施設団体でも学生自らがPHRを管理し活用できるよう協議や研究を進めています。COVID-19パンデミックの教訓を生かし,より安全で健康な学生生活に貢献できることを望んでいます。
参考文献・URL
1)鋪野紀好,他.千葉大学総合診療科におけるオンライン臨床実習の取り組み.医教育.2020;51(3):286-7.
2)千葉大附属図書館.Academic Link.
3)Asian J Psychiatr. 2021[PMID:34390982]
4)鈴木のり子,他.新型コロナウイルス流行時の学生・教職員の健康観察実施を試みて.CAMPUS HEALTH.2021;58(2):176-81.
5)千葉大総安機構.発熱その他の症状のある方/帰国後/接触確認アプリで接触通知を受けた方へ.
潤間 励子(うるま・れいこ)氏 千葉大学総合安全衛生管理機構 准教授
1992年千葉大医学部卒。博士(医学)。総合内科専門医,呼吸器専門医,結核・抗酸菌症認定医,日本医師会認定産業医。2009年より千葉大総合安全衛生管理機構(Twitter ID:@hscchiba)にて学生・教職員の安全衛生管理を行う。19年より現職。
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