医学界新聞


第55 回日本作業療法学会学術集会の話題より

取材記事

2021.10.04 週刊医学界新聞(通常号):第3439号より

 第55回日本作業療法学会(学会長=金沢大・柴田克之氏)が9月10~11日,「作業療法の分化と融合――輝く未来に実践知のバトンをつなぎ・たくす」をテーマにWeb配信形式で開催された。本紙では,根拠に基づく作業療法(EBOT)の実践が提起された学会長講演「作業療法の独自性と可能性」(座長=群馬パース大・村田和香氏)の模様を報告する。

 冒頭,柴田氏は「作業を通じて人が健康になる。そのエビデンスを検証することが,今われわれが果たすべき喫緊のミッションだ」と呼び掛けた。そのために氏が重要視するのがEBOTの確立と実践だ。作業療法の強みとして,①急性期から生活期,子どもから高齢者までとかかわる領域の広さ,②作業療法の独自性,③組織力の3点を挙げる一方,論文投稿と組織的研究の少なさを課題として指摘した。これらの課題克服に向け,臨床研究とエビデンスの構築,事例研究の論文化によってEBOTの実践を明示することが大切になると訴えた。

 続けて,論文投稿が少ない背景として,量的研究への偏りがあることを学術誌『作業療法』への論文投稿の状況から示した。量的・質的アプローチの双方で観察,介入,評価のプロセスを実施できる点が作業療法士独自の強みと紹介。論文数全体の底上げを図りながら,現在の量的研究への偏重を解消するために,患者の定性的変化をとらえる質的研究や混合研究の増加に期待を寄せた。中でも事例研究は介入効果を検証し,より適切な介入を再考できる利点があるという。事例報告登録制度に登録済みの事例を図表で視覚化し,さらに経過と考察を推敲して論文化する実践の一つとして『作業療法』誌への投稿を推奨した。それがエビデンスの構築とEBOTの実践,そして後進の育成にもつながると主張した。なお『作業療法』誌では,Webサイトにて事例研究のための特別講座を公開している。

 柴田氏は「作業療法士協会主導の学術研究や同じ研究テーマを持つ会員が参集し,横断的研究ネットワークの活用をお願いしたい」と呼び掛け,「一人ひとりが作業療法の独自性を持って,根拠に基づく実践を行うことが作業療法発展の大きな力になる」と講演を結んだ。

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