Post-CC OSCEの独自課題にカルテ記載シミュレーションの活用を
寄稿 駒澤 伸泰
2021.09.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3436号より
卒業時の臨床スキルを測るPost-CC OSCE
現行の医師国家試験では医療面接や基本手技など臨床スキルの評価は行われず,マークシート形式による知識や臨床判断能力の評価が中心となっています。シミュレーションを用いた臨床スキルの評価を同試験に導入する案も検討されてきましたが,客観性担保の観点から現在のところ実現されていません。そこで,医学部卒業時に「臨床研修を開始できる能力を修得しているか」を測るため,2020年度から臨床実習後OSCE(Post-CC OSCE)が正式導入されました。
医学生は卒業までに2回のOSCEを受験します。臨床実習前OSCE(Pre-CC OSCE)がStudent Doctor認証要件として位置付けられているのに対し,診療参加型臨床実習(Clinical Clerkship:CC)後のスキルを評価するPost-CC OSCE1)は医学部卒業要件の1つです(図)。Pre-CC OSCEに比して1課題当たりの解答時間が長いPost-CC OSCEは,卒前教育における技術と態度の総括的評価といえます。

医学部卒業要件の1つとして,臨床実習後のスキルを包括的に評価する。内容は,CATO提供の「機構課題」と各大学が作成する「独自課題」の2つから構成される。
ビデオ映像を用いてカルテ記載スキルを試験する
Pre/Post-CC OSCEでは,シミュレーションを活用した試験が行われます。模擬患者やシミュレーターの活用によって患者へのリスクがなく,均一化された環境下で医学生のスキルを総括的に評価できるからです2)。一定の医療面接および身体診察の模擬環境が提供可能なため,より強固な客観性が担保されます。
中でもPost-CC OSCEは,医療系大学間共用試験実施評価機構(CATO)提供による「機構課題」と,各大学による「独自課題」で構成されます(図)。機構課題では,模擬患者やシミュレーターを活用した医療面接と身体診察を行い,臨床推論とプレゼンテーションスキルに対する総括的評価を行います。 一方,独自課題は各大学に作成が任されています。本学ではビデオ映像を活用したシミュレーションを独自課題に導入し,カルテ記載の能力を試験しました。本稿ではそのうち2例を紹介します。
◆インフォームドコンセントの事例
インフォームドコンセントの記録は,CCおよび初期臨床研修における重要な臨床スキルです。今回われわれは,Post-CC OSCEの独自課題のトライアルとして,ビデオ映像を活用した「インフォームドコンセント実施時のカルテ記載」を導入しました。
医学部教員と事務職員が模擬患者・家族役および模擬医師・看護師役を担当し,医療者が患者にインフォームドコンセントを行う様子(写真・左)をビデオに収めました。「化学放射線療法の導入」「緩和医療への移行」など4テーマを既に作成・活用しており,今後増やしていく予定です。編集した5分間のビデオ映像を2回放映し,医学生はカルテ様式の解答用紙に説明内容に沿った筆記記載を行います。採点は2人の医師がチェックリストおよび6段階の概略評価を用いて行い,意見が相違した場合は協議の上決定しました。

模擬患者・医療者および人型シミュレーターを用いたシミュレーションの様子をビデオ撮影した。医学生は映像をもとにカルテを作成する。
◆心肺蘇生の事例
卒前教育において心肺蘇生や急変時の対応は必須項目とされており,全国の医療系学部で人型シミュレーターを用いた心肺蘇生教育が普及しています。特に心肺蘇生時の記録は,蘇生行為の質の維持だけでなく法的観点からも重要です。
また,現在の患者記録は電子カルテが主流となっていますが,心肺蘇生時や急変時は筆記による可及的な記録が期待されます。そこでわれわれは,Post-CC OSCEの独自
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駒澤 伸泰(こまざわ・のぶやす)氏 大阪医科薬科大学医学部医学教育センター 副センター長
2006年阪大医学部卒。13年兵庫医大大学院修了。博士(医学)。兵庫県立がんセンター緩和ケア内科・麻酔科医長,米ハワイ大シミュレーションセンターResearch Associateなどを経て,19年より現職。大阪医薬大病院麻酔科・緩和ケアセンター,医療技能シミュレーション室副室長を兼任。
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