医学界新聞


形成外科診療との親和性を活かして

寄稿 朝日 林太郎

2021.08.23 週刊医学界新聞(通常号):第3433号より

 日本医科大学付属病院では,20年ほど前より美容外科・美容後遺症診療を行っています。現在では電車やテレビの広告などでも美容外科を目にする機会は多くあり,広く身近なものになっていますが,当院美容外科・美容後遺症診療の立ち上げの頃は,まだ美容外科が広く普及していない時代でした。

 美容外科は形成外科の一分野であるとともに,高度な形成外科の知識と技術が要求される分野でもあるものの,正式なトレーニングを受けていない一部の医師による医学的に不適切な治療が蔓延していた時代もありました。このため,特に豊胸手術関連で不適切な治療による後遺症患者が多くおり,当院はそうした患者さんを治療できる数少ない医療機関として実績を挙げてきました。医学の進歩とともに科学的根拠のある治療を行う正当な美容医療が広がりつつありますが,いまだ不適切・不誠実な治療を提供する医療機関も少なからずあるのが現状です。

 また,美容後遺症診療のみならず,通常の美容外科診療も行っています。大学の美容外科を受診される患者さんは,いくつかの美容クリニックで手術を受けた方や,リクエストが複雑な方が多い印象があります。

 形成外科診療と美容外科診療,美容後遺症診療,それぞれの位置付けとゴールを図1に示します。マイナスの状態を限りなく正常に近い状態にしていくのが形成外科診療です。これに対して美容外科診療は,もともと特に病気がないゼロの状態からプラスの方向へ,患者さんがより求める形にしていきます。

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図1 形成外科診療・美容外科診療・美容後遺症診療の位置付け
「マイナスからゼロ」ではなく「マイナスからプラス」をめざす。

 そして,美容外科によってプラスの状態を求めたのにかえってマイナスの状態になってしまったのが美容後遺症診療の対象となる患者さんです。マイナスからゼロに戻すことは,美容後遺症診療としては最低限のラインです。美容外科医としてはさらに,患者さんがもともと求めていたプラスを実現することをめざします。

 例えば,不適切な豊胸剤による後遺症のある方は,豊胸剤を除去する処置のみを行うと,もともと希望された胸の状態とはかけ離れた状態になります。これを希望した状態に近いところまでいかに安全に治療できるかが,美容後遺症診療に求められているゴールだと思います(図2)。

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図2 美容後遺症診療の一例
①アクアフィリングによる豊胸手術後⇒②アクアフィリングの除去を実施⇒③適切な脂肪移植による豊胸手術を行った。

 美容後遺症診療は,患者さんそれぞれで経過や状態が異なるため,どのような治療が正解であるか,治療のゴールをどこに設定するかを,個別に考える必要があります。また,美容後遺症診療は全て保険適用外の自費診療になるため,コスト面も考慮し...

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日本医科大学 顔と心と体の美容医学講座(社会連携講座) 講師

2009年三重大医学部卒。東京労災病院にて臨床研修修了後,日医大形成外科入局。2020年自治医大大学院修了。同年4月より現職(同年9月より自治医大形成外科非常勤講師を兼任)。日本形成外科学会専門医,日本美容外科学会正会員,日本熱傷学会専門医,日本創傷外科学会専門医。

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