医学界新聞


長期予後改善を見据えた腫瘍循環器学の新戦略:CORE

寄稿 佐瀬 一洋

2021.07.05 週刊医学界新聞(通常号):第3427号より

 がんと循環器双方の視点から診療を進める,腫瘍循環器学(Cardio-Oncology)が注目されている1~3)。心血管疾患ハイリスク患者に対するがん治療の完遂と,がん治療関連心血管疾患(Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction:CTRCD)のハイリスク治療を受けたがんサバイバーの予後向上を目的に誕生した,新たな学際領域である。

 超高齢社会の到来によるがん罹患者数の増加に加え,医学の進歩に伴う死亡率の低下により,がんサバイバーの人数が急増している。高齢のがんサバイバーでは,がんそのものでなく,併発した心筋梗塞をはじめとする心血管疾患(Cardiovascular Disease:CVD)が直接の死因となることも多い。そのためがん治療を行う際には,心血管危険因子(Cardiovascular Risk Factor:CVRF)やCVDの既往を有する心臓病ハイリスク患者に注意が必要である。

 加えて化学療法や薬物療法などのがん治療自体により引き起こされるCTRCDの概念も近年提唱され,その対応が急務である。放射線療法や抗がん薬の心毒性は従来から知られていたが,近年登場した分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬でもさまざまな心毒性を有することが明らかになっている。

 では,がん患者の心血管疾患にどう対応するか。具体的な対策の一つとして,腫瘍循環器リハビリテーション(Cardio-Oncology Rehabilitation:CORE,)が2019年に米国心臓協会(AHA)から提唱された4)。COREは,従来のがんリハビリテーション(以下,がんリハ)に心臓リハビリテーション(以下,心リハ)の要素が加わったものである。

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 腫瘍循環器リハビリテーション(CORE)の概要と効果

 がんリハは,がん患者の自立度とQOLの向上を目的に,身体的・認知的・心理的な障害を診断・治療する医学的ケアである。他方心リハは,CVDの治療と再発予防,CVRFの低減を目的とした診察や運動処方,さらに患者教育・カウンセリングによる生活習慣改善を含む包括的かつ長期的な医療である。

 なぜ心リハの要素が必要なのか。がんサバイバーにおける心肺機能の低下要因は,患者関連因子やがん関連因子,がん治療関連因子など多岐にわたる(図)。そこでCOREによる心肺機能の維持やCVDリスクの軽減を通じ,QOLや生命予後の向上が期待されている5, 6)。先行研究の結果からも,がん患者に対する心リハの有効性が示唆される7, 8)

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)の診療ガイドラインに基づき,AHAは①高リスクがん治療,②心血管疾患高リスクを潜在的なCOREの対象患者とする。①は高線量の放射線療法や高用量の抗がん薬使用,あるいは抗がん薬と分子標的薬の併用,②は心疾患の既往または複数のCVRFを有する場合を指す。AHAは参考として下記の例を挙げる4)

●高用量アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン換算≧250 mg/m2),高線量放射線治療(≧30 Gyかつ心臓を含む治療野),または低用量アントラサイクリン系薬剤と低線量放射線治療の併用患者

●低用量アントラサイクリン系薬剤またはトラスツズマブ単剤に加えて,危険因子〔CVRF(喫煙,高血圧,糖尿病,肥満,脂質異常症のうち2つ以上),年齢(≧60歳),または心機能障害(心筋梗塞の既往,左室駆出率の低下,中等症の弁膜症)〕が存在する患者

●低用量アントラサイクリン系薬剤に続くトラスツズマブの併用療法を行う患者

 現在,循環器内科医と腫瘍内科医が連携し,がんの種類やステージ,身体機能,併存疾患を考慮した,COREのリスク・ベネフィットやコスト・ベネフィットの評価が進みつつある。成人がんに限らず,小児がんの長期サバイバーを含めた検討がなされており,結果が待たれる。

 COREの実施計画は,ハイリスク患者およびハイリスク治療の同定に加え,臨床症状や併存疾患など,下記を総合的に勘案して立案する。

1)がん患者のCVRFの評価と介入
2)バイタルサインや臨床症状などの管理
3)CVDアウトカムを指標とする長期的運動療法
4)がん医療に合わせた個別化運動療法
5)複数の手法の組み合わせ

 COREの実施に当たっては,がんリハと心リハの両面から有効性と安全性を評価する必要がある。両者それぞれの観点から注意点を述べる。

 がんリハの観点からは,血算,臨床症状(嘔気・嘔吐,見当識障害,めまいなど),がん治療関連の腫瘍に特異的な留意点(感染症,代謝異常,リンパ浮腫,心身障害,術後創傷治癒状態,骨転移の有無など)を考慮し,実施する。フレイルや神経筋骨格系障害,骨粗鬆症,認知機能低下など,がん治療に関連する問題を有する患者においては,理学療法や作業療法,言語療法を併用し,患者ごとに運動計画を最適化する。

 他方心リハの観点では,心肺機能や6分間歩行などの運動療法への患者理解度(有酸素運動およびレジスタンストレーニングの知識,トレーニング機器の正しい利用法,目標心拍数の理解と達成)に注意する。

 実際に循環器内科医と腫瘍内科医が連携する際は,拠点医療機関内におけるチーム医療として完結する場合や,かかりつけ医をベースにした地域医療連携として実践する場合など,各施設や地域の状況を勘案することが重要である。

 2016年に改正されたがん対策基本法で,がん患者の療養生活の質の維持向上を目的に「がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること」と明記された。2017年策定の第3期がん対策推進基本計画でも「機能回復や機能維持のみならず,社会復帰という観点も踏まえ」医療提供体制の在り方を検討するとされた。

 しかしながら,2019年に改訂されたがんリハの診療ガイドライン9)では,がん患者の一部における運動療法のリスク・ベネフィット評価で高いエビデンスレベルが示されたものの,推奨レベルはまだ低い。理由として保険適用がない点が挙げられる。2021年に改訂された心リハの診療ガイドライン10)においても,COREの必要性について初めて言及された一方で,ガイドラインの基盤となるエビデンスが国際的にも不足しているため,研究の必要性が指摘されている。

 現在,保険医療上の診療報酬では心大血管リハビリテーション,がん患者リハビリテーション,および外来リハビリテーションがそれぞれ別枠になっている。しかし,世界的な課題であるがん患者およびがんサバイバーにおけるアンメット・メディカル・ニーズに対応するためには,COREという新しい観点から患者中心の対策が必要である。がん患者に安定して心リハを提供するためには,エビデンスに基づく診療ガイドラインを作成する基盤となる基礎研究,臨床研究,疫学研究の実施が急務である11)

 なお,2017年に設立された日本腫瘍循環器学会では,関係学会と連携して診療ガイドラインやガイダンス文書の整備,およびその基盤となるエビデンスの構築を進めている。

 今後,医療現場でのチーム医療と地域医療連携が,国や学会レベルの学際領域連携へと発展することが求められる。さらにリスクの層別化やリスク・コストとベネフィットの評価が進むことで,CORE関連の診療ガイドラインや診療報酬の整備,および教育・診療・研究の充実も待たれる。最終的にがん患者のQOLと生命予後がさらに向上することを期待したい。


1)佐瀬一洋,他.がんと循環器診療の融合をめざす新たな学際領域――Cardio-Oncology.週刊医学界新聞.2018;3265.
2)Circ Res. 2016 [PMID:26987914]
3)Ann Oncol. 2020 [PMID:31959335]
4)Circulation. 2019 [PMID:30955352]
5)Lancet Oncol. 2008 [PMID:18672211]
6)Nat Rev Clin Oncol. 2012 [PMID: 22392097]
7)JAMA Oncol. 2018 [PMID:29862412]
8)Cancer. 2018 [PMID:29624641]
9)日本リハビリテーション医学会.がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版.金原出版.2019.
10)日本循環器学会,他.2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン.2021.
11)J Cardiol. 2020 [PMID:32736905]

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順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学 教授

1986年京大医学部卒。89年同大大学院医学研究科(内科系専攻),94年米ハーバード大Brigham & Women's Hospital客員研究員,98年国立循環器病センター,99年国立衛研・医薬品医療機器審査センター(現PMDA)などを経て,2005年より現職。Cardio-Oncologyの普及啓発の他,患者中心の医療の在り方の研究やがん教育に携わる。