MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2021.06.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3424号より
《評者》 吉永 繁高 国立がん研究センター中央病院内視鏡科外来医長
消化管内視鏡診断のバイブル
われわれ消化管内視鏡医に大事なことは何か? 早期癌を内視鏡で安全かつスピーディーに切除することか? もちろん,患者さんの命を救う手技であり,大事なことだ。しかし,それ以上に私が大事と思うことがある。それは『診断』である。「癌」と診断できないと内視鏡で治療することもできないし,見逃すと次に見つけた時には進行していることだってある。逆に「癌」と誤診して切除するなんてもっての外だ。「癌」だけでなくリンパ腫などの「腫瘍」だって治療するためには適切な「診断」が必須である。本書は咽頭から大腸までの主に腫瘍性疾患を網羅しており,この一冊で消化管疾患の内視鏡診断のエッセンスが学べる。
まず序説からすごい。2020年度まで早期胃癌研究会の運営委員長でいらした山野泰穂先生の情熱と博学さが溢れる内容にこちらまでactivateされてしまう。
咽頭は虎の門病院の若頭の菊池大輔先生がValsalva法も含め診断全体をまとめ,食道は診断も治療も大家である小山恒男先生が診断の総論を,扁平上皮癌を小山先生の愛弟子の竹内学先生が,Barrett食道癌はBarrett界重鎮の小池智幸先生が,その他の腫瘍を石原立先生の秘蔵っ子の松浦倫子先生が執筆している。そして満を持して良性腫瘍を食道界随一の診断医である門馬久美子先生がまとめている。
胃に関しては,早期胃癌の内視鏡診断ガイドライン委員会の長でもある八尾建史先生が診断の進め方をまとめ,各論ではピロリ菌感染胃癌を八木一芳先生の下で拡大内視鏡を学んだ名和田義高先生が,未感染胃癌を第一人者の吉村大輔先生が,上皮下腫瘍を上堂文也先生の下で研さんを積んだ岩上裕吉先生が,リンパ増殖性疾患を胃のリンパ腫に関して沢山の論文を書いている小野尚子先生が,透視も内視鏡も何でもござれの入口先生が隆起性病変をまとめている。
十二指腸の上皮性腫瘍(SNADET)は遠藤昌樹先生の弟分の鳥谷洋右先生が,粘膜下腫瘍(SMT)様隆起を小野裕之先生門下のホープの吉田将雄先生が,小腸の上皮性腫瘍を田中信治先生の右腕である岡志郎先生が,リンパ増殖性疾患は中村昌太郎先生の薫陶を受けた梁井俊一先生が,SMT様病変を長南明道先生の後を継いだ松田知己先生が執筆している。
大腸は診断の総論を大腸診断のオーソリティの河野弘志先生が,超拡大まで含む上皮性腫瘍の診断をがん研有明病院の下部消化管を担う斎藤彰一先生が,鋸歯状病変を工藤進英先生,山野先生の系譜を受け継ぐ松下弘雄先生が,いろいろな研究会で大腸の読影と言えば真っ先に名前が挙がる佐野村誠先生がSMT様病変を,診断も外科治療も超一流の松田圭二先生が肛門管腫瘍状病変を執筆している。消化管全体にわたるポリポーシスを松本主之先生,江﨑幹宏先生の学問の遺伝子を引き継ぐ梅野淳嗣先生がまとめている。
そして,近年話題に上らない日はないAI診断に関して,日本中で胃癌のAI診断の講演をしている平澤俊明先生が上部消化管を,EndoBRAIN®の生みの親である工藤進英先生が下部消化管を担当している。
これだけのきら星のごとき著者たちが美麗な画像を添えて書いた文章が勉強にならないはずがなく,現在の消化管内視鏡診断のバイブルと言っても過言ではない。何より素晴らしい執筆陣を企画した編集委員の見識に感服しきりである。
ぜひ,一流の内視鏡診断学に触れていただき,読者諸氏の日々の臨床の一助となることを実感していただければ幸いである。
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THE内科専門医問題集1 [WEB版付] 総合内科ⅠⅡⅢ・消化器・循環器・内分泌・代謝・腎臓
- 筒泉 貴彦,山田 悠史 チーフエディター
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B5・頁422
定価:7,480円(本体6,800円+税10%) 医学書院
ISBN978-4-260-04333-5
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THE内科専門医問題集2[WEB版付] 呼吸器・血液・神経・アレルギー・膠原病・感染症・救急・集中治療
- 筒泉 貴彦,山田 悠史 チーフエディター
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B5・頁462
定価:7,480円(本体6,800円+税10%) 医学書院
ISBN978-4-260-04334-2
《評者》 岡 秀昭 埼玉医大総合医療センター院長補佐/教授・総合診療内科・感染症科
本来の内科医に必要な知識,判断力を試す良問が並ぶ
良問だなあ。これが全分野で一通りできれば目標の明確な内科専門医になれるのではないだろうか? まずは感染症や総合内科の問題を解きながらそう思った。
もう10年近く前になるだろうか。私が総合内科専門医試験を受験したときのことだ。日常診療の合間で試験勉強する時間も確保できず,当時あった赤と青の問題集のうち,自分の苦手な神経や循環器などの分野だけをなんとか目を通し本番に臨んだ。
結果的には合格できたものの,試験後の感想としては全く手応えがなかったことを覚えている。
さらに,その試験の問題を通じて,総合内科専門医とはどういうものかが,全く見えなかった。消化管内視鏡ができて,心臓カテーテルもできて,骨髄移植をできる医者なのか? そのような医師をめざしているかのような問題がたくさんあった。
本問題集は目標が明確だ。総合内科専門医の試験目的ではあるものの,本来の総合内科専門医とはこうあるべきだと,それに必要な知識,判断力を試す問題が多くを占めている。
感染症領域では,専門性の高いHIVの抗ウイルス療法(ART)には一切触れられていないが,HIV患者をいかに診断するか,そしてそのヘルスメンテナンスや感染予防についての知識を問う内科医なら知っておくべきよく考えられた問題を通して最新の知識を効率的に学ぶことができる。
総合内科専門医をすでに取得されている医師も,良いトレーニングになるだろう。そして,私も勉強せねば。そうやる気にさせてくれる問題集である。
さて,最後に1つ注意点を挙げたい。もしかしたら,本問題集は総合内科専門医試験の対策には正直心配な点がある。それは問題作成者の日本スタンダードだ。拙著の『感染症プラチナマニュアル』(MEDSi)のAmazonでのレビューに,「細菌性髄膜炎の経験治療はカルバペネムだろ! 本書籍を盲信しないほうが良い」と酷評いただいた。しかし,本問題集の肺炎球菌による細菌性髄膜炎の経験治療の正解はプラチナマニュアル同様にバンコマイシンとセフトリアキソンである。
日本の大人の事情を考慮しないと危険かもしれない。
最後に本来の総合内科専門医試験が,本書の著者陣のように現場の臨床を知る臨床家により作成されることで,社会的ニーズに合った総合内科専門医が量産されることを願ってやまない。
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