医学界新聞

FAQ

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

寄稿 髙橋 誠

2021.06.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3424号より

 臨床研修のオンライン評価記録ツールとして利用されてきたEPOCが,2020年度よりEPOC2にバージョンアップされました。臨床研修制度の見直しに伴い,2020年度から臨床研修の評価方法が変わったためです1)。従来のEPOCは「オンライン卒後研修評価システム(Evaluation system of POstgraduate Clinical training)」でしたが,現行のEPOC2は「オンライン臨床教育評価システム(E-POrtfolio of Clinical training)」と名称が変更されています。

 EPOC2では経験症例や基本的臨床手技の到達度を細かく記録できる他,さまざまな研修活動が記録できるなど,ポートフォリオ機能が強化されています。新しくなったEPOCが今後,卒前の臨床実習で「卒前学生医用オンライン臨床教育評価システム(Clinical Clerkship E-POrtfolio of Clinical training:CC-EPOC)」として2021年8月から利用可能となる予定です。

 そこで本稿では,CC-EPOCの運用開始に当たり,概要と利用方法,臨床実習に臨む学生医(Student Doctor)と教員が行う内容について紹介します。

 CC-EPOCは,卒前教育の後半に行われる診療参加型臨床実習(Clinical Clerkship:CC)の評価をオンラインで記録できるツールです。卒後の臨床研修で利用されているEPOC2と同様に,学生のスマートフォンからも入力可能で,UMIN(大学病院医療情報ネットワークセンター)のIDでログインして利用します。

 CC-EPOCは2021年後半からシステム運用が開始される予定です。収載された評価項目は「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の臨床実習の到達目標2)に準拠しています。臨床推論で経験すべき37の症候・病態,臨床実習で学生を信頼し任せられる役割(EPA)や基本的臨床手技の到達度などが記録できるようになっています。今後,導入の準備が整った大学の臨床実習で順次利用される見込みです。

CC-EPOCは,卒前に行われる臨床実習の評価をオンラインで記録できるツールです。EPOCからEPOC2へのバージョンアップに伴い,CC-EPOCは2021年度後半から運用がスタートします。


 各種実習評価の入力です。に示す通り,学生医は教員・医師から能力評価を受けるとともに,自身で記録した経験内容を教員等に確認してもらいます。一方で学生医側も,教員・医師の指導力を評価できます。

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 CC-EPOCで学生医と教員等が入力する内容

 診療参加型臨床実習の各科ローテーション終了時に入力するのは,到達目標(「診療の基本」「臨床実習で学生を信頼し任せられる役割(EPA)」)の達成度です。ここで学生医は自己評価を,教員は学生医の評価を入力しましょう。加えて学生医は,経験した臨床推論(37症候・病態)を必要時に随時入力してください。

 学生医から確認を依頼された教員はそれらを確認して承認します。学生医は基本的臨床手技の到達度を自己評価して随時入力しましょう。教員も学生医の手技を現場で評価して随時入力してください。教員は必要時や学生医からの依頼時にMini-CEX(簡易版臨床能力評価)やCbD(症例の担当に関する評価)を実施し,学生医の評価を入力します。評価を基に学生医はフィードバックを受け,次の学修課題を入力してください。

 その他に,学生医は振り返りの記録や講習会/研修会受講記録,学術活動記録などさまざまな実習活動を記録することができ,臨床実習のポートフォリオとして活用できるのもCC-EPOCならではの特徴です。

 CC-EPOCの操作方法はEPOC2と同様です。臨床研修の指導医・上級医としてEPOC2を利用している教員は,あらためて操作方法を覚える必要はありません。学生医としてCC-EPOCを利用する学生医は,卒後の臨床研修で同じようにEPOC2を操作できるメリットがあります。

学生医は臨床実習評価を入力し,教員も学生医の評価を随時行います。学生医はCC-EPOCに蓄積された活動の記録をポートフォリオとして卒業後も活用できます。


 CC-EPOCでは評価尺度が卒後の臨床研修につながるように設定されています()。そのため,臨床実習から臨床研修にかけてシームレスに評価することが可能になります。学修を進める中で学生医は,CC-EPOCに記録された自分のそれまでの実習評価データを振り返ることができ,次に何を学ぶべきか学修目標を明確にしやすくなります。

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 卒前・卒後の一貫性が図られたCC-EPOCとEPOC2の評価尺度

 一方の教員は,学生医のそれまでの経験症例や基本的臨床手技の到達度を容易に把握できるようになることから,不足している症例を担当させたり,学生医の技能レベルに応じた課題を与えたりなど,適切な指導を実施しやすくなります。

 さらに中長期的には,シームレスな連携評価によって,①重複のない効率的な臨床実習と臨床研修の計画・実施,②到達度に基づく効果的な臨床実習と臨床研修の制度設計が可能となり,学生や研修医の基本的な診療能力を効率的に高めることに貢献すると期待されます。

卒前・卒後のシームレスな評価,ならびに,振り返りと到達度の把握に基づいた適切な課題の学修が可能になります。

 卒前の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」と卒後の「臨床研修の到達目標,方略及び評価」の到達目標は既にほぼ一貫しています。臨床実習・臨床研修のシームレスな評価・学修履歴の記録もEPOC2によって可能となりました。その中の卒前臨床実習のシステムに位置付けられるのが,CC-EPOCです。

 卒前の診療参加型臨床実習と卒後の臨床研修は,診療チームでの役割や実施する医療手技などで期待されるレベルに違いはあるものの,診療現場での実地教育という方略には違いがありません。今後共用試験(CBT・OSCE)が公的化され,学生医が法的に位置付けられれば,学生医が診療参加型で臨む臨床実習はさらに促進されると考えられます。そこにCC-EPOCとEPOC2で一貫した評価が可能となれば,目標,方略,評価の全てが卒前・卒後で一貫したものとなります。

 さらにCC-EPOCおよびEPOC2では,学生医や研修医として何を学修しどのように成長してきたかを振り返ることができるため,医師の生涯学習につながるポートフォリオとして活用されることが望まれています。

 臨床教育が卒前から卒後へシームレスに連携されることで,個々の到達度に基づく効果的で効率的な医師養成の実現が期待されます。


1)厚労省.医師臨床研修指導ガイドライン――2020年度版.
2)モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会, モデル・コア・カリキュラム改訂に関する専門研究委員会.医学教育モデル・コア・カリキュラム――平成28年度改訂版.p134-76.

北海道大学大学院医学研究院 医学教育・国際交流推進センター 統括副センター長 教授

1992年東京医歯大卒。同大病院,九段坂病院,諏訪中央病院等で整形外科医として勤務。2009年に医学教育に転身し,東京医歯大臨床医学教育開発学分野講師,19年より現職。国立大学病院長会議EPOC運営委員会の委員としてCC-EPOC開発に携わる。

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